第27話 対応
さて、石鹸作りと流行り病対策を命ぜられた志木。
「では、心強い仲間を紹介しましょう。困ったときは、彼女に頼みなさい」
そういって扉の向こうにいる衛兵が、扉をリズムよく数回叩く。
すると、扉が開いて誰かが入ってきた。
「厚生局長のミチェットだ」
志木は思わずずっこけそうになる。
「なんだ? またお前かって顔しているな?」
「いえそんなことはありません」
志木は必死に取り繕う。
「まぁいい。今後は私が最終的な窓口になる。直接的な窓口なら部下のアイツに頼め」
ミチェット局長は後ろにいた男性のことを指す。
「どうも、カロンです。事務作業からお手伝いします」
「あぁ、どうも……」
志木はカロンに頭を下げる。
頃合いを見て、ミチェット局長が言葉を続ける。
「カイトたちが所属する事務所は、厚生局の建物の一室とする。まぁ、今空いてる部屋なんぞ、薄暗い物置部屋くらいしかないだろうがな」
(嫌味かな?)
発言の裏を読もうとする志木。しかしそんな高等な技術を使えるわけもなく、結局疑心暗鬼になるだけだった。
「では、そのようにしましょう。本日はこれで問題ありませんね」
異議はなかった。
室内にいた志木らが、部屋の外に出る。
その時、国王エルシャはルーナのそばに行き、何かを話す様子を見せる。ルーナはそれを拒むことなく、和気あいあいと話しているようだった。
それを横目にしながら、志木は部屋を後にするのだった。
「おい、カイト」
体がビクッとなる志木。後ろからミチェットが声をかけてきたのだ。
「どうした? 驚くことなんてないだろう?」
「いや、普通は驚きますって……」
「それは置いといてだな。厚生局へはどうやって行くか理解しているか?」
「あー……。いや、分かんないです」
「そうか。それならルーナと一緒に来るのがいいだろう。ルーナならこの辺の地理は分かっているからな」
そういってミチェットは、志木の前を歩いていく。
そこに遅れてルーナがやってきた。
「お待たせカイト。ミチェット局長と何か話してた?」
「あぁ。厚生局までの道のりは分かるかって話してた。で、分からないから、ルーナと一緒に来るようにって言われた」
「そう。しばらくは駐屯地と厚生局の行き来になると思うわ。そこまで遠くないから、すぐに覚えられるはずよ」
(それよりも、厚生局に寝泊りする可能性がありそうなんだよな……)
大学一年生の時、授業の課題が終わらなくて演習室に寝泊りしたのはいい思い出だ。
「とりあえず、まずは厚生局の部屋を見に行くか」
「そうね。どこの部屋になるのかは把握しておかないとね」
「その前に着替えておきたいな」
いつまでもパリパリの正装をしているわけにもいかない。志木たちは一度駐屯地に戻り、いつもの服装にに着替えて厚生局に向かう。
受付に志木の名前を出すと、すぐに局長室に案内された。
「早速来たな。部屋の準備はまだ出来てないぞ」
「ですよね……」
「まぁせっかく来たのだから、何か一つ仕事でもしていきたまえ。底のソファーにでも座ってくれ」
言われるがまま、志木とルーナはソファーに座る。
「さて、カイト。貴様の知識で構わない。現在の流行り病を抑える方法を教えてくれ」
「簡単です。手を洗って、マスクしてください」
「手を洗うのは分からなくもないが、マスクをするというのはどういうことだ?」
「マスクは口と鼻を布で塞ぐものです。この布のおかげで、ウイルスの飛散を防ぐんです」
「ういるす……?」
ミチェット局長は疑問を浮かべる。
「あー……。つまり、流行り病を発症する瘴気のようなものです。マスクは、全ての人間が流行り病に罹っている前提で、自ら瘴気を飛散させるのを防ぐんです」
「ほう……。マスクは自分のことを守るためのものだと思っていたが……」
「もちろん、その効果もあります。ですがお互いマスクをしていれば、仮に相手が流行り病に感染していたとしても、自分が感染する確率を下げる事が出来ます」
ミチェット局長は、納得したという顔をする。
志木の流暢な話に、ルーナはビックリしていた。
「カイト、そんな知識あったのね……」
「いや、普通に毎日ニュースやってたし、それの受け売りみたいなものだよ」
「ふーん……」
ミチェット局長は、志木の話を簡単にまとめる。
「なるほど。お互いマスクをすれば、流行り病の拡大を防ぐことが出来ると」
「そうです」
「ならマスクを量産するように指示を出さなければな。ちなみに、マスクはこういうもので問題ないか?」
そういってミチェット局長は、机の引き出しからマスクらしきものを取り出す。
いや、それはマスクらしいものではなく、布そのものであった。
「……ッスー……」
「なんだ? 問題でもあるか?」
「いえ、ただの布でも感染対策に使えるのですが、もうちょっと効果的な形状がありまして……」
結局この後は、マスクの形状を伝えるのでいっぱいいっぱいであった。
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