第13話 シアとミールの悪巧み
「クーちゃんどこなのー?」
「クーヤー。出ておいでー?」
怪しく目が光るシア、ミールの姉妹が廊下をゾンビのように彷徨っていました。息が荒くなっていて正直怖いです。
それを目撃したフィリオはすーっと静かにドアを閉めて、部屋の中に戻りました。
「あいつら今度は何をしているんだ」
面倒な事になりそうで、フィリオは早速、頭が痛くなってきていました。
「探しているという事は、クーヤが逃げているのか?」
あの何でも受け入れる優しいクーヤが?今までクーヤが嫌がっている姿は見た事がなく、いつもにこにこと笑っている印象しかありません。
そんなクーヤが逃げているのですから、ただ事ではありません。
「何にせよ、僕が先にクーヤを保護できればいいのだが………」
クーヤがあの二人に見つかるのも駄目ですが、もしフィリオがシアとミールに見つかった場合、なし崩し的に仲間にされる可能性があります。
(ああいう時の女の子のパワーはすごいからな)
以前、あまりに修行が忙しくてクーヤと触れ合える時間がなかったメルトが同じ目をしていました。
ようやく修行が終わった後の反動は凄まじく、クーヤ成分を補充しまくって、クーヤLOVEが激しいシアとミールも遠慮するぐらいでした。
(本当なら関わり合いになりたくないが、クーヤの為だからな)
覚悟を決めて廊下に出ましたが、そんなフィリオの耳に甲高い悲鳴が聞こえてきたのです。
「しまった!遅かったかっ」
声がした方向に急いで向かうと、そこはミールの私室でした。無断で入ればミールお手製の人形たちが手厚い歓迎をしてくれる恐ろしい部屋です。
ごくりと唾を飲み込みながらフィリオはドアノブを捻りました。
「やーん。かわいいー。これも似合うんじゃないの!?」
「ナイスです、シア姉様。クーちゃんにはやっぱり可愛い系のお洋服が似合うの」
部屋の中には姉妹によってもみくちゃにされて着替えさせられているクーヤがいました。しかもそれは女物の可愛い服です。
あまりの衝撃的な光景にフィリオは頭が真っ白になってしまいました。
「おにいちゃん………。助けて」
フィリオは涙目でこちらに助けを求めるクーヤを見た瞬間、どばっと鼻から情熱が溢れ出てしまいました。
「うわっ。汚いの!いきなりやってきて鼻血を出すとか、リオ兄様は常識なさすぎなの!」
「お、お前たちが常識を語るなっ!」
応急処置で鼻にティッシュを詰めながら、ふがふがと鼻を鳴らしてフィリオが怒っています。
「まぁまぁまぁ。そんなにぷりぷり怒らない、怒らない。これを見てちょっと落ち着いて。ねっ?」
そう言ってシアは女の子したクーヤの背中を押して、ずずいとフィリオの目の前に押し出しました。
よほど恥ずかしいのか耳まで真っ赤にしたクーヤは、潤んだ瞳をして顔を背けています。
「どうかしら!わたしの自慢のコーデは!」
シアが自慢するだけあって確かにすごく可愛い出来になっています。元々、クーヤは可愛らしい顔立ちをしている事もあるのですが、ふわふわの金色の髪を少しカールさせて、お姫様のようなふりふりの服に着せるだけでこうも印象が変わってしまうのかと驚くぐらいです。
恐いぐらいに似合っていますから、もし初見の人が今のクーヤを見たら、百人中の百人が女の子だと思う事でしょう。
(クーヤが嫌がっているから可愛いと言うのは駄目だ!………だけど、実際に可愛いと思ってしまう自分がいるのも否定できない!)
苦悶の表情で悶えるフィリオ。仕方なく目を瞑りながら、どうにかクーヤを自分の方に引き寄せました。
「あっ。何するのよリオ兄」
「本人が嫌がっているんだからもう止めろっ」
「ええー。すっごく似合ってるのに。それにまだまだ着替えを用意してあるのよ!」
後ろに控えていたミールがチェストを開くと、それはもうたくさんの洋服がずらりと並んでいます。どれも普段ミールが着ている所は見た事がないので、わざわざこの為に用意していたのでしょう。
「前々からクーちゃんには着せたいと思っていたの。シア姉様と相談して今日まで準備していたのよ?邪魔しないで欲しいの」
「そーよ!リオ兄だって似合ってると思ってたでしょ!」
そこを突かれるとフィリオも痛くなってしまいます。ですが、フィリオは必殺の言葉を用意していました。
「これ以上やるというのなら、クーヤに嫌われるぞ!」
ぴたり、と二人の動きが石像になったかのように止まります。ぎぎぎ、と二人が首をぎこちなくて動かしてクーヤに顔を向けると、クーヤはぷいっと顔を背けてしまいました。
「!!!!」
この世の終わりのような絶望した表情を見せるシアとミール。どうやら興奮しすぎてクーヤから嫌われる可能性を考えていなかったようですね。
それから二人はクーヤに謝り倒していましたが、クーヤの機嫌はしばらく直る事がありませんでした。シアとミールはその間、魂が抜かれたような心あらずの状態になってしまいました。
そんな風になってしまった姉たちを心配してクーヤはすぐに許そうとしていたのですが、カミラの「良い薬になるからもう少しそのままにしておくんだよ」という言葉にちょっとだけ従いました。
まぁ本当にちょっとだけだったのですが。一日も経たずにずっとそわそわしているクーヤを見て、カミラは思わず苦笑してしまいます。
「本当に優しい子だね。いいよ、クーヤ。自分が思う通りにやりな」
それから涙声でごめんね、と互いに謝り続ける三人がいたとか。カミラは最後までは見守る事はありませんでしたが、次の日からは笑顔を取り戻した三人がいましたので、結果は見るまでもありませんね。
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