第13話 田舎町滅亡まで、あと何日? ①

 カノンがアイドルになると決断してすぐに、レッスンが始まった。


 場所は、俺達を襲ってきた荒くれ者のアジトを借りたぶんどった


 理由は2つ。豊富な労働力(タダ働きだけど)と大きくて屋根のあるホールのような場所があったからだ。


 練習できる良い場所を町長に訊いたところ、町はずれの荒くれ者どもが集うアジトが一番に挙がった。


 なまじ町の冒険者より強く、レアな装備を持っているので、誰も迂闊に手を出せないと町長は言う。


 だが、あんな荒くれ者どもも町を壊されたり町に運ばれる物資が魔物に奪われたりするのは嫌なので、周辺に生息する強大な魔物は狩ってくれることもある。


 そういう意味では、共存関係にあるのだ。


 まぁ、気性が荒くてしょっちゅう揉め事を起こしているから、町の人々から忌み嫌われているらしい。


 実際、町の若者は何度もカツアゲにあっているし、何人もの女性冒険者が犠牲になったと聞く。


 だから、荒くれ者にお灸を据えるという意味でもアジトへ行ってくれないか、という依頼も受けたので、俺とエルはアジトへ向かった。


 エルは『あんなむさ苦しい男どもがいた場所なんて、絶対汚い! 死ね!』と言って反対したが、いざ行くと『なんでこんなにいい場所がカスどもの住処になっているのよ! 死ね!』とアジトに向かって言っていた。


 荒くれ者もびっくりの傍若無人っぷりである。


 カノンは連れて行かなかった。もしかしたら、荒事になるかもしれない。そんなところを見せるわけにはいかない。


 アジトに入ろうとしたタイミングで、荒くれ者のボスがと鉢合わせする。


「あっ」


「げぇっっ!?!?!?」


 屈強な体格を持つボスがのけぞり、後退りする。


「ななななな、なんでオマエがここに……」


「おまえ?」


 エルがピキッとくる。


「あ、いえ、貴方様でしたっ!」


「そうよね。口の利き方、学んだ方がいいわよ。ダッパオ」


「え、どうして俺の名前をっ!?」


「アンタの名前だけじゃなわ。アンタのグループ名も知ってるわよ。レッドサイクロンっていうだってね」


「ぐっ、なぜそれを」


「なにって、町長から聞いたから。もう忘れないわ」


「いや、そんな。貴方様の脳に刻んでおくほどの名前じゃないっすよ。つか、忘れてほしいっす……」


 レッドサイクロンのボス、ダッパオが縮こまる。


「で、今日はどんな用で……ございますか……?」


「あなた達、ずいぶんと良い場所に住んでるのね。気に入ったわ。今日からここを私達のアジトとして使わしてもらうから」


「えっ!? それは困ります。そしたら俺ら、どこに住めばいいんすか!?」


「あそこよ」


 エルが指差す。……何もないぞ。ただの草原が広がるだけ。


「え、なにもないすんけど」


 俺と同じ反応しちゃってるじゃん。


 エルがパチンと指をならす。


 すると、ぐぐぐと地に生えた草たちがどんどん伸びていき、立派な2階建て木造住宅が完成した。


「「すっご!」」


 俺とレッドサイクロン達の声がハモった。


 でも実際凄い。さすがは女神。性格が最悪でも、魔法能力は異次元レベルで高い。


「今日からこの寮に過ごしてもらうから。あと、必要な時に呼び出すから。呼び出したら3秒で私の元に来てよ」


「つまり、仕事ですか?」


「違うわよ。ボ・ラ・ン・ティ・ア。償いのボランティアよ。それで、今までの不手際は許してあげるわ」


「あの……俺ら、不手際する度に立てなくなるくらいボコられてるんですけど」


「それはお仕置きよ。お仕置きと償いは違うでしょ。わかる?」


「いやぁー……どうでしょうかー……」


「だから、よろしくね」


「ははは」


 レッドサイクロン達の笑い声は乾いていた。


 そりゃそうだ。

 

 急に来た絶対勝てない奴にここまで好き勝手命じられたら、笑うか泣き叫ぶしかない。


 その点、こいつらは泣かないだけ根性を持っているといえる。


 俺の世界でも優秀な社畜として身を滅ぼせるだろう。


 ズドンッ!


 突然、8m先に雷が落ちる。俺含め、エル以外全員ビックリして肩が跳ね上がった。


 雷が落ちた場所にいたのは、丸焦げになったレッドサイクロンの人間だ。


 手にはボウガンを持っていた。


 あぶねー、俺らを狙撃しようとしていたのか。


「あらあら、また1つ、償うことが増えちゃったわねぇ~」


 うわぁぁ。


 エルが悪い顔をしている。


 反面、レッドサイクロンの人達は恐怖に怯えている。


「大丈夫、殺してないわ。重要な労働力だもの。その証拠に、あなた達のことは半径10㎞以内なら見えていなくても察知できるわ。大事な労働力は、しっかり管理しておかないとねぇ」


「ひぃっ」


 こええええ。絶対に敵に回したくない。凄いしつこそうだし、死んだら呪ってきそう。


「でも、これ以上イタズラするなら、火力を間違えてしまうかもしれないわ」


 エルは右の人差し指に魔力を超圧縮させた雷弾を浮かべて問う。


「協力してくれるわよね」


 彼らに選択肢はなかった。


 ということで、このアジトを借りることに成功した。レッドサイクロンの人々が死に物狂いで掃除してくれたおかげで、快適な練習環境は整った。


 過去に色々あったことは抜きにして、まずは感謝したい。


 ありがとう。


 そしてこれからの雑用係、がんばってくれ。


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