第26話 任命
国王エルシャを先頭にして、宮殿内を移動する志木たち。
すると大広間のような場所へと案内された。
「カイト様はこちらへ」
従者と思われる人に行先を指示される。その指示通りに移動すると、部屋のど真ん中に案内された。
(え、ここ?)
内心焦っている志木をよそに、国王は一段高くなった場所に登り、志木の方を振り返る。
そして従者から剣のようなものを渡され、それの剣先を志木の方に向けた。
「今ここに宣言する。異世界人シキカイトを、我がユーエン王国の大使として守り抜く。我々は安全と安寧を、大使は技術と繁栄を。我らは共に歩むことを誓う」
(なんか壮大な話になってきたな……)
表情には出さないが、内心悪態をついている志木。
「国王エルシャ・ミカエルドの名において、シキカイトを大使として認める」
そういって国王エルシャは剣を下ろす。
そしてこれで志木は気が付いた。
(あこれ信任状のない信任状捧呈式だ。俺外交官として出席してるのかぁー)
志木はそんな呑気なことを考えていた。そんなことを考えている間に、式典は終了する。
「それでは、この後のことを話していきましょう」
国王エルシャは、志木に言葉をかける。志木はそばにいた従者にアイコンタクトをするが、国王についていけという視線を貰った。
(ガッデム。対応を間違えれば社会的に死ぬ)
志木はコンマ数秒で思考し、最適解を出した。
「そうしましょう、エルシャ国王」
国王エルシャは、そのまま大広間を出ようとしていた。志木は空気を読んで、国王の後ろを歩いていく。それに合わせて、ルーナや従者が一斉に移動する。
再び宮殿内を歩き、今度は少し小さい印象を持つ部屋に案内された。
中にいた従者が志木を席に案内する。国王エルシャは一番奥にある椅子へと座った。ルーナも椅子に座る。
「まぁ、楽にしてください。この部屋では、今後のカイト殿の活躍の仕方を検討する場です。カイト殿のしたいこと、やりたいことを忌憚なく話してください」
「……本当にいいんですか?」
「えぇ。この部屋での話し合いは、原則非公開になってますので」
(閣僚会議みたいだな……。だけど、国王と話が出来る絶好の機会でもある……! 色々言いたいことがあるけど、まずは……)
そういって志木は、思い切って言ってみることにした。
「まず、石鹸製造の許可をください」
「石鹸ですか……。確かミチェット厚生局長が要請していましたね」
「石鹸の製造は、海辺の街が独占していると聞いています。しかし、技術が一ヶ所に留まっているのは危惧すべき事態です。どうにか許可を貰えないでしょうか?」
「なるほど……」
そういって国王は考える。
「カイト殿は海辺の街と言いましたね?」
「はい」
「その海辺の街はどこの国の所属だと思いますか?」
「ユーエン王国ではないのですか?」
「えぇ。ちょうど石鹸が作られている一帯を統治しているのは、隣国のエビント王国です。統治している国土は小さいながらも、交通の要所として栄えています。東西からやってくる商人を相手にして戦い、そして価値地づけているのです」
(なんかイスタンブールというか、コンスタンティノーブルみたいな話だな)
「我が国はエビント王国から、石鹸を買うように外交的な圧力をかけられた経緯があります。商売と石鹸を売りにしている国ですから、これに屈した形になります」
「はぁ……」
「今、エビント王国に石鹸の輸入を減らすと通達すれば、報復を受けることでしょう。軽くても石鹸の販売停止。悪くて戦争勃発といった所でしょうか」
(んな大げさな……)
「大げさかもしれませんが、これが現実なのです。もし戦争になった場合、カイト殿はその責任を取ることが出来ますか?」
「それは……」
志木は言葉に詰まる。
自分の欲望を叶えようとすると国がひっくり返るなど、想像しようがないからだ。思わず視線が下に向かう。
その様子を見た国王エルシャは、言葉を続ける。
「ですが、先ほど宣言したように、私たちは大使であるカイト殿を守る責務があります。そのためには、多少の犠牲は仕方ないと考えています」
その言葉を聞いた志木は、思わず視線を上げた。
「……それって」
「私たちも戦う覚悟があるって事ですよ。それに、カイト殿がそこまで石鹸のことを言うのならば、それは人間に対して有益であることの証左です。ぜひとも、我が国で石鹸を作ってみましょう」
石鹸製造の許可が、今まさに下りたのだった。
「あ、ありがとうございます!」
「礼には及びません。私自身、今まさに発生している流行り病のことも心配しているのです。もしカイト殿の助言で国民の命が救われるのならば、全力でサポートします」
「分かりました。よろしくお願いします」
こうして国王エルシャより、石鹸製造と流行り病の対策を行うように命じられた。
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