第1章4 総体県予選

38. 組み合わせ抽選会

 

 土曜日から三日間かけて行われた地区予選が閉会した。翌週の土曜日からは早くも本戦が開始される。


 放課後、遥たちは県予選に向け練習をしていた。


 体育館に岩平の姿はない。

 今日この日は県予選トーナメントの抽選日で岩平はその会場に出向いていた。


 千葉県のインターハイ出場枠は二校。

 試合方式は四つのブロックに別れてのトーナメント戦。各ブロックを一位通過した四校で総当りの決勝リーグを戦い、上位二チームがインターハイへの出場権を得る。


 なお決勝リーグに進出した四校――ベスト4のチームにはウィンターカップ予選の参加資格が与えられる。


 県予選トーナメントには地区予選のように敗者復活戦は設けられていない。負ければそこで終わりの一発勝負だ。たとえ第一シードである全国常連校のブロックを引き当て、同校に敗れても特別措置はない。


 インターハイ出場を狙うにもウィンターカップ予選へ繋げるにも、まずはブロック優勝しベスト4入りすることが絶対条件。

 そしてシード権を持たない御崎にとっては、どのブロックに入るかの抽選の結果如何で未来の可能性が大きく変わる。


 体育館で岩平の帰りを待つ部員たちには地区予選の抽選日にはなかった、忙しなさがあった。どうしても気にかかって練習に身が入りきらない。遥も仕切りに時計を確認していた。


「もなかいった!」

「え? うぐ!」


 舞の呼びかけに反応して首をめぐらせたもなかの顔面にボールが直撃した。


「ちょっと、大丈夫?」

「大丈夫大丈夫。ごめんちょっとぼうっとしてた」

「気になるのはわかるけど集中しないと怪我するよ」

「ほんと気をつけろよ」杏が歩み寄る。「怪我なんかしたら抽選結果どうこう以前に自分たちの首締めることになるんだから」

「うん。ごめん。気をつける」

「でもそろそろ帰ってくるか電話くれるかしないと、あたしも気になって集中できなくなりそう。ねえ舞はん、がんべー何時くらいに帰ってくんの」

「もうすぐじゃない」

「もうすぐってどれくらい。二分? 一分?」

「ちっちゃい子どもめ」

「おっきい子どもだよ」

「あっ」舞が杏の向こう側を見た。「噂をすれば」

「うわ、ほんとだ。がんべー待ちくたびれたよ」

「それでそれで、どうだったの抽選」

「第一シード」

「え……」


 息が止まった。


「とは別の、第四シードブロック」


 はぁー、と数人が息を吐き出した。


「びっくりしたー。なんでそんな紛らわしい言い方するかな」


 安堵しながらも杏はお冠だ。


「ほんとだよ。心臓に悪いからやめてよねがんちゃん」


 まだ大事なことを一つ聞いていない。最悪を免れて忘れているようだったので遥が尋ねた。


「一回戦はどこになったんですか」

「一回戦は川貴志かわきし

「川貴志かー。バスケ部あったんだ。強いの?」


 もなかだけでなく杏や舞もピンときていないようだった。


「さっき聞いてきた話だと創部二年目で一、二年だけの若いチームらしい。去年の県予選ではベスト32。今年はくじ運に泣かされてシード権こそ取れてないものの、実力はベスト8と遜色ないらしい。というのはちょっと前の話で、今大会は即戦力の一年も加わって更に強くなってるそうだ」


「いきなり強敵じゃん」

「若いチーム特有のフレッシュさと怖いもの知らずな勢いがありそうだね」

「うちも似たようなチームだけどな」


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