第19話 時間稼ぎ

「定刻だ。答えを聞かせてもらおう」


 まずい。完全にまずい。


 カノンは歌えない。


 町長のズボンのポケットに忍ばせたサマルカイトから、町長とドラゴニクスの会話を聞く。


「降伏か、滅亡か」


「私達の答えは―――」


 町長に光の信号で、トラブル発生を伝える。すまない、何とか交渉を持たせて欲しい。


「……すまないが、少し問題が発生した。しばし待ってもらえないか?」


「断る」


 ドラゴニクスは大きな声音でぴしゃりと拒否する。


「この時間に交渉にくると私は伝えた。それにも関わらず、遅刻とはどういう神経をしているのだ?」


「それはもちろん承知している。ワシらも時間を守るために最大限準備した。それでも、不備は起こってしまうものだ。どうか待ってはもらえぬか?」


「知らん。それはそちらの事情だ。私達には何の関係もない。それよりも、決断を聞かせてもらおうか。絶対服従か、完全なる破壊か」


 町長が答えあぐねている。


 どうする……?

 

 このままでは町長が殺される。


 そうなれば、例えドラゴニクスを追い返したとしても、リーダーであり精神的支柱が失われて町が衰退してしまう。


 最悪、再び侵攻された時に防げないだろう。


「カノン! おいカノン大丈夫か!?」


 俺の呼びかけに一切反応しない。完全に周りが見えていない。


 ここは何としても、カノンが復活するまで時間を稼がないと。


 でも、セブンス・レガリアは使えない。今の俺にドラゴニクスを抑える力はない。


 エルは幹部の前に顔を晒せないし、晒した場合は幹部を殺すだろう。


 そうなったら、どれだけカノンが素晴らしい演奏をしたとしても、魔帝軍との全面戦争は免れない。その場合、人類は滅びる。


 だったら―――


「おいっ、この町で一番強力な武器はないか?」


 その場にいる人全員に問いかけると、


「こ、これならっ!」


 ひょいっと片手剣を俺に投げてきた。俺はそれをキャッチする。


 一振り、二振りしたところで、手に馴染む。俺でも扱える良い代物だ。


「ちょっと、それでどうする気?」


 エルが尋ねてきた。


「もちろん、ドラゴニクスを足止めするんだよ」


「アンタ死ぬ気? 舐めない方がいいわよ。ドラゴニクスは確かに幹部の中で一番ランクが低いけど、それでも魔帝軍幹部なのよ。そんな剣とアンタの力で勝てる相手じゃないわ」


「足止めくらいにはなるさ。少しの時間であっても」


「賛成できないわね。仕方ない。今回、私が時間を稼いであげる」


「それはダメだ」


「なんでよ?」


「魔帝からマークされているうち、顔が割れていないのはエルだけだ。だから、エルを狙って殺すことはできない。それにエルはセブンス・レガリアという、素人でも強くなれるチート武器を持っている。戦闘センスがあって聡明な人間に渡せば、魔帝を倒せるかもしれない。一方、俺は顔が割れている。一生、追跡されるぞ」


 俺はエルに笑って見せた。


「大丈夫、エルに引き出してもらった能力で少なくとも3分は稼いでやる。その間、カノンのことは頼んだぞ」


 走ってドラゴニクスの元へ向かおうとする。


「待ちなさい」


 エルが呼び止める。


「なんだ?」


 後ろを振り返った瞬間、7つの水色に輝く武器が俺の周りをゆっくりと回る。


 ロングソード、銃、盾、鎌、杖、大剣、ハンマーと、セブンス・レガリアと武器が若干異なる。


 またセブンス・レガリアよりも近代的な形だ。


「なんだ……これ?」


 セブンス・レガリアほどではないけど、内から力が湧き上がる。

 

 これなら、ドラゴニクスを抑えられそうだ。


「セブンス・ウェポン。セブンス・レガリアを模した武器よ。特別に貸してあげる」


「いいのか?」


「いいよ。だってあなたに死なれると困るからね」


 エルは目を背けて言った。彼女なりに思うことがあったのだろう。まぁ、そのことは今はどうでもいいけどな。


「サンキュー。ありがたく使わせてもらう!」


 使い方はすでにある程度把握している。恐らく、セブンス・レプリカと同じ扱いだ。直感がそういうのだ。


 だから―――


「来い、セブンス・ウェポンっ!」


 念じた瞬間、レガリア同様、身体にオーラを纏う。レガリアと違う点は色と、長い法被のようなものを纏うところだけか。


「変身できるんだな」



「正しくは変身じゃなくて、神化」


「エルの髪と同じ、水色なんだな」


「そりゃあね、セブンス・ウェポンは私が一から生み出した武器だから、私寄りになるのよ。簡単にいうと、私の眷属になるって感じ?」


「よくわかんない」


 はぁ、とエルが肩を落とす。


「……とにかく、レガリアよりは数段劣るけど、ドラゴニクスとの一騎打ちなら十分圧倒できると思うわ」


「その言葉信じる。エル、カノンのこと、頼んだぞ!」


「そっちこそ、それなりに時間稼ぎしてきよ」


「任せときなって。じゃあ、行ってくる」


 俺は空を飛び、急いで町長の元へ向かった。


 ♢♢♢


「答えは決まったか、聡明なる町長よ」


「…………」


 町長が答えあぐねている。額から、冷や汗が流れた。万事休す、か。


「絶対服従を誓うなら、今ここで跪き、フェルディナンド様へ服従の言葉をのべてもらおうか」


「…………………」


 町長は、ついに動かなかった。


「それがレピア町代表者としての答えだな。あいわかった」


 ドラゴニクスが3m超の太刀を構える。


「ならば、完全なる破壊のみだ。安心しろ、痛みを感じることなく殺してやる」


「ここまでか――――」


 ガキンッッッ!!


 ドラゴニクスが振った太刀は、町長に当たる寸前に投げ込まれた水色のオーラを纏った盾に止められた。


「来たな……」


 ドラゴニクスが空からゆっくりと降りてくる俺を見た。


「三波……啓介……」


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