第10話 初めての感覚
電話の音が鳴ったのをきっかけに、閉じていた目が開いた。
見慣れた天井だった。部屋は薄暗かったが、閉められたカーテンから光が漏れていた。いつのまにか朝を迎えていたらしい。
置いてあったスマホに手を伸ばしてみると、時刻はなんと朝の六時。昨晩からこの時間まで熟睡してしまっていたようだ。
「寝すぎたな……」
一人呟いて体を起こす。そして、着信相手は東野だった。俺はその電話にすぐに出た。
「もしもし」
『おはようございます。体調はいかがですか』
「昨日は迷惑を掛けてごめん。あれからぐっすりだ。今起きた。体調は戻ってる」
『よかったです。今日は午前中は急ぎの仕事はありませんので、ゆっくり出社なさってください。リビングや冷蔵庫に簡単な食べ物がありますから、それを食べて』
「……助かる」
『ここ最近、トラブルで忙しかったのは分かっていますから。ああそれと、中谷さんがお風呂を掃除しておいてくれましたよ。そのまま湯舟にお湯を溜められるように。ちゃんと体も温めてくださいね』
彼女が昨日言っていた言葉を思い出す。ちゃんと食べろ、風呂にゆっくり浸かれ、と説教をしていた。その姿を思い浮かべるだけで、なんだか体がざわざわとざわついた。
「……彼女は、何か言っていた?」
やや小さな声で尋ねる。東野は少し間があったあと、ゆっくりした口調で言う。
『とても心配されていましたよ。私は帰りに伺ったんですが、第一印象はさておき、お友達と中谷さんを仕事に誘ってくれたことはとても感謝していると言っていました。どうやら、仕事も楽しいらしいです。同時に、倒れるまで必死に仕事をしている姿に感銘を受けたそうです』
「……そう」
『ずっと社長に付き添ってくれていましたよ。ああそれと、ご自身が持っていたというカイロを社長のお腹に張り付けていて、私少し笑ってしまいました』
本当に笑いながら東野が言った。驚いて見下ろしてみると、なるほど確かに、シャツの上から冷えたカイロがあった。それをそっと指で撫でると、時間が経ってとっくに固くなっているのが分かった。
そうか、俺が腹が痛いと言ったから……。
『優しい方ですね』
東野がそう言ったのを聞いて、そっと彼女が昨晩立っていた場所を眺めた。
何だろう、自分でもよく分からない。見た目はよくいる容姿で、目立つタイプではない。だがこれと決めたら強い意思を持って突き進む、そんな力強さを目に持っている。
そして愛情深く、人に流されず正直で、でもちょっと口うるさい。
まただ、また変な感覚に陥る。底のない穴にどんどん落ちていくような、ぞわぞわした変な感覚。あの人を見ると、いつもこんな風になる。
よく分からない。
ただ、彼女を手元に置きたい。
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