第5話 夜空からキラキラと
「そういうわけで赤ん坊の名前を決めようと思う。何か意見がある………」
「はいはいはーーーい!!」
元気よく手を挙げてズビシとフィリオの頬に手を刺したのはシアです。誰よりも早く手を挙げたのは彼女ですが、他の家族も皆が手を挙げていました。
フィリオはシアの手を押し退けながら、こんなに多いならやっぱり挙手制よりも事前に考えていたあの方法にした方が良いだろうな、と切り替える事にしました。
「効率よく進められるように、皆が考えた名前を紙に書いて集めるようにしよう」
これならじっくりと考える事も出来るし、まとめるのにもそう時間はかからない事でしょう。
「その中から皆が良いと思ったものを決めようと思うけど、いいかな」
「わたしが一番最初に手を挙げたのに………」
ふくれっ面したシアをなだめながら、特に他の皆も反対意見がないようなのでその方法でいくことにしました。
「フィリオちゃん。名前って一つじゃなきゃダメなのかな」
「何個でも良いと思いますよ、メルト姉さん」
「何!?何個でも良いとな!?フハハハ!!!この魔王リオンの深淵なる知識をついに披露する時がきてしまったか………!!」
「常識の範囲内でお願いします」
「甘い。甘いぞフィリオ!!俺様の辞書に常識という二文字はな痛たたたたた!?」
カミラにアイアンクロー(常識)を叩き込まれているリオンを尻目に、皆が真剣に赤ん坊の名前を考えています。うんうんと唸る姿は微笑ましく、その姿は本当に似たもの家族ですね。
それから三十分後。
「皆の書いた紙を集めたわけなんだけど…………ちょっと多すぎる」
目の前にこんもりと積み重なった紙を見て、フィリオは頬を引くつかせていました。ある程度は自重しろと皆に言ったつもりだったのに、どうやら通じていなかったようです。
「フハハ!俺様の知識の泉が沸き立ってしまい、どうにも腕が止まらんかったわ!」
「わたしも一生懸命に考えて、頑張ったわ!」
「どやぁ」
特にリオン、シア、ミールは手がぶれて残像してしまう勢いで名前を書きまくっていました。どっしりと偉そうに腕を組むリオンとシア。なんでこんなに誇らしそうにしているのでしょうか、謎です。ミールもそんな二人の後ろで密かにドヤっていました。
「それだけ赤ん坊の事をよく考えている所悪いんだけどね、これ、どうやって名前を決めるんだい」
「………せっかく名前を考えてくれた皆には悪いんだけど、五つまでに絞って欲しい」
百枚は優にありそうな量です。普通にやっていたらいつまでも終わらないでしょう。
フィリオの提案にブーイングが起きます。やっているのはあの三人です。大人げないリオンはカミラによって制裁を受け、シアとミールにはメルトが優しく説明をしてあげていました。
そんなこんなで。どうにか名前の候補を絞ってみたのですが、それから先がなかなか決まりません。わたしが、僕が、俺様が、と皆がアピールするからです。
「ここは間をとって私の案でいいんじゃないかい」
「あっ、そ、それなら私のもどうかな………?」
いつも抑え役になっているカミラや、普段は大人しいメルトも今回は譲れないようでしっかりと主張していました。
まぁ基本的に魔族は自己主張が激しい種族でもありますから、これが普通でもあります。
「あぅー」
当の赤ん坊は手足をぱたぱたとさせて、何しているの?とでも言いそうな顔で皆の事を見上げていました。
「ほんわか。………はっ!?いけない。可愛さに見とれている場合じゃない。このままじゃ、決闘するぐらいしか解決方法がなくなるぞ」
フィリオは眼鏡をくいっとあげながら深刻そうに呟きます。どうにかまとめようと考えているのかと思いきや………。
(一番の敵は父さんだけど、それは天敵である母さんをぶつければどうにかなる。妹たちにはさすがにまだ負けない。後はメルト姉さんだけか………)
すでに決闘で自分がいかに勝つのかを考えていました。抜け目がないですね。
誰もが赤ん坊の名付け親になりたい中、「あ!」という大声をシアがあげます。
「良い名前を思いついたわ!」
それは会心の出来のようで、シアは満面の笑みを浮かべています。果たして、シアはどんな名前を思いついたのでしょうか?
「夜空からキラキラ光って落ちてきたからクーヤ、なんてどうかしら!」
漢字にすると空夜、でしょうか。黒猫にクロと名付けるような単純さはありますが、そんな事より聞き逃せない言葉をシアが言った事の方がカミラは気になりました。
「ちょっと待ちな。夜空から落ちてきたってなんだい?キラキラって?そんな話、私は初めて聞いたよ」
「なんかキラキラ光りながら落ちてきたのよ!わたし、最初はお星さまが落ちてきたのかと思っていたけど、この子だったの!すごいでしょ!」
そういえばそのあたり有耶無耶にしていたな、とカミラは今更ですが後悔しました。それにしてもシアの話は予想外です。
「クーヤか………。クールで良いですね」
「クーヤ。クーちゃん?かわいいの」
「夜空に浮かぶ星のようにキラキラした瞳と髪をしているからぴったりね」
フィリオ、ミール、メルトはシアの考えた名前に賛成のようです。
「いやちょっと待て。お前たちは気にならないのかい?」
んー?と首を傾げる子供たち。名前をつける事の方が大事じゃない?と思ってそうな顔です。
困ったカミラがリオンを見ると、何故か無駄にグッと親指を立ててニカッと笑っています。そのまま指を握って捻り潰してやろうかと思うぐらい腹が立つ表情でした。
どうやらカミラと同じ気持ちの人はいないようです。皆が赤ん坊の名前が決まった事にわーきゃーと騒いでいる中、うんうんと悩んでいましたが………。
「まぁいいか」
カミラは考える事を止めました。うちの子になった以上、どんな事情があったとしても守るべき大切な存在なのは変わりません。例えこれから先の未来でどれだけの困難が訪れたとしても見捨てる事はありえません。
「クーヤか。良い名前だね。そうだ、せっかくだから今晩はご馳走にしようかね。クーヤの名前が決まった記念日だ」
「俺様はハンバーグが良いぞ!」
「記念日ですか…………。いっそのこと、誕生日にしても良いかもしれませんね」
再び家の中が騒がしくなる中で、皆に祝福された赤ん坊、クーヤは楽しそうに笑っていたのでした。
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