第17話 経過

 翌日。

 志木は目覚める。久々に気持ちのいい目覚めだ。

「うぅん……。なんかめっちゃ寝られた気がする」

 そういってベッドから降りる。

 すでにルーナは起きており、身支度を整えていた。

「おはよう、カイト。今日はギルドに顔を出さないと行けないから、お昼まで出かけてるね」

「分かった」

 そういってルーナは、荷物を持って部屋を出る。

「さて、今日はどうするかな……」

 そういって志木は部屋の中をグルリと見渡す。

 とりあえず軽く朝食を取ることにした。パン一切れにバターのようなものを乗せ、それを頬張る。美味いとも不味いとも言えない、ごく平凡なパンだ。

 パンを食べている途中に、志木は一つ思い出したことがある。

「そうだ、パンの様子でも見ておかないと」

 先日、浮浪者たちに手伝ってもらった石鹸の実験だ。連絡先などは貰ってないから、追跡調査は不可能である。

「まぁ、手を洗ってもらった時には痛みとか肌荒れとかしてなかったようだし、このままでもいいか。今は石鹸の効果の確認が最優先だ」

 そういってベッドの下に入れていたパンたちを日の当たる場所に移動させる。

 合計12枚のパンを並べてみた。パッと見の違いは特に見られない。

「そりゃそうだよなぁ。2、3日しか経過してないし」

 だが、もしもの事がある。志木はパンの隅々まで見てみた。

 すると、パンの中心部分。ほんの小さな穴の中に黒い点を発見する。

「これは……?」

 カビかとも思ったが、志木はその可能性を否定する。

「いやいや……。小麦粉を製粉した時にたまに出る黒い斑点みたいなもんだろ……」

 そういって他のパンもじっくりと観察する。

 すると、先ほど見かけた黒い点が複数あるパンを発見する。しかもその斑点は、パンの穴に比べてかなり大きい。

「まさか……、本当に?」

 志木自身も信じられないが、たった数日でカビが生えてきたのだ。そのパンはメモによると、石鹸を使う前のパンだった。

 志木はすぐに、石鹸を使った後のパンと比べる。使った後のほうのパンをマジマジと見ても、カビのようなものは特に見当たらなかった。

「マジか……。本当に効果あるんだな……」

 これで、志木が作った石鹸には効果があることが実証された。

「これであと数日も置いておいたら、ちゃんとした差が出てくるでしょ」

 そういってパンをベッドの下に置こうとした。

 その時、部屋の扉が開く。そこにはルーナがいた。

「あ、ルーナおかえり。意外と早かったね」

「ねぇ、カイト。カイトはアタシの願いって聞いてくれる?」

 少しトーンが下がったような口調。志木はそれを聞いて、ただ事ではないことを察した。

「……そうだねぇ。俺に叶えられるくらいの願いだったら、なんでも聞くよ」

「そう……。なんでも、ね?」

 その言葉に、志木は少し後悔した。

(マズい……、なんでもって言ってしまった……! 言質取られて過酷な労働に処されるかもしれない……!)

 呑気にそんなことを考える志木。

 ルーナは口を開く。

「じゃあ、一緒に実家に来てくれない?」

「……ぬぇ?」

 思わず変な声を出す志木。女の子が家に来てほしいと言い出すとなると、やることは決まっている。

「ま、まさか俺のことを家族に紹介するって……?」

 志木は少しばかり声が震える。

「いや、そうじゃないんだけど……」

 ルーナは少しモジモジする。

「ちょっと、ここじゃ言いづらい複雑な事情があって……」

「はぁ……」

(なんか、あーだこーだ言っても女の子なんやなぁ……)

 何か父性のようなものを感じる志木。

 だが、すぐに頭を切り替える。

(女の子が困っているんだ。助けを必要としている。男なら助けを求める人に手を差し伸べるべきだ!)

「まぁ、ルーナの事情は聞かないでおくよ。俺でいいなら、一緒についていくし」

「ホント? ありがとう……」

 ルーナは小さくはにかんだ。

 その表情に、志木は少しドキッとする。

「と、とにかく! どこに行くのかは知らないけど、準備はしなくちゃな」

「あ、その辺は大丈夫。向こうから迎えが来るから」

「え? 迎え?」

 志木は思わず聞き返してしまった。

「迎えが来るってどういうこと?」

「そのままの意味だけど……」

(それって家が裕福な証拠では……?)

 少し混乱が残っている志木。

「迎えは今日の夕方くらいに来るらしいから、それまでに準備しないと」

 そういって部屋に散らばっている荷物を片付け始める。

 志木も荷物の片づけを始めた。

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