第3話 村
それから彼女の家に、若い男のエルフたちがやってきて、何やら話をしている。
それが終わると、彼女は志木の元に事情を話す。
「どうやら、村長さんがかなり怒っているようなので、早めに治療を終えるようにと言われてしまいました……」
「そうですか……。しかし、全身に痛みがあるので、これ以上の治療のしようがないような気もしますけど……」
「治療の方法はあります。ただし、すごい疲れるのです」
「それって、まさか魔法ですか?」
「それ以外にあります?」
志木の言葉に、彼女は若干困惑する。
(この世界では、魔法は普通なのか。要らぬことを言ったな)
そんなことを思う。
「そういえば、まだ自己紹介をしてませんでしたね。私はカトゥル・リーナです」
「志木海斗です」
「カイトさん。これから私の魔法で治療します。少し痛むかもしれませんので、我慢してください」
「ウス……」
リーナは、志木の体に手をかざし、一呼吸置く。
『我ら崇高なるエルフの名において、彼の体を修復させたまえ』
今まで普通に聞こえていた言葉とは異なる言語。志木の耳には、まるで一人の口から二つの異なる言語が同時に発せられたように聞こえる。
すると、リーナの手から魔法陣のようなものが、何もない空中に展開される。
(これが、魔法……?)
それに合わせるように、志木の体に鈍い痛みが走る。
「ぃいぃぃぃ……!」
「我慢してください。その痛みが、魔法が効いている証拠です」
(この痛み……、例えるならインフルエンザでダウンしている時の関節痛と筋肉痛のような感覚だ……!)
なんとも絶妙な痛みに耐えている志木。
それから数分ほどで解放される。
「これで全身の痛みはだいぶ解消されたはずです」
「……あ、本当だ」
ベッドから起き上がり、腕や体を回してみる。特に強い痛みなどは感じられない。
「これなら明日、村長の家に行っても問題なさそうですね」
リーナのほうは、少し息が上がっている。魔法を行使して疲れるのは本当のようだ。
(しかし、村長の家に行ったとして、何を話せばいいんだか……)
志木に一抹の不安が残る。正直なことを話したとして、それが完全に受け入れられるのかは分からない。
だが、嘘の話をしたところで、おそらくどこかで綻びが出る。
(なら最初から正直に話したほうがいいよなぁ……)
志木は覚悟を決めるのだった。
翌日。
日が昇ったころに、志木はリーナに連れられて村の中を移動する。エルフだからツリーハウスというわけではないようだ。普通に地上に家が建っている。
その村の奥の方、鬱蒼とした森の入口に立派な家が建っていた。
「ここが村長の家です」
リーナは、村長の家の扉をノックする。
すると中から屈強な男性のエルフが出てきた。
「リーナです。例の方を連れてきました」
「入れ」
そういって中に入る。リビングには、高齢の男性が座っていた。
「紹介します。この方が村長のククビさんです」
ククビと呼ばれた高齢男性が志木の方を睨む。
すると志木は、そばにいた男性に肩を捕まれ、無理やり床に座らされる。
「貴様、自分の立場を理解しているのか!?」
「え、ちょ、ま……」
「頭を下げろ!」
そういって髪の毛を捕まれ、顔を床に押し付けられそうになる。
(マズい! このままでは汚い床に顔面が!)
志木は腹筋と背筋に力を入れ、床に顔面が直撃する直前で顔を止める。
「こいつ……!」
「別によい」
村長が諫める。男性エルフは仕方なく、志木から離れる。
「……君、名前は?」
「志木海斗です」
「カイト君、率直に聞こう。あの森で何をしていた?」
村長のギラリとした目が、志木に向く。
(ここで嘘をついても仕方ない……。正直なことを話そう)
「自分は、あの森で遭難してました」
「遭難、だと?」
「はい。信じられないかもしれないですが、自分はこの世界とは違う世界から来ました」
「別世界の人間、ということか?」
「そうです」
村長は、志木の話を聞いて少し考える。
「……聞いたことがある。異なる世界より来訪する者がいることを」
「おやっさん、まさかこいつがその来訪者ってことッスか?」
「本人の話を聞く限りでは、その通りであるとしか言いようがない」
(ん? なんか話がスムーズに通ってない?)
志木は若干困惑する。
空気的には、最悪の状況を脱したという感じだろう。
「そうか。来訪者というならば、話は別だ」
村長は少し優しい顔をする。
「よく生きていたな。あの森は危険な生物もいて、命の危機に晒されてもおかしくはなかったのに」
(そんなヤバい森だったの?)
志木は顔面から血の気が引いていく。
「しかし、だからといっていつまでもこの村にいても良いというわけではない。あくまで体の治療が終わるまで、この村の滞在を許そう」
「あ、ありがとうございます……」
こうして志木は、エルフの村にてしばし滞在することになった。
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