第9話 トランプで遊ぼう その一
ある日の夕ご飯の後、リオンが皆に声を掛けました。
「珍しい遊び道具を手に入れたから皆で遊ぶぞ!」
子どもたちの反応は大小様々でしたが、皆が興味津々にテーブルに並べられた遊び道具を見ています。
「これは紙のカード、ですか?」
一枚の絵柄が書かれたカードをフィリオが取ります。数字とマークが書かれたカードで、他に特徴はありません。
「これはトランプ、と言うのだ。人間が作った道具だぞ」
フィリオはちらりとクーヤの事を見ました。クーヤは物珍しそうにトランプを見ています。
(クーヤと同じ人間が作った道具か………)
魔界ではたまに人間たちが住む世界から物が流通する事があります。実は魔導ヴィジョンもその一つだったりします。
魔導ヴィジョンは魔王自らが広めたという事もあり民衆にも普及しましたが、大体そういった物は珍しくて手に入りにくいのです。
どのような理由でこれを手に入れたのかはフィリオにはわかりませんし、特に興味もありません。自由で破天荒なリオンが何を考えているかなんて、自分が考えるだけ無駄だと思っているからです。
(そんな事よりも、僕もクーヤと一緒に楽しもう)
大人な所もあるフィリオですが、今は純粋に弟と一緒に遊んでみたい。その気持ちだけでした。リオンが得意げに皆に遊び方を教えているその中に、フィリオも入る事にしたのでした。
「むむむ………」
難しい顔でメルトはカードを睨んでいました。今、皆でババ抜きというゲームをしている最中です。
数字が合っているカードをペアで捨てていき、持っているカードがなくなった人が勝ち抜けというシンプルなルールです。
「ふふーん。メル姉。さて、どっちがババでしょうか!はやく選んでー」
「あ、あ、あ。ま、待って!もう二人だけなんだからじっくり考えさせてよー」
ゲームは終盤。シアとメルトの一騎打ちです。シアが二枚もっているのに対し、メルトが一枚。なのでシアがジョーカーを持っています。
余裕そうに笑いながらシアが手札をふりふりとさせます。ババ、つまりジョーカーを最後まで持っていた方が負けなのでシアの方が不利な状況なのですが、何故かメルトの方が追い詰められていました。
引いたら即負けというわけではありませんが、メルトはどうしても勝ちたくて真剣に悩んでいました。
「二人とも頑張ってー!」
何故ならクーヤが応援してくれているから。おねえちゃん魂に火がついていました。しかしそれはシアも同じです。
(メル姉。ここは絶対に負けないわ!勝ってご褒美でクーヤに抱き着くのはわたしよ!)
(クーヤちゃんが応援してくれているのだから、おねえちゃん、頑張るよ!)
ちなみに別に勝者にご褒美なんてものはありません。シアが勝手にそう思っているだけです。
「ミールはどっちが勝つと思うんだい」
「ここで決めなければシア姉様なの。メルト姉様、すごくわかりやすいの」
ババ抜きは相手の表情を読み取る事も大事になります。カードを引こうとした時、相手がどんな表情をするのか。そんな心理戦を楽しむゲームだったりするのです。
「シアちゃん!こっちのカードはどうかな!?」
「引いていいわよー」
「シアちゃん!さてはこっちだね!?」
「引いていいわよー」
その点、シアはポーカーフェイスが得意でした。どんなに揺さぶりをかけてもメルトに情報を与えません。
「ひーん!全然わかんないよー。もー、こうなったら勝負だよ!シアちゃんっ!!」
散々迷った挙句、メルトが引いたカードは………。
「いじわるな顔してるジョーカーさんだよおおおおおお!!!」
そんなこんなでゲームは続いていきます。シンプルなルールだったので誰にでもわかりやすく、すぐにでも皆が理解していました。
そんな中、意外な人物がこのババ抜きで無敗を誇っていました。その人物とは………。
「やったー!そろった!」
クーヤです。最後まで残る事はありますが、今の所、一度も負けてはいません。
それはクーヤが心理戦に強いというわけではなく、むしろメルトのように表情がわかりやすいタイプではあるのですが………。
(負けた時に悲しそうな顔をされたらと思うと、勝てない!)
想像するだけでも辛くなって、自然と皆が自らジョーカーを引きにいっていました。まぁ最年少のクーヤ相手でもありますし、本気になるのはちょっと大人げないでしょうね。
そんなわけで、魔王ファミリーの中ではクーヤはジョーカーのような扱いでした。絶対に勝つ事が出来ない最強の手札。しかし、ここには最強がもう一人いたのです。
「ふははは!俺様とタイマン勝負か!いいぞクーヤ!魔王への挑戦権をお前にやろうっ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます