【しこしこ電神】で世界を救え! 私達が奏でる! 異世界スマートグリッド!!

いぬぅと※本作読んで作者への性癖認定禁止

第1話 電神と孫娘






 世界が、【闇】に包まれようとしていました。

 この世界はほのかに、くらい。



 人類は嘗て、この世界を統べる魔王に敗北。そして魔王は勝利の証、人類の反抗の代償として。

 この世界から、「永遠」を奪いました。


 じわじわと、衰退してゆく人類を見届けるつもりなのです。



 【闇】は世界のはてに興り、彼方から此方へと。




 ***




「行かれるのですね。エオスお嬢様。大賢者様は、残念でございました」


「いえ。お気遣いなく。このまま出立致します。そも、わが身の不徳が故の事です」



 私、エオスは、見送る数人に手を振り王都を後にしました。大賢者と呼ばれた祖父の遺言通りに東へ。

 優れた預言者でもあった祖父の、言向けに従います。





 世界を、闇が包もうとしています。魔王が世界にかけた呪い。この地上のはてからじわじわと迫る【闇】。

 人類の生活領域を、まるでゆっくりと首を絞めるように。

 今この瞬間も狭めているのです。



 その【闇】を振り払う力を持つのが、大賢者である私の祖父でした。


 破魔の星光を放つ魔道具【ディオゲネスの】。

 その聖なる光【星光せいこう】だけが、この世界を覆いつくそうとする【闇】を払拭しうる器物。

 その闇払いの原動力となるのは、雷属性の魔法。


 そして祖父は、この世界に残された、唯一の雷魔法使いでした。



 そして私は、その偉大な魔導士の血を受け継ぐ、人々の一縷の望みを一身に背負う存在、でした。


 そう。「でした」なのです。




 私には、雷魔法は使えなかったのです。




 人々の期待は落胆へ変わりました。折しもの祖父の死。両親は既に亡く。


 王家に庇護されていた私ですが、もう、王都に居場所はありませんでした。


 祖父の遺言通りに東へ。ただ東へ。雷魔法の才の無い無能な孫娘は、雷魔法使いを探しに旅立ちます。



 せめてもの、罪滅ぼしに。




 ***




(これは中々、難しい物ですね?)


 とある村の、寂れた酒家バル


 そこではひとりの青年が、喉を鳴らして音曲おんぎょくを奏でていて。――いえ、精魂込めて歌っているのは判るのですが。




「さっきからうるせえんだよ。この下手くそが!」


 ついに、というかやはり。酔客すいきゃくから文句が出ました。言われた青年が可哀想、ですけどその歌声はあまりにも‥‥なので、私も弁護する余地がありません。


「ったくこの店は何なんだよ。チッ! ドブスが! 俺の視界に入んじゃねえ!」


 イライラついでに給仕の娘も怒られて。これも、同じ理由で可哀想。


 そこへ。






「お前の無駄を徴収する。【しこしこ電神でんじん】!」




 颯爽と、ではないですね。酔客の後ろにモソッと現れた少年が、そうのたまうと。



 出ました。彼の背後から、ひまわりの花みたいな、太陽みたいな意匠デザインの精霊が。


 一瞬、子供の落書きに見えましたが、精霊様のようです。



 その精霊が、酔客から光の粒子、魔素を集めます。


「てめえ。何してくれてんだ! ああ?」


 酔客の男は驚き、少年の胸ぐらを掴みますが、彼は怯みません。


「オッサン。あの歌を下手だと言ったよな? あの娘をブスだと言ったよな。それが無駄だから徴収したのさ」


「ああ? 精霊使いか? わかるように話せや」


「‥‥オッサンが歌い手にそう言っても。あの娘にそう言っても。アイツ等の何が改善するのさ? ヘタはヘタ。ブスはブス。言うだけ無駄だよ。――俺の精霊は、そういう無駄を魔力に換えて集める【しこしこ電神でんじん】てのさ」



 少年は、「フッ」と笑うけど、その場の全員同意見。




「いや、精霊の名前ネーミング‥‥」




「しょうがねえだろ? コイツが現われた時そう名乗ったんだよ。しこしこと積み重なった人類の、無駄な営為を魔力に変換する。改名しようっても無駄。あ~無駄」


 俺から何か奪う系のヤツじゃあねえんだな、ホントだな? と念を押しながら酔客は退場。一応場は収まりました。





 でも、私の目を奪ったのは、その直後でした。




「‥‥んじゃあ。【火】で」


 少年がそう命じると、目鼻のついた落書きの太陽、みたいな精霊は、火の魔力を少年の体内に封じました。



「え?」


 思わず少年に駆け寄ります。


「あん?」


「貴方、今、何を?」


「‥‥何って。この精霊が集めた魔力は、溜める時に属性を選べるんだ。俺は攻撃力の高い火属性にしてる。火起こしする無駄もね~しな」





 王都を出て半年。色々辛酸を舐めて、やっと探し当てました。おじい様の言向け。彼が恐らく、目的の人物。





「それって、雷魔法にも変換できますか?」


「‥‥雷はいけんじゃね? チョイスできる筈」

「是非確認して頂けないでしょうか!!」



 私が懇願すると、少年は面倒くさそうに。


「確認してどうすんの? やった事あるし出来るから。アンタに見せるだけ無駄‥‥」

「本当ですか!?」



 小躍りする私を、彼は怪訝な表情で見ていました。ボサボサの髪が顔半分を覆い、表情は見えません。やや長身で痩せています。全体的に気怠そうな雰囲気の少年です。




「‥‥‥‥あ、あの」


 その彼の背後から黒縁の丸眼鏡をかけた人物が。もじもじと私に話しかけて来ました。少年が顎で指差します。


「‥‥ああ、コイツはヤリヤってんだ。同じ村出身で‥‥まあ変人なんで俺と一緒に追い出されてな。あ、俺はバシル。まだ名乗ってなかったな」


 私も2人に挨拶をします。眼鏡の男性は、背は私より少し低いくらい。なよなよとした印象です。


「私はエオスと申します。故あって、雷魔法の使い手を探しておりました。‥‥是非バシルさんのお話を詳しく伺いたいのですが」



 と、申し込んだのですが、長髪の彼は丸眼鏡さんに話しかけます。



「オイ。ヤリヤ。この女絶対お嬢だぞ。お前が懸想けそうしても無駄だぞ?」


「うわあ! ちょっとバシルさん。まだ始まってもない僕の恋を勝手に終わらせないで下さい!」


「だって行くだけ無駄じゃんか。どうせ脈無しだから」


「いや、それヒドイ! ヒドすぎる!」




 そんなやりとりをする2人を、私は茶屋に誘いました。





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