第2話 魔王様はフリーダム!

 「ふむ。つまり俺様にまた新しい家族が出来たという事だな!我が子たちよ、喜べ!今日は祝いのご馳走じゃーーー!!」

 「おいおいおいおい。ちょっと待て」


 いつものように突然帰宅して即座に物事を解決してしまいそうになる我が夫を、カミラは首根っこを引っ掴んで引きずります。新しい家族が出来た事に早くも子供たちはわーきゃーとしていますが、騒がしい部屋を後にして二人は廊下に移動しました。


 「はっはっはっ。頼もしき怪力よ。それでこそ我が妻。だが首が割と締まっているので少し緩めて欲しいと俺様は思うぞ」

 「うるさいよ。そんな事よりどういうつもりだい?」


 壁ドンしながらカミラは問い詰めます。カミラの夫である魔王リオンは黒髪のワイルドなイケメンですが、妻のあまりの迫力にたじたじです。


 「むむ。皆、歓迎していると思っていたが、何か問題が?」

 「本当にわかっていないのかい?あの子は人間だよ」


 魔界には魔族以外はいません。唯一の人間となるこの赤ん坊を、カミラはとても心配していました。ここで生きていくには人の子ではあまりに過酷だと思っていたからです。


 (いざとなれば………)


 人間がいる天界に自ら赴いて、然るべきちゃんとした人間を探し出して預けようともカミラは思っていました。魔族であるカミラが天界で探すには途方もなく時間がかかり、また自分も危険に晒される事でしょう。

 ですが構いません。ほんの少しの間ですが、この赤ん坊と共に過ごしてカミラは情が湧いてしまったのですから。

 カミラという女性はそんな情に厚い魔族なのです。


 「俺様は魔王だぞ?何も心配する事はない!!」


 どん!と自分の胸を叩くリオン。壁ドンされたままだったのでいまいち恰好よくありません。

 そんなリオンをカミラは疑わしい目でじとーっと見ています。かなりの至近距離です。自信満々だったリオンも思わず汗が垂れてきたぐらいでした。


 「ちゅーしちゃうのかしら」

 「ちゅー」


 居間からひょっこり顔を出して、シアとミールはこそこそ話をしながら両親の事を覗いていました。シアはとても興味津々に、ミールは手に持っていた人形同士を濃密に絡ませています。モザイク必至です。三歳児にしてなんてテクニシャンなんでしょうか。

 ちなみにフィリオは一人で赤ん坊と遊んでいました。クールな印象のフィリオですが、赤ん坊と遊んでいる時の彼はとても優しい顔をしています。子供たちの中で一番赤ん坊に夢中なのは彼なのかもしれませんね。


 「なんだそういう事か。んむーーー」

 「違うわ馬鹿」


 目を閉じて顔を近づけてくるリオンを普通に嫌そうにカミラは手で押し退けました。残念そうな子供たちの声も聞こえていますがスルーしています。


 「最近いちゃいちゃが足りんと俺様は思います!なぁ子供たちよ!!」

 「思いますー」

 「ますー」


 あまりよくわかってなさそうな返事をする子供たちに、リオンはわははと笑いながら突貫してもみくちゃにしています。きゃー!と悲鳴を上げながらもシアとミールはとても楽しそうです。


 「カミラよ。何も心配する事はない。俺様に任せよ」


 子供たちと遊びながらも、ニッ、と少年のように笑うリオンに、カミラは腰に手を当てて仕方なさそうに嘆息しました。


 (こいつのこういう時の笑い顔はなんだか安心してしまうな)


 どんな時にでも不敵な笑い顔をしながらどうにかしてしまう魔界最強の魔王様。カミラの夫はそういう男でした。

 これも惚れた弱みでしょうか。具体的な事は何も言ってはいませんが、カミラはリオンを信じる事にしたのです。

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