第22話 王都

「とりあえず、自分は何をすればいいんです?」

 志木がミチェットに聞く。

「まずは一緒に厚生局に来てもらおう。それから元老院に話を通して、さらに国王陛下にも聞いてもらわないといけないな」

「その様子だと、すぐに話が終わりそうにないですね……」

「まぁ、そうだろうな。異世界人の存在は色々と厄介なものだ」

「そうなれば、彼は一人でこの国を転々と移動することになる。その道中は同情するほど寂しいものになるだろう。その他の事情も鑑みて、ルーナは彼についていきなさい」

 そうリアードが言う。

「分かりました」

 ルーナの口調から、少し嬉しそうな感じが伝わってくるだろう。

 ミチェットは席から立ち上がり、身なりを整える。

「そろそろ厚生局に戻らないとな。今回の用件と聖水の件、それにカイトと石鹸のこともある。関係各所にも通達を出すために、一足先にブルエスタへと戻っているぞ」

 そういってミチェットは応接室から出る。

「……ブルエスタってどこ?」

 志木は小声でルーナに聞く。

「国王陛下の宮殿がある場所、つまり王都のことね」

「なるほど」

 志木は納得する。

「では、カイトとルーナもブルエスタに出発する準備をしてくれ。執事長は準備の手伝いを」

「かしこまりました」

 こうして、あれやこれやと準備が整っていく。

 数日後。準備が出来て、いよいよ出発の時がきた。

 リアードが見送りに来る。

「では、よろしく頼むぞ。ルーナ」

「はい、お父様」

「カイトよ、頑張りたまえ」

「はい」

 こうして、ブルエスタに向けて出発する。

 道中は特にこれといった出来事はなかった。なんとも治安のいい国である。

 こうして馬車で2日。ブルエスタの近くまでやってきた。

 ブルエスタは大きな城壁で囲まれた都市ではなく、少し丘になった場所を開拓して出来たようである。

 丘の麓には運河が存在し、そのそばに出来た都市のようだ。

 大きな城壁はないが、小さな城壁が区画を区切るように存在する。現状はこれが都市防衛として機能しているようだ。

 ブルエスタの郊外に入り、しばらく進んだところで城門が見えてきた。そこで検問を受ける。特に志木たちが質問を受けるようなことはなかった。

「お嬢様、ブルエスタに入りました」

「分かったわ。そのまま厚生局の庁舎までお願い」

「かしこまりました」

 そのまま10分ほど街中を走り、馬車は止まった。

「お嬢様、厚生局に到着しました」

 馬車から降りると、目の前には大きな建物がそびえたっていた。周囲を見渡しても、同じように建物が巨大である。

(ローマ帝国末期くらいの科学技術で、5階以上の建築物が建設出来るんだなぁ。いや、コロッセオとかあったし出来なくはないか)

 そんなことを考えていると、建物の中から出迎えが姿を現す。

「ルーナ・ハシャリお嬢様。よくおいでになりました。そして異世界人の方も」

「あ、どうも」

「お出迎え感謝します。早速ですが、ミチェット局長の所まで連れて行ってもらえますか?」

「承知しました。こちらへどうぞ」

 そういって建物の中に入る。階段を登り、4階へと向かう。そのまま廊下を進み、とある部屋の前へと通される。

「ミチェット局長、ルーナ・ハシャリ様と異世界人の方がお見えになりました」

「通してくれ」

 扉が開き、中に入る。

 執務室のような部屋の中に、ミチェット局長が待っていた。

「よく来たな。挨拶は省く。すぐに仕事の話をしよう」

 ミチェットの前に並ぶ志木とルーナ。そのまま今後の予定について聞かされる。

「まずは石鹸の製造についてだが、内務局と経済局に話を通して特別な許可を貰うことが出来た。おそらく国内から反発を食らうだろうが、まぁなんとかやってくれ」

(思った以上にテキトー……)

「それに合わせて、教会側に聖水の正しい使い方を指導する。根拠となる文献から、要点を抜き出した文書を作成した。ルーナはそれを教会側に押し付けて、徹底的に指導するようによろしく頼む」

「分かりました」

「まぁそう肩の力を入れるな。こういってはなんだが、今回の貴様らの役割はいわば役者だ。急を要する政策の旗振り役として存分に目立ってほしいからな」

(ウーン、これは面倒な役を引き受けてしまった気がするぞ)

 そんなことを志木は考える。

「それに、新しい異世界人が来たということで、それの公表も行う。これも内務局の担当だから一緒に何か言われるだろう。今日は以上だ」

 そういって執務室から出る。

 実際のことは翌日から始まるため、今日はこのまま宿に泊まることになった。

「なんだがやることが多くて困ったな」

 志木は手元のメモ帳に、自分のやることをメモする。

 言われたことは、石鹸の新規製造のための許可貰い、それと異世界人としての公表である。

「本当にやっていけるか心配になってきたな……」

「カイトなら大丈夫だよ。それにアタシもいるし」

「うん。まぁ、そうね……」

 ルーナがいるなら、なんとか出来るだろう。

 そんなことを思っていた時だった。

 前方から一瞬閃光が見えた。

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