不吉な女

ツヨシ

第1話

車を走らせていると、前方に手を高く上げる人影が見えた。

停車する。

「どちらまで」

客は長い黒髪の若い女だった。

小さい声で行先を告げる。

二十歳になるかならないかと言う見た目にもかかわらず、やけに生気のない陰気臭い声で。

しばらく車を走らせ、目的地に着く。

「着きましたよ」

女は全く動かない。

もう一度声をかけようとした時だ。

大きな突撃音。

見ればすぐ近くで二台の車が正面衝突をしていた。

――えっ。

「今度は……」

女が次の目的地を口にした。

薄笑いを浮かべながら。

俺はこの事故をどうしようかと考えたが、事故と俺の車は何の関係もない。

一応携帯で事故が起きたことを通報し、なぜか嬉しそうにせかす女の言う通りに、車を走らせた。


「着きましたよ」

女はまたもやなんの反応もない。

俺はなにか嫌な予感がしてきた。

予感は当たった。

対向車がなぜか急ハンドルを切り、電柱に激突した。

俺の車のすぐ前で。

車の前方部、電柱に当たった部分が大きくへこんでいた。

女が今度は声に出して笑った。

ケタケタと。そして次の目的地を口にする。

「でもこの事故」

「この事故、こっちと関係ないでしょ。早く行ってよ」

強い口調で言う。

俺は仕方なく車を走らせた。


「着きましたよ」

俺は言った。

心なしか声が少し震えている。

女はやはり動かない。

俺もそれ以上何も言わなかった。

そして恐れていたことが起こった。

対向車線を飛び出したトラックが、反対車線の乗用車に激突した。

前の二度の事故もひどかったが、この事故はそれ以上だった。

乗用車の方は確実に人が死んでいるだろう。

女が笑う。大きく耳障りな声で。

そして言った。

「今日はもうこれくらいでいいかな。運転手さん、いくら」

料金を払うと、女は降りて行った。

軽い足取りで、まるで狂ったように笑いながら。



       終

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不吉な女 ツヨシ @kunkunkonkon

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