第6話 ハイハイとクマのぬいぐるみ
クーヤが魔王ファミリーの一員になって早数か月。クーヤはすくすくと育ち、今やもうハイハイが出来るまで成長していました。
初めてのハイハイを見たフィリオが愛しさと感動で鼻血を出してぶっ倒れたというエピソードもありましたが、魔王ファミリーの皆は大体同じようにクーヤにめろめろなので特に問題はありません。
自分で移動できるようになり行動範囲が広がった事で尚更目が離せなくなる時期ですが、そこはいつも見守ってくれる存在がいました。
「だうー。う?」
今も勢いの余り壁にぶつかりそうになっていたクーヤを、ぽふっとそのニット生地のボディで受け止めてくれていました。
「あぅ?」
不思議そうに顔を上げるクーヤの頭を、ぬいぐるみがぽんぽんと撫でます。その感触にクーヤはきゃっきゃっと喜んでいました。
「ご苦労様なの、ナイト。クーちゃんもあんまりお転婆したら駄目なのよ」
クマのぬいぐるみ、ナイトに声を掛けつつ部屋に入ってきたミールは、クーヤを抱き上げて困った笑顔を見せます。
「あい!」
元気よく返事をしているかのようですが本当に理解しているかはわかりません。赤ん坊ですから仕方ありませんね。
「クーちゃんは相変わらずかわいいの」
ほっぺをくっつけてすりすりするミール。クーヤにやられているのは魔王ファミリー全員ではありますが、変化、というより成長したのはミールが一番かもしれません。
「今日はどんな事をして遊ぼうか、クーちゃん」
以前は部屋に引き籠って家族ともそれ程話さず、人形遊びばかりしていた女の子でしたが、クーヤがきてからは積極的にクーヤのお世話をして可愛がっています。
「ナイトも一緒に遊ぶなの」
その溺愛ぶりは全自動オートマタ、ナイトをクーヤの為だけに作ってあげている事からも明らかです。
ナイトは見た目は可愛いクマのぬいぐるみですが、自分の意志を持ち、その戦闘力はドールマスターであるミールの技術全てをつぎ込んでいるので、ドラゴンであろうとワンパンする最強のぬいぐるみです。
ぬいぐるみであるナイトには眠る事も必要ないので、いつも見守ってあげていられるという事ですね。
「クーヤぁぁーーー。愛しのおねえちゃんが帰ってきたわよー」
ばーん、とどこぞの魔王のようにドアを開けて入ってきたのはシアです。外での用事を済ませて家に帰ってきたようですね。
「あー!ずるい!!ミールばっかりクーヤと遊んでっ。しかも抱っこしてるーーー!!!」
「姉様、うるさいの。いつもクーヤに引っ付いているのは姉様も同じなの。それにそんなに強くドアを開けて、クーヤが近くにいて怪我したらどうするつもりなの?」
至極まっとうな突っ込みを入れつつ、じと目で見てくるミールに、うっ、と思わずシアは口籠りました。
「だって、クーヤと早く遊びたかったんだもん………」
いじいじと指を合わせて顔を俯かせます。よっぽど急いでいたのか、うっすらとシアは汗をかいていました。
「うー!」
「あっ、クーちゃん!」
その時、クーヤがミールの抱っこから抜け出して、床をハイハイしながらシアに近づいていきました。
「クーヤ………?」
少し涙目になっていたシアの足にクーヤはしがみつき、無邪気に笑ったのです。落ち込んでしまったシアを元気づけたかったのでしょうね。自分が笑うと皆も笑ってくれるので、クーヤはそれを覚えていたようです。
「っ!クーヤぁぁぁ!ごめんね、おねえちゃん、危ない事してごめんねぇぇぇ!!!」
感極まってついに泣き出してしまったシアに、びっくりしてしまったクーヤも一緒に泣き始めてしまいました。
「クーちゃんは将来、きっとすごい女泣かせになるの。今から教育プラン、しっかり考えておくべきなの………」
難しい顔で唸っているミールでしたが、クマのぬいぐるみのナイトは泣き出した二人の下に慌てて走っていきます。二人の間に挟まれて涙やらなんやらでニットボディがぐしょぐしょになっていましたが、彼の健闘もあって二人は泣き止んでくれました。
「ナイト、お疲れ様なの」
泣き疲れて寝てしまった二人の横でナイトはぐったりとしていますが、その顔は何処かやり遂げ顔をしていました。
穏やかな顔をして寝ている二人の顔を見れば、彼の仕事がわかるというものですね。お疲れ様です。
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