第10話 トランプで遊ぼう その二
「パパが相手でも負けない!」
今、ジョーカーを持っているのはクーヤです。
クーヤもゲームを通してババ抜きのコツというものをなんとなく理解してきたようで、自信満々の顔をしています。
「悪いが、勝負はすでに………むっ!」
大人げない大人代表のリオンには、クーヤを勝たせてやろうという気持ちは全然ありませんでしたが、クーヤの背後からリオンの事をじーっと見ている女性陣がいました。
お前、まさか本当に勝つつもりじゃないだろうな、というカミラの疑いの視線。
パパ、そんなひどい事はしないわよね、というシアの潤んだ瞳。
父様はそこまで落ちぶれたの?というミールの半眼。
(ふ、ふはは。魔王というものは孤高!愛しい家族たちからの冷たい視線も受け止めてこそ魔王よ!)
少しだけ怯みましたが、リオンの気持ちは変わりませんでした。ですが、リオンの後ろにクマのぬいぐるみのナイトとメルトがいつの間にか立っています。
(なんだこのプレッシャーは!?)
ただ後ろに立ってるだけだというのにリオンはとんでもない圧を感じていました。
むんっ、と手札を前にして構えているクーヤはどうやらそんな周囲の事には気づいていないようです。
(ふっ。甘いな、お前たち。俺様は逆境にいる時が一番燃えるのだ!!)
こうなってはもう意地です。味方が誰もいなくとも、リオンは退きません。引くのはカードだけだ!と意外に余裕な事を考えながら、勝負を始めました。
「クーヤ!いくぞ!!」
リオンはクーヤの表情を見ながらカードに手を伸ばします。向かって右側のカードに手を伸ばすと、クーヤの顔が焦り始めました。左の方に手を移動させると、ほっとした表情を見せました。
メルトと良い勝負が出来るぐらい、とてもわかりやすいですね。クーヤとメルトが最後に残ったら、ずっと勝負はつかないかもしれません。
「これで終わりだあああーーー!!」
当然、リオンが選んだのは右のカードでした。これでリオンのカードが揃い、クーヤが初めて負けてしまう。リオンは勝利を確信していました。
「何ぃぃぃぃいいーーー!?」
しかし、リオンが引いたカードはなんとジョーカーでした。驚きに身を固めているリオンは最後の一人の事を忘れてしまっていたのです。
「そうくると思っていましたよ」
眼鏡を片手で持ち上げながら予想通りの展開に微笑みを浮かべるのはフィリオです。
「まさか、そんな相談をするような暇はなかったはずだ!」
「一騎打ちになってからは、確かにそんな時間はなかったですね。ですので、ゲームが始まった最初の時にクーヤにアドバイスをしていたのです」
リオンはクーヤが相手でも勝ちを譲らないと予想していました。そして、もしもリオンと戦う事になったらいつもとは逆の反応をするように、クーヤに話していたのです。
「よくできたな、クーヤ」
「えへへー」
フィリオに頭を撫でられて、クーヤはとても嬉しそうに笑っています。
実の所、クーヤはなんでそんな事をするのかよくわかっていませんでしたので、演技が多少ぎこちなくあったのですが、それを見抜けなかったリオンの負けでしょう。
「くっ。この魔王を欺くとは見事としか言えんな。だがっ!まだ勝負は終わってはいないぞ!ふふふ。さて、クーヤ、どちらがババかわかる………」
「えいっ」
「あ」
「あっ!やったー!揃ったーー!!」
まだまだ心理戦といったものがわからないクーヤはさっ、とリオンからカードを引いて見事に当たりを引き当てていました。
ドキドキの駆け引きが始まると思っていたリオンは、手札に残ったジョーカーを見てがっくりとしています。
「最後には運も味方につけたか。クーヤよ、やるではないか。よし、もう一勝負………!」
「ふぁーあ」
クーヤが大きなあくびを漏らします。気づけば、ずいぶん長い間トランプで遊んでいました。皆、時間も忘れて熱中していたようですね。
「んぅ………」
「そろそろお眠のようだね」
集中が途切れてしまったのでしょうね。とろんとした眼でクーヤは今にも寝てしまいそうでした。その様子をくすりと笑いながらカミラは見ています。
「クーヤ。今日はもうそのままでいいからもう寝ようかね」
「うん………」
目をしぱしぱとさせるクーヤの体をカミラは優しく持ち上げました。それを皮切りに他の子どもたちもクーヤと一緒に寝るように、準備を始めます。
あっというまに皆がいなくなった部屋で、ぽつんとリオンだけが残されました。さっきまではしゃいで遊んでいたのに、テーブルの上で散乱したカードがすごく寂しく見えます。
「お、俺様を置いていくなー!」
急いで追いかけるリオン。クーヤが起きたらどうするんだ!と家族全員から睨まれて怒られてしまいましたが、クーヤは幸せそうに眠り続けていました。
夢の中でも皆で遊んでいるのでしょうか。時たま、ふにゃりと笑うその寝顔は大変よろしくありません。愛しさで思わず、ずーっと見ていたくなります。
「早く寝ないと、明日からクーヤの傍にいる事を禁止にしようかね」
カミラの鶴の一声は効果てきめんです。すぐにでも皆が横になり、その日も家族全員で仲良く眠りについたのでした。
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