第4話 赤ん坊の名前を決めよう

 「とても重要な話があります」


 ある日の事、とても真剣な顔をしたフィリオが家族会議を開きました。

 魔王ファミリーで家族会議というと大抵はカミラが発端となるパターンが多く、フィリオが開いたのは初となります。それだけに皆は何々?と興味津々でした。


 「この赤ちゃんの名前を決めましょう」


 あ、と思わずそんな声をあげたのはフィリオ以外の全員でした。確かに家族になったのに名前も決まっていないのはおかしな話です。リオンの騒動があったのですっかり忘れていました。


 (名前さえつけられていなかったからねぇ………)


 あぅ、と声をあげながら無邪気に皆の顔を眺めている赤ん坊。こんな可愛い子を捨てた親への怒りがカミラは再燃していました。

 この子に何の罪もありません。ぎゅっと拳を握るカミラは、実の親じゃなくとも絶対にこの子を幸せにするのだと強く思っていました。


 「パパたちは待たなくていいの?」

 「それはもちろん待つよ。ちょうど今日、姉さんも帰ってくる日だから………」


 フィリオが丁寧にシアに答えていると、ばーん!という強く扉が開いた音と共にリオンが帰ってきました。


 「俺様、帰か痛たたたた!?」

 「玄関は静かに開けろって何回言わせるんだい?」


 最後まで言う前に早速カミラの制裁をくらっているリオン。おしおきアイアンクローをくらっている彼の横から、ひょっこりと女の子が姿を現しました。

 赤色に黒がほんのりと混じった流れるような長い髪。何処か少し自信がなさそうな顔をしている女の子です。


 「おや、メルト、お帰り。修行はもう大丈夫なのかい」


 ぽいっ、とリオンを捨てながらカミラは魔王ファミリーの最後の一人、長女メルトに話しかけました。


 「う、うん。この子のおかげもあって大分安定してきたよ」


 そう言って可憐な容姿に見合わない、両手に嵌められた無骨なガントレットを掲げます。

 はにかんで返事をするメルトは、そこでいつもは出迎えてくれる妹たちがいない事に気が付きました。


 「あれ?シアちゃんとミールちゃんはどうしたの?」

 「ああ、それは………」


 カミラがリオンを見ると、彼はいたずらっ子のように笑っていました。どうやら赤ん坊の事は秘密にして、サプライズを仕掛けるようです。

 しょうがない奴め、と思いつつ説明するより実際に見た方が早いかと思ったカミラは、メルトを皆の所に連れていきます。


 「皆ー。ただいまー………!?」


 そこでメルトは今まで見た事がない程にしまらない顔で、でれーっとしているフィリオを目撃するのでした。かつてこれ程の衝撃を受けたのはサンタさんのネタバレをくらった時以来でしょうか。

 それに付け加え、何故かぽこすかとキャットファイトをしている妹たちがそこにいるのです。


 「ええと、これは一体どういう状況なのかな………」

 「あ、姉さんお帰り。それは気にしなくていいよ。遊んでいるだけだから」


 確かにシアとミールの喧嘩は軽いじゃれ合いのようなものでいつもの事でした。ケンカの原因も赤ん坊の名前の事についてで、わたしが付ける!ミールが付けるの!と互いに譲らないでケンカになっていたのでした。


 「うーん、それよりも気になる事があるんだけどな」


 どちらかというとメルトは顔もこっちに向けず、デレデレした顔で籠の中をずっと見ている弟の方が気になっていました。

 フィリオはいつも冷静沈着で本当に自分より年下なのかな?とメルトが思う程に大人な子でした。そんな彼が夢中になっているのは何なのか。メルトはフィリオの後ろから覗き込みます。


 「えっ!?赤ちゃん?………ふわー、かわいいー」


 両手のガントレットをがっしゃんこと合わせて、メルトは頬をバラ色に染めました。

 知らない人が来たから気になったのでしょうか。赤ちゃんは小さな手をわきわきこちらに手を伸ばして、声を上げています。その愛らしい動きにメルトは声にならない悲鳴を上げました。赤ちゃんの虜になった人がまた一人増えたようですね。

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