第2話 電神と世の中の無駄





「大賢者の孫娘って。マジか?」


「やっぱりそうでしたか。道理でお美‥‥気品があると思ったんですよ」


 私は彼らと食事を共にしながら素性を明かしました。そして、私が旅をする理由も。



「どうか、一度王都に行き、【ディオゲネスの灯】の発動を試して頂きたく」


「断る」


「ええ? なんで!」


「‥‥その魔道具を俺が発動できたとする。で、世界の滅亡をどんくらい遅らせられるんだ? で、遅らせて、何の意味があるんだよ?」


「座して滅亡を待つより出来うる抵抗を、です。その間に天才雷魔法使いが見つかるかもしれません」


「全部可能性の話だ。発動しないかもしんね。途中で魔道具がぶっ壊れるかもしんね。世界が闇に飲まれるのを少し遅らせるだけ? 無駄だ。俺は無駄が嫌いなんだよ」


 こんな感じのバシルさんを、ヤリヤさんが宥めてくれました。


「まあまあバシルさん。行くだけ行ってみましょうよ。ワンチャン【闇】を払えるかもしれないし。エオスさんだって雷魔法使いを連れてきたら、王都住みに戻れるかもです」


「ま、まあ私はともかく。世界の為に是非お願い致します。路銀はあります」


「ん~。まあ、このまま村の便利屋やってるよりはマシか‥‥」





 こうして、私とバシルさんは王都に向かう事となりました。――おや? ヤリヤさんは何でついてくるんでしたっけ?




 途中。バシルさんの提案で、道々で「世の中の無駄な事」を探していく事になりました。彼にはまだ、その身体に魔力を溜める余裕があるそうです。


「王都に着くまでに溜めていけば無駄がないだろ?」とのこと。





 色々な所を回りました。



 ある村では子供が河原で石を積んでました。その行為を無駄、と判断して魔力徴収。

 子供の遊びは無駄率? だけは高いそうです。





 また、ある村では膨大な魔力を徴収する事ができました。蝗害こうがいで畑が全滅していたのです。その費やした時間と濃さ、対象者の無念が深い程、徴収魔力は大きいそうです。



 ――じ、若干、村の皆様に石を投げられましたが。





「でもバシルさん。無駄かどうかって、判別難しくないですか?」


 村を出ての帰り道。投石の傷に治癒魔法をかけながら私が訊ねます。


「ああ?」


「だって。‥‥例えば踊り子を目指した娘がいたとします。その子は踊りの練習をして。 で、やっぱりなれなくて落胆。――この時点で徴収できますよね? でも、他の道に進んで成功したらどうですか? その娘が踊りで学んだ知識や挫折の経験を生かして、他の道で輝いたとしたら。踊り子になろうとした経験は無駄じゃあないとしたら?」


 彼は仏頂面でした。


「‥‥結局電神でんじん次第さ。コイツには未来予知の能力があるかもだ。『今までしこしこと積み上げた物が無駄になるかどうか?』を判別して、無駄ならさっさと徴収。努力したり悔しがったりした時に形成された積層思念を、魔力に置き換えてるんだぜ。【しこしこ電神でんじん】の名前の由来だろう」




 ***




 それからまた村々を巡って、今日訪れた村は先日の村とは真逆に、日照りで水不足。




「ちょっと! 何するの? お止めなさい!」


 私は思わず声を荒げました。だって。


 バシルさんが、村人の無駄になった労苦を魔力に変換。


「【水】で」


 何と彼は、その魔力を全て水魔法に換えてしまったのです。


「井戸は? いや、瓶があればそれに入れます」



 村人達は大喜びだったけど、私は彼を咎めました。



「‥‥世界の存亡とこの村ひとつ。どちらが重いか問うまでも無い筈」



 彼は無言でした。ただ、吹く風が彼の前髪を除けた時、その左目と視線が交差しました。


 哀れみと意思のこもった眼光。




 私は思わず後退りして。


 そう。彼は「無駄」を嫌うけれど、それは「本当に必要な事」を為すための裏返しなのです。


「‥‥先に言ってくれれば、私にだってこのくらいは。貴方の魔法は【雷】にすべきなのです」




 私は片手を天に向け呪文を詠唱。暫くして小雨が降りだしました。


「やるな。さすが大賢者の娘」





「孫です」





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