第17話 裸のつきあい?
「お前らっ! ななな!?!?!?」
エルとカノンが、布切れ1枚で身体を隠して現れた。
「ちょっと、こっち見ないでよ。変態!」
「ご、ごめんっ!」
「え、なんで? ええ~……?」
どうしてだ?
これも練習の一環って指示したか?
アイドルってこういう接待やるっけ?
いや、やるかもしれないけど、そんな裏事情は聞いたことない。聞きたくない。つか、やってないで欲しい。
四季メグルちゃんがそんなことやっていたら死ねる。
だからカノンにもやらせるつもりはない。
だからこんなことを練習メニューに入れるわけがない。
「なっ、なんで入ってきた?」
つか、2人とも肌が綺麗だ。
それに体のラインが……。
エルは見た目通り胸が日本人より大きいし、カノンは胸、お腹、お尻のラインが整っていた。
何よりも、風呂に入るためにかき上げた髪の毛が……って想像するな。
平常心を保て。
変なこと考えていると雷が飛んでくるぞ。
そんなことよりもまずは入ってきたことを考えろ。考えるんだ。
…………り、理由が見つからない。
俺に媚びを売って良いことは1つもない。
やばい、頭が混乱してきた。
「そりゃあ、明日が最後になるかもしれないからって、カノンが」
「カノンが?」
まさか、俺に夜這いみたいな……?
「どうしてそういう勘違いされるような言い方するんですか! 普通にお風呂に入りましょうって誘っただけですよ!」
なんだ……。俺に会いに来たわけじゃなかったんだ……。そうか、そうだよな。
胸がちょっと痛かった。あと、変な妄想していた自分が恥ずかしくなった。
そもそも、30代の俺が未成年のカノンに好かれたいって思うのキモすぎるだろ。
でも身体は高校生に戻っているしな。
「そうそう。私もここの温泉はすきだからって一緒に来たわけ。そしたらアンタがいた」
「脱衣所見なかったのかよ! あったろ? 俺の脱ぎ捨てた物がさ」
「あったよ」
エルはぴしゃりと言った。
「カノンは引き返そうって言ってたけどさ。でもさ、神であるこの私が人間ごときに風呂の順番待つのっておかしいじゃん」
おかくしねぇよ? おかしいのはお前の神こそすべてな考え方だ。
「だから、入ってしまおうってことよ」
「んで、カノンはそれに巻き込まれたってことか」
入ったばっかだが、しょうがない。風呂から出よう。
明日の主役はカノン。
そして主役の歌を届けるのがエル。俺は何か起きた時の対処役。
ワガママの優先順位は一番低い。
「出るよ。だから2人でゆっくり楽しんで」
「なんで出るの? そのままでいいじゃない」
「はぁ!?」
エルのやつ、正気で言ってるのか?
「人間には裸の付き合いって文化があるんでしょ?」
「それは同性同士の話だから。それに、エルはいいのか?」
「一緒に風呂入るくらい大丈夫でしょ? 鼻を伸ばしたり触ってきたりしなければさ」
なんてやつだ。
エルって性に関しては割と緩いのか?
「カノンも異論はないわよね?」
「えーっと……」
困ってるじゃん。
「えっと……こっちを向かなければ……大丈夫……です」
消え入りそうな声で許可を出してくれた。
え、マジでいいの? 本気で言ってるのそれ?
遠慮しないけど、大丈夫なの?
「ほらね、カノンもこう言ってることだし、いいじゃないの」
「……わかったよ」
俺は渋々了承した。
あー、心臓がバクバクしている。
混浴なんて人生で初めてだ。
それがこんな美女たちと混浴できるなんて。
俺、明日死ぬんかな。
後ろでばしゃーんという音が鳴る。
少しの水しぶきが俺にかかる。
たぶん、エルだな。
こいつは風呂をプールかなんかと間違えているのか。
こんだけ風呂がデカいと飛び込みたくなる気持ちもわからなくはないけどさ。節度は持て。
「あー、気持ぢいいぃ~~~」
ほら、やっぱりエルだわ。
次いで、ちゃぽんという控えめな音がし、水面がゆったり揺れる。
「し、失礼しまー……す」
どくん、と心臓が鳴る。
まずい。
なんか、背中がむずむずする。
それに落ち着かない。
「あ、カノン? タオルを巻いたまま湯船につかるのはなしだよ?」
「だ、だって、ミナミくんがいますし……」
「大丈夫よ、こっち見ないって言ってたから」
「でもでも、万が一こっちを向いたら……」
「その時は火炎魔法であいつの髪燃やすから大丈夫」
「それは怖いんですけどっ!?」
絶対向かないでおこう。
この歳でハゲたら泣く。
「ほら、タオルなんか巻いてたら温泉が堪能できないでしょ!」
「きゃぁっ!」
ばしゃっばしゃっ、という音とともにカノンの悲鳴が聞こえる。おそらくはぎ取られたな。
「はい、これでオッケー」
「うぅ~」
「ほら、そんなに気にする必要もないでしょ」
「わ、わかりましたよ……」
「そうそう、そんなふうにね。はぁ~気持ちいい。さすが私、温泉って概念つくっておいてよかったわ~」
エルは満足そうに笑った、気がする。
そこから3人とも黙る。
湧き出る温泉の音が聞こえるだけ。
「ついに……明日……ですね」
カノンが不安そうに言う。
「そうだな」
「私なんかの歌で、争いを止めることはできるのでしょうか?」
「不安か?」
「……はい」
力なく答えたカノン。
「あの……今まで言えなかったんですけど……私、実は魔物恐怖症なんです」
ダグラスさんから聞いていたから、驚きはしない。軽く驚くふりをするだけ。
「軽度ですけど。魔物を見ると足がすくんで、動けなくなっちゃって。大きな魔物だと特に」
自我を守るために記憶を封印して“カノン・チャタレー”として生きているからだ。
その副作用として魔物を見ると怖くて動けなくなる。
生まれ故郷を滅ぼした魔物を見ると記憶の封印が解けてしまう可能性があるからな。
だから魔物と会わないことが無いよう、カノンの脳が自動的に恐怖を覚えるようにしている、というのが俺の導いた結論だった。
「大丈夫だ。ステージから魔物の姿は小さく見える。カノンが心配するほどでないさ」
それを防ぐためにも、ステージとドラゴニクスとの交渉の場は遠ざけている。
目が異常に発達していなければ、ドラゴニクスを始め、魔物たちがはっきり見えることはない。
「それに、ケースケが絶対に守ってくれるからね」
「そうなんですか?」
「もちろん。死んでも守るよ」
まぁ実際、セブンス・レガリアがないから、ドラゴニクスと戦ったら100%負けるけどね。
「エルも守ってくれるさ」
「危なくなったら逃げるけどね」
「おい。そこは絶対に守るって言ってやれよ」
「嘘を言うより、真実を言う方が優しいと思うけど?」
「最低な真実を伝えてどうするんだよ」
「うるさいわね。髪、燃やすわよ」
「ふっざけんな!」
「あはは……」
カノンの乾いた笑いが、湯気のように消えていく。
「カノン」
俺は背中を向けたまま続ける。
「お前が失敗しても、お前の責任じゃない。俺の責任だ。だって、たった3日間しか練習していないんだ。それで結果を出せっていう方がおかしい。不安になるのも当たり前だ。だからさ、思いっきり歌えばいい。いつぞやの、俺を救ってくれたときみたいに、自分の気持ちに素直に、な」
「ミナミくん……」
「明日楽しんで、夜はチャタレーで慰労会を開こうぜ」
「はい、そうですね!」
「そして慰労会のあとに、また
「それは嫌です」
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