41. もう一人のスコアラー
ぬるま湯に浸かりすぎて鈍ってるんじゃない?
点を許しはしたが、まさか本当に動きが鈍くなってるなんて。
挑発で言ったことが事実だったことでれのは複雑な気持ちになった。
だけど錆びついているわけじゃない。調子も悪くなさそう。すぐに手がつけられなくなりそうな気がした。
「さ、一本返すわよ」
キャプテンがボールを持って上がる。
御崎のディフェンスはハーフコートマンツーマン。
れののマークにはつかさがついた。
「さすがね」
本調子でなくとも苦しめのショットをきっちり決めてきた。れのは素直な感想を口にした。
「地区予選も一人で点取って勝ち上がってきたの」
「いろいろよ」
長年の付き合いから嘘ではなさそうだと判断できた。
まさか一回戦で当たるとは思っていなかったから、つかさチームの情報はほとんどない。部員の半数が一年であることから急造のワンマンチームだろう程度に考えていたが、もしかしたらそう単純なチームではないのかもしれない。
試合前のアップを見ていた感じ、四番は結構できそうな雰囲気があった。場合によってはディフェンス面でのプランを変更する必要がある。
ともあれ、まずは自分たちの攻撃に集中する。
川貴志でれのはオフェンス・ディフェンス双方でエースという立場になっている。バケモノに囲まれてプレーしていたれのからすると少なからずむずがゆくはあったが、チームが変われば役割も変わると割り切り、ここ最近はエースの自覚を持ってプレーできるようになってきた。
だからといって相手の
セットプレーから味方がシュートを決め、同点とした。
さあ次はどうくる、つかさ。
パスを受けたつかさは迷わずドライブ。れのはなんとか反応しコースに体を入れる。
体が接触する。予想とは異なる軽い感触。つかさが肩で衝撃を受け流していた。横向きになり足とボールを前に突き出す。衝突の力を利用された。つかさはれのをかわすとそのまま淀みなくフィニッシュまで持っていった。
コースに入っただけで油断した。
鈍ってるのはお互い様ってことね。
その後同点に追いつき御崎の攻撃。
ゆったりドリブルしながらつかさが人差し指と小指を立てた。
トップにつかさ、ハイポストに二人、左右のコーナーに一人ずつが位置取る。ホーンズセットを敷いてきた。
「れの、スクリーン」
五番がれのの右側の進路を塞ぎにきた。
「OK」
れのは五番の前を通ってつかさのマークを継続する。
つかさの実力については対応策を含めてチームで共有していた。ここから先はそう易々と一対一の状況は作らせない。
杏をマークしていた味方は杏を無視し、れのとのダブルチームでつかさにプレッシャーをかける。
ノーマークとなった杏は、ハイポストにいたもう一人――舞のもとへ。
舞は杏のスクリーンを使ってトップへ。そこへつかさがすかさずパスを送る。舞はスムーズなキャッチからシュートへと繋げる。
3ポイントシュートが決まった。
力みのない滑らかなワンハンドシュート。何よりデザインされたプレーであったことから、
「四番へのチェック怠らないようにしましょう」
キャプテンがコートに立つ味方に注意を促す。
「ナイスパス」
「シュート!」
キャプテンを起点にうまくパスが繋がった。
二点もらったと思いきや、しかしゴール下で杏のシュートブロックにあった。ルーズボールは敵の手に。御崎は早い切り替えでボールを前へ送る。れのは走った。
「ハリーバック!」
監督が早く戻れと声を飛ばす。
味方の戻りも間に合い速攻は防いだが、息つく暇はなかった。
コーナーから3ポイントラインに沿って上がってきた舞がボールを手渡しで受けた。パサーの遥は入れ替わりでコーナーへ。
舞は
スパッと二点シュートが決まる。
「ええっ」
二階で観ていた他校の選手たちが驚嘆する。
「今のストップえっぐ」
れのの見立ては間違っていなかった。
にしても、ここまで動けるのは誤算だったわ。つかささえどうにかすれば勝てるなんて考えは甘かった。
舞の得点は止まらない。
第一クォーター五分を経過して、ミドルレンジでフリーとなった舞にパスが回った。シュートの構え。近くにいたれのがローテーションしてプレッシャーをかけるも、チェックの上から二点を沈められた。
高い打点、素早いリリース、淡々とそして飄々と決めてくる。チェックにこようがボールの前のスペースを確保できていれば関係ないというように。
速くて高くて上手い。
これは相当厄介ね。つかさ並のスコアラーと考えなければいけないかもしれない。もちろんつかさのほうがすごいけど。
替わって川貴志の攻撃はれのが起点になった。
ドリブルで中に切り込む。ディフェンスを引きつけパスを捌いた。
外でボールを受けた味方がディフェンスのズレをついてもう一度中を崩しにかかる。シュートまでは持ち込めずパスを選択。崩して崩してかき回したことでディフェンスの連携が乱れていた。
3ポイントラインの外にいたキャプテンにフリーでボールが回る。慌てて飛び出してきた敵をシュートフェイクでかわし、開けた道を一直線に進みレイアップを決めた。
オフェンスは順調だった。ボールもうまく回っているし、一人ひとりの積極性もある。
しかしディフェンスは機能しているとは言い難い。一刻も早く手を打たなければいけなかった。
「四番へのディフェ」
ボールを持たれる前からタイトに、とれのが言葉にするより先に、コーナーへ移動した舞にボールが渡った。
シュートを警戒したディフェンスが距離を詰めたところを舞はエンドライン側にドライブ。ゴール下からヘルプが駆けつけるや、
リング手前、奥とぽんぽんと跳ね、ネットが揺れた。
審判の手が挙がっている。接触があった。ディフェンス側のファウルだ。
「カウントワンショット。ファウル、白六番」
ブザーが鳴った。
「タイムアウト、
敵全員に等しくディフェンスを割いているようでは失点を抑えられないのがはっきりした。ここからはつかさと四番以外に外から打たれるのはよしとするくらい割り切って守らないと失点を抑えるのは厳しい。
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