第12話 未来の選択肢
静かな寝息が聞こえてくる部屋の中で子供たちが寝ています。クーヤを真ん中にして、シアとミール、そしてメルトが引っ付いていました。
フィリオは誰かに蹴り出されてしまったのでしょうか。端っこの方で一人で唸って寝ていました。普通に可哀そうです。
カミラはフィリオにも毛布をかけてやり、その頭を撫でました。少しだけ表情が安らいだ気がします。
「よく寝ているね。皆、おやすみ………」
昼間は皆ではしゃいでいたので、今は気持ちよさそうに寝ていました。子どもたちの寝顔を見守った後、カミラは寝室のドアをそっと閉じます。
「子供たちはもう寝たのか?」
「ぐっすりと寝ているよ。もう少し早く帰ってきていたら起きてたんだけどね」
「仕方あるまい。手続きが色々と面倒だったのだ」
ふぅ、とリオンは珍しくため息をついていました。最近は帰りが遅くなっていて、子どもたちに触れ合えていない時間が増えています。子どもたちも寂しがっていますが、リオンも寂しい思いを抱えながら頑張っているのでした。
「まぁ、あんたもたまには苦労をするんだね」
「それではまるで俺様がいつも楽をしているみたいではないか」
カミラは微笑を浮かべて、リオンにコップを受け渡しました。中身は疲労回復に効果があるブレンドドリンクです。
「ぬ………。すごい色をしているな」
「見た目はちょっとアレだけど、栄養はたっぷり入っているよ」
コップを受け取ったはいいのですが飲むのは躊躇しているリオンに、カミラはダメ押しをします。
「それは子供たちがね、疲れているあんたの事を気遣って一生懸命考えて作ってくれた特製ドリンクなんだよ」
「何!?それを先に言わぬかっ!」
リオンは躊躇いなくドリンクを飲み干しました。
「ご、ごちそうさまだ。なかなか個性的な味だったな」
「それ、子供たちに伝えていいかい?」
カミラが悪戯気に笑いかけると、リオンは途端に慌て始めました。
「い、いや!個性的と言ってもだなっ。良い意味での個性的で………」
「安心しな。冗談だから」
カミラもコップを傾けて特製ドリンクを飲みます。強烈な味わいで、刺激的な酸味がのどを突きます。
「うーん、目が覚める味だね」
「すでに味見していたのではないのか?」
「せっかくだからあんたと一緒に飲もうかと思っててね」
ちょっと眠気を感じていたからちょうどいいね、と言いながら中身がなくなったコップをテーブルの上に置きました。
「それでアレはどうなっているんだい」
「ああ。順調に進んでいるぞ」
俺様がこうして遅く帰っているのが何よりの証拠だな、とリオンが胸を張りました。
「そうかい。良かったよ、本当に」
胸を撫で下ろしたカミラは、頭の中で子供たちの顔を思い浮かべました。シア、ミール、メルト、フィリオ………そしてクーヤ。
「皆で幸せにならないとね」
誰かが犠牲になったり、誰かが我慢するような事はカミラは大っ嫌いです。それが自分の子どもたちともなれば猶更でした。
「わかっているとは思うが、俺様たちは選択肢をあげるだけだ。それをどうするかは俺様たちが決めることではない」
リオンは真面目な表情でそう言いました。彼のこんな真剣な表情は久しぶりかもしれません。
「ふふ。あんた、いつもそんな真面目な親の表情をしていたら子どもたちの印象も変わるかもしれないよ」
「………ん?その言い方では良くない印象を持っているようではないか?それも冗談なのだろう?」
カミラは何も言わずにコップを片付けに行きます。流し台に水を流しながら、先ほどのリオンの言葉を思い返していました。
(選択肢、か。………これも親のエゴなのかもしれないね)
それでも少し寂しそうに皆の事を見送る、あの小さな背中がカミラの頭の中から消えてくれませんでした。
勝手にやった親のエゴ。これをどうするか、どうなるかはカミラもわかりません。ですが、親としてどのような選択肢をとっても応援しようと決めていました。
カミラの後ろから必死に誰かの声が聞こえてきますが、その夜は静かに過ぎていくのでした。
「なんで無視するのだ!?もしかして本気なのか!?俺様、子どもたちに嫌われているのなら、本気で泣いてしまうかもしれないぞ!?」
「うるさいねぇ………冗談だよ、冗談。………たぶんね」
「!?」
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