第7話 クーヤの初めての言葉
「あぅー。だーだー!」
今日も元気なクーヤの声が聞こえてきます。いつも魔王家を明るくしてるくれる声なのですが、今日は今まで以上に興奮しているようです。一体、どうしたのでしょうか?
「これはね、お馬さんって言うんだよ」
優しい顔と声でそうクーヤに聞かせているのはフィリオです。彼が通っている学校の生徒が今のフィリオを見れば、誰!?と思わず言ってしまうレベルで別人になっていますが、最早これも魔王家では日常です。
今日はクーヤにフィリオが絵本を読み聞かせていました。ハイハイも出来るようになりましたし、今度は言葉を、という事でしょう。
「うーうー?」
「そうだね。うーうーだね」
小さな指で絵本の馬を指してから小首を傾げて振り返るクーヤに、愛しさが鼻から吹き出しそうになっているフィリオ。最近、困った事に彼は鼻血が出る機会が増えていました。何故なのかは、まぁ、言うまでもありませんね。
(なんて役得なんだ。クーヤの教育係に手を挙げて大正解だった)
体温の暖かい陽だまりのようなクーヤを抱っこしながら、絵本を読んであげるこの時間をフィリオは至福に感じていました。
そんな二人の事を部屋の外から見ている瞳が一つ、二つ、三つと四つ。
「いーなー。フィリオちゃん。私も頭がもっと良くて、これしていなかったらなぁ」
「仕方ない部分もあるけれど、ここは私がやっても良かったんじゃないかい」
すごく羨ましそうに見ているメルトと眉をハの字にしているカミラでした。修行とか家事とかやらなくて良いんでしょうかね。
誰がクーヤに勉強を教えるか家族会議に上がった時、触れ合える機会が増えますから当然のように皆が立候補しました。ですが、その全てをフィリオが論破してしまったのです。
例えばシアとミールならそもそも勉強が得意ではありませんし、リオンは魔王の仕事が忙しい。メルトは勉強は出来る方ですがガントレットを外せないので教えるには不向き。カミラは教養はありますが家事があるので、ここは自分が一番適していると諭したのです。
「あの時のフィリオちゃん。早口過ぎでちょっと怖かった」
「大体、フィリオも学校に行っているから時間はないだろうに。私と変わらないよ」
ぐちぐちと言っているカミラはまだ納得いっていないようです。さばさばした性格の彼女にしては珍しいですね。
「………二人とも、そこにいられたら気になるから、入ってきたら?」
軽くため息をつくフィリオは、どうやら二人の事は気づいていたようです。というよりも、クーヤがそもそも気づいていたぐらいでした。二人も隠れるつもりはあまりなく、気づいて欲しかったのでしょう。
「あーい!」
二人を見つけて嬉しそうな声をあげるクーヤに、カミラとメルトは満面の笑みを浮かべて部屋に入ってきました。
「姉さんも母さんも邪魔はしないで欲しいな」
「邪魔だなんて人聞きが悪いね。ちょっと様子を見ていただけさ」
クーヤはフィリオの膝元から抜け出して、メルトに突進して行きました。ガントレットをしているので不用意に触れないメルトは、はわー!!と変な叫び声をあげて体をぺたぺたと触るクーヤに悶えています。
「………クーヤが行っちゃったじゃないか」
「なんて声と顔しているんだい。ほんと、私の子供たちは独占欲が強いねぇ………」
子供は親に似ると言いますが、果たしてどちらに似たのでしょうね?
「あい!」
クーヤは思う存分にメルトと遊ぶと、今度はカミラの方にハイハイで突進してきました。
母の包容力で容易く包み込んで抱き抱えるカミラ。この手管はさすがのお母さんと言った感じですね。
「うー………」
「ん?どうしたんだい。クーヤ」
背中をぽんぽんと叩きながらあやしていたカミラですが、クーヤの様子が少し違う事に気が付きました。
「まー………ま?」
「!?!?!?」
驚きのあまり、大人の余裕がなくなったカミラ。今、クーヤはカミラの事を呼んだのでしょうか?
「まーま!」
「クーヤ、クーヤが私の事をママって!!!!」
確かにクーヤはカミラの事をママと呼びました。まるで少女のように喜ぶカミラ。メルトはいいなー私も呼んで欲しいなぁと体をくねくねさせています。フィリオはと言うと………。
「なんで僕より母さんが先なんだ………!!」
床に四つん這いになって打ちひしがれていました。いつも絵本を読んで言葉を教えていたのはフィリオでしたので、それはショックでしょうね。ですが赤ちゃんは普段から聞いている言葉から学びますので、フィリオは兄様とかフィリオ呼びなので覚えにくかったのかもしれません。
それから家族の皆の呼び方を覚えていくクーヤでしたが、フィリオは二番目に呼んで貰えたのでなんとか元気になったとか。呼び方もにーに、とフィリオのツボどストライクだったので、今度こそ鼻血を噴き出したとか。まぁそれはどうでも良い事ですね。
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