第11話 クーヤとカミラの秘密

 家事というものは終わりがありません。掃除、洗濯、料理に買い物などやる事が山ほどあります。それは魔王家でも同じで、カミラの一日は多忙を極めていました。


 「さて、今日も頑張るかね」


 毎日、やる事が尽きる事はありませんが、体力自慢であるカミラはそれほど苦には感じておらず、やりがいを感じていました。

 元魔王軍の幹部であり、リオンと結婚してから家事を覚え始めたわけではありますが、家事は意外とカミラの性に合っていたのかもしれません。


 「ありゃ………また失敗してしまったかい」


 ただ、家事の好き嫌いと上手い下手は関係ないようで、料理だけカミラは上手くいっていません。味はそれなりの物は作れるのですが、どうしても見た目が悪くなってしまうのです。

 「見た目なんか気にしないで、味はおいしいよ」と家族は言ってくれますが、味"は"と言われては女のプライドが刺激されるというものです。


 「どうして見た目が悪くなっちまうね。うーん、自分だけでやるには限界を感じてきたよ」


 ご近所のママ友に相談した事もありますが、見た目?そんなの気にしてないよ!味が良ければ文句なんて言わせてないしね!と豪快に笑われるばかりです。

 実際、カミラもそういうものだと思って育ってきたのですが、最近になってちょっと考え方を変えたのでした。


 「こんなもの手に入れちまったからねぇ」


 カミラの手には一冊の料理本がありました。それは人間界で手に入る一般的なレシピ本でした。いつの間にかリオンが持ってきていたようで、リオンの部屋を掃除している時に見つけてしまったのです。

 ページをめくるとどの料理もおいしそうに盛りつけられています。適当にやってきたカミラはそれを見て、なんだか恥ずかしくなってきてしまったのです。


 「使っている材料が違うのもあるんだろうけど、どうにも上手くいかないね………」


 魔界の食材は一風変わったものが多く、例えば人間界でいうジャガイモは魔界では紫色をしていて、中身も紫色です。他の食料も同じように寒色系をしているので、見た目を良くしようにも無理があったのです。


 「人間界の食材を使えれば一気に解決しそうだけれど、それは難しいからね。うーん」

 「どうしたのー?ママ」


 とててと走って来て、腰にしがみついたのはクーヤでした。どうやら悩んでいる声を聞いて、台所に来てしまったようです。


 「ちょっと料理が上手くいってないだけだよ。心配する事ないからね」

 「お料理?ママのお料理だいすきー!いつもおいしいよー」


 純真無垢なクーヤの笑顔を見て、カミラは思わずきゅんとしてしまいました。いつもクーヤに構いまくっている子どもたちの気持ちがわかってしまいます。


 「ありがとね、クーヤ」


 無限に甘やかしたくなる気持ちをカミラはどうにか抑えて、クーヤの頭をなでなでします。


 「………♪」


 猫のように目を細めてクーヤは気持ちよさそうに頭を撫でられています。これはやばい。そうカミラは思いましたが、もう止める事は出来ませんでした。

 それからしばらく経って、ようやくハッとカミラは気づきました。料理が全然すすんでいない事に。


 「クーヤ。そろそろママはお料理続けるからね、あっちで遊んできな」

 「………」

 「クーヤ?」


 何も言わないでじーっとしているクーヤに首を傾げるカミラ。クーヤの視線の先には作りかけの料理がありました。


 「僕もお料理のお手伝いする!」


 元気に右手を上げるクーヤは、時々シアやミール、メルトがカミラの料理のお手伝いしている所を見ていたのでしょう。


 「お手伝いかぁ………」


 もっと他の簡単な事だったらお手伝いをさせた事はありましたが、料理に関しては包丁を使わせるわけにもいきませんし、食材を洗う事もその小さな手だと難しいでしょう。

 皿を並べる事も危なっかしいのでさせたくはありません。となると、後は………。


 「盛り付けをやってみるかい?」

 「もりつけってなーに?」


 出来上がった料理を綺麗に皿に盛り付ける。それなら特に力がいることはありませんし、料理が出来上がった後なのでカミラも見守る事が出来ます。


 「やりたいやりたーい!」


 クーヤも嫌がる様子はありませんし、カミラはほっと胸を撫で下ろしました。


 「じゃあちょっと待つんだよ。ママがお料理を完成させるからね。その前にまず手を洗ってきな。それからエプロンを着けてあげるからね」

 「はーい!」


 一生懸命に手を洗うクーヤにほっこりとして、それからカミラはエプロンを着けてあげました。


 (………うちの子、最強に可愛い)


 エプロン姿にまたやられてしまうカミラなのでした。




 「今日の料理、なんかちょっと違うね。綺麗に盛り付けられてる気がするよ」


 その夜、皆で夕ご飯を食べている時に、ふとフィリオがそう洩らしました。思わずクーヤとカミラは顔を見合わせて、笑ってしまいます。

 クーヤの盛り付けはお世辞にも上手ではありませんでしたが、一生懸命に丁寧にやっていたので、初めてにしてはなかなかの出来です。

 それがフィリオはわかってくれたようで、少しだけ嬉しくなっていたのです。


 (クーヤが盛り付けたって言ったら、それだけで皆が喜んでしまうからね。こういうのは秘密にしてやるのがいいんだよ)


 笑っている二人をフィリオは不思議に思っていましたが、二人は教えるつもりはないようです。

 それからはクーヤがカミラの料理のお手伝いをするようになり、いずれは皆にもばれてしまうのですが、今だけはクーヤとカミラの二人だけの秘密にしておくのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る