第18話 時よ、とまれ
ついに、時は来た。
幹部6位、ドラゴニクスとの対峙。
今日が運命の日。
スマホの時計によると、午後12時50分。
緊張で心臓はバクバク、手や脇から汗がダラダラ、胃がキリキリ。
就活時の面接やプレゼン発表よりも緊張している。
計画した時刻になると、町の人々は配置についた。
町長は、ドラゴニクスとの話し合いの場に。
俺とエル、カノンは話し合いの場から2kmほど離れたところにあるステージに。
俺の命運も、町の行く末も、人類と魔帝との決着も、すべてこの一戦で決まる。
準備は尽くした。1時間前に、機材もチェックし、町長や役場の人、冒険者たちとも話をした。あとは……なるようになれだ。
「さて、本番当日だ。カノン、どうだ?」
短いスカートには慣れたようだが、
「は……はい……」
黙ってしまった。
俺と同様、ガチガチに緊張してやがる。むしろ俺以上に緊張していた。
そりゃそうだ。命運は彼女の歌にあるんだからな。
緊張している場合じゃないな。そう思うと、不思議と鼓動が遅くなっていった。
だが、あまりにも表情が硬いせいで白と青を基調としたお洒落な衣装が安っぽく見えてしまう。
まずいな。
このままじゃあ、音程がズレたり歌声が震えたりして、素人のカラオケレベルになってしまう。
どうにかして緊張をほぐす手段はないかな。
「緊張を解くおまじないとか知らない?」
「おおおお、おまじないですか? そそそそそんなのあるならとっくにやってます」
「そうか。なら教えてあげる。成功する姿を想像しつつ、深呼吸するんだ。すると、緊張がほぐれるらしいぜ」
「ほ、本当ですか!?」
まさに
「ああ」
俺は効果があったことないけど、素直で単純なカノンなら効果があるかもしれない。
「わかりました! 試してみます。すーはーすーはー」
「あなたは成功する~。戦争を止めたアイドルとして成功す~る~」
「バカじゃないの」
呆れた声を出すエル。
「やってみないとわからないだろ。どうだ?」
「……ダメです。成功する姿が想像できないですっ」
「やっぱりダメか」
「やっぱりダメってなんですか!? 騙していたんですか!?」
「騙したわけではないけど……」
「ハッ」
エルが鼻で笑った。なんか、こいつの呆れた顔、めちゃくちゃ腹立つなー。
「バカにすんならさー。緊張しない方法教えてくれよ」
「そんなのないわよ」
「はぁ?」
「だって、神様って緊張しないもの」
こいつ、腹立つなぁ。
魔帝に出し抜かれた時はめっちゃ動揺してたくせに。
神のくせして全く物事を知らないじゃないか。神ってのは全知全能なんじゃねぇのかよ。
「ミナミどの、エルどの、カノン。そろそろ出番です」
副町長のような人が強張った面持ちで伝えに来る。スマホを見ると、約束の時刻まであと2分だった。
場がピリつく。全ての人が肩に力が入っている。
「カノン、ステージに上がってくれ」
「は、はい」
カノンは青ざめた表情で、ステージへと続く階段を一段ずつ、ゆっくりと上がっていく。
ふらふらしている。大丈夫か。
「カノン、気をしっかり持ってよ」
エルが珍しく励ます。それほどまで、カノンはカチンコチンだった。
歌の出だし、結構音程高いけど、調子外さず歌い出せるか?
皆が心配そうに見守る中、カノンはステージの真ん中に立った。
「エル、準備はいいな」
「誰に言ってんの? もちろんよ」
よし――――そう思った瞬間、
ガタッ!!!
ステージで不吉な音がする。
「カノンッ!!!」
まさかのカノンがしゃがんでしまう。俺はカノンに駆け寄った。
「大丈夫か!?」
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ!!」
過呼吸になってる。嘘だろ!? このタイミングで!?
「エル! 過呼吸を治す魔法は!?」
「そんなもんあるわけないでしょ!」
「くそっ、おいカノン! 落ち着け!」
俺はカノンの背中をさする。
……………だめだ。治る気配がない。
なんだってこんなタイミングで。いや、それよりも何か良い手はないか。
「そうだ、水! 水を持ってきてくれ!」
「過呼吸になっている人が水を飲めるわけないでしょう。焦りすぎよ」
「くっ……!」
焦るなっていう方が無理だ。この解決方法が見つからない。
なっ、なにか周りに使えるものは―――
「時間だ……」
誰かがポツリと呟いた後、スマホのアラームが鳴る。
次の瞬間、丘の上にはドラゴニクス率いる魔帝軍がずらっと、それこそレピアを守る戦士の3倍ほどの量で現れた。
ドラゴニクスがレピアを見下す。
「定刻だ。答えを聞かせてもらおう」
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