48. 試合終了
川貴志の歓声が降りしきる。二階の応援団もベンチの選手もハイタッチを交わし、抱き合い、喜びをわかちあう。コート上の選手も勝利の喜びをはじけさせたあと、思い出したように試合終了後の整列に向かう。
決まれば逆転勝利となった舞のシュートはブザー後のシュートとみなされ得点は認められなかった。
見間違いではなかったのだ。
ブザーとシュート、どちらが先かはそこまで見極めづらいものではなかった。
だからシュートだけは決まったあの場面。本来ならば審判の判定を確認するより先に喜びが爆発し舞に駆け寄り、ベンチからも歓声が上がるはずなのに、御崎は誰一人として衝動に駆られる者はいなかった。
川貴志もおそらくはノーカウントだとわかっていたはずだ。しかし確信が持てず判定が下る瞬間を待っていたのだろう。もしかしたら……、と。
整列し両チームの選手がセンターラインを挟んで向かい合う。
主審が手のひらを広げて川貴志側を示した。
「九十三対九十一。川貴志の勝ち」八十六対八十四 第三、六十八―六十
礼をしたあと川貴志はくすぶらせていた喜びをひとしきり燃え上がらせる。
中学最後の大会で負けたときと同じような光景。
悔しいとかそんな単純なものではない感情が渦巻く。
あのときは負けてほっとしていたのに、今はラストプレーの判定が誤審でも何でもいいから勝ちたかったとさえ思っている。
そもそもあのとき……。
胸がキュッと絞めつけられた。
残り十九秒からのオフェンスでつかさにアシストパスを送ったあの場面。最初のパスを躊躇していなければ……
結果的に時間のロスに繋がったプレーなどというものは他にもいくらでもある。もちろん遥以外の味方にも。だからそんなことを言い出したらキリがないとわかっていながらも、あの場面に関しては悔いずにはいられなかった。
遥たちはすごすごとベンチに向かった。
杏がコートに立っていたメンバーを一人ひとり迎える。
遥の背中に杏が手をやった。
「お疲れ」
「すみません、私が」
「そんなの言い出したらあたしなんて……」
「あ」
「いい? あたしたちはチームで負けたの」
「はい」
遥の頭をトントンと叩き、杏は早琴のもとへ。
「とりあえずベンチの荷物片付けて外で集合しよう」
岩平はそう指示し自らはもなかを運び出す。
コートには次に試合をするチームの選手がなだれ込む。これから挑む試合に向け、選手たちは士気を一層上げていく。
コートが真っさらになったようだった。
どちらが勝つのか。どんなドラマが生まれるのか。まだ何もわからない空白の状態。彼女たちの試合はこれからなのだ。
自分たちの試合は終わった。この結果はもうどうやっても覆らない。がんばることもできない。
遥はウォームアップをする選手たちを羨ましく思った。
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