1082 会いたかったけど、逢いたくなかった人物

 倉津君の受験勉強を見に、彼の実家までやってきた眞子。

まずは表玄関で、組の幹部である玄さんと愛想よくトークをしてから、倉津君の部屋に向かうのだが……そこで。


***


 ……そんな風に、ちょっと長めの玄さんとの挨拶をした後。

私は、いつもの様に、真琴ちゃんの部屋に向う廊下を歩きながら、行き交う組員の方達に、普段の通り笑顔で挨拶をする。


でも、此処にも少し変化が見受けられる。


私が通い始めた当初は、皆さん怖い顔をして、ただ会釈する位で留まっていたんだけど。

此処最近って言うか、ちょうど先週ぐらいからは、皆さんが微妙に愛想良く挨拶を返してくれる様になった。


まぁこの行為を『ヤクザとしては、どぉなの?』とか思ってしまうかも知れないけど。

これからのヤクザは、今まで以上に世間からの風が強くなってくるから、こう言う愛想の良さも必要不可欠になってくる。


弱者から脅して取るだけのヤクザなんて、時代錯誤も良い所だしね。

だから私は、少しづつでも世間に対応出来る様になって来た皆さんに対して……なんか嬉しく感じる。


そんな事を考えながら廊下を歩いていると……今まで1度も逢わなかったのに、今日に限っては、ある人物に出会ってしまった。



「うん?あの、もし、どちらさまでしょうか?」


そぉ、真琴ちゃんの部屋に向かう廊下で出逢ったのは、真琴ちゃんの妹である真菜ちゃん。

(私は、真琴ちゃんじゃないので『~ちゃん付け』をする事にしている)


事情が事情なだけに、この子とだけは顔を合わせにくかったから、出来れば会いたくなかったんだけど……いや寧ろ私は、この変わり果てた姿を真菜ちゃんに見られたくなかっただけなのかもしれない。


でも、出逢ってしまった以上は、出来るだけ愛想良く話そう。

この一件に関しては、真菜ちゃんに、なにか罪が有る訳じゃないんだから。


これは何処まで行っても……私個人の問題だし。



「あぁっと、初めましてになるのかな?私は、真琴ちゃんの同級生の向井眞子って言います」

「あぁ、貴女様が向井眞子様でしたか。御高名な噂は、かねがねお伺いしておりましたが、お初にお目にかかります。私、倉津真琴の妹、倉津真菜と申します。愚兄が、いつもお世話に成っております」


あぁ、なんか、真菜ちゃんの持つ私の印象悪くないみたいだね。

なんの違和感もなしに、いつも通りの雰囲気で話をしてくれてる。


でも、真琴ちゃんは愚兄……ですか。


まぁこの辺は、真琴ちゃんの過去の行いを見てたら、そう見られても仕方ないけど、なんか微妙に傷付くなぁ。


なら、初対面でちょっと馴れ馴れしいかも知れないけど、一応、真琴ちゃんのフォローしとこ。



「あぁ、いえいえ、お世話だなんて、そんなそんな。私の方こそ、いつも真琴ちゃんには色々お世話に成ってるんですよ」

「くすっ……眞子さんは、ご冗談が、お好きなんですね」

「えっ?どうしてかな?私、冗談なんか、なにも言ってないよ」

「ふふっ、いえいえ、ご冗談が過ぎますよ。学校きっての秀才と噂されている眞子さんが、ウチの愚兄の、お世話になる事なんて。ふふっ、そんなものがある筈がありません。……なにか、脅されてるのではないのですか?」


酷い……その認識は、あまりにも酷いよぉ。


まぁ確かにね。

今の真菜ちゃんの言って通り、去年の4月頃までは『究極の人間の屑』だったかも知れない。

けど、奈緒ネェに逢ってからの真琴ちゃんは、そう言う真菜ちゃんの思う様な悪行は一切しなくなってるんだよ。


私が言うのもなんだけど、色々な面で、結構、真面目に生きてると思うんだけどなぁ。



「うぅん、なにも脅されてなんかいないよ。私は、真琴ちゃんの人柄が好きだから、こうやって、少し勉強のお手伝いをさせて貰ってるだけ。そう言う目で、お兄さんを見ちゃいけないよ」


……って言うかね。

真琴ちゃん、あれでも真菜ちゃんの事を溺愛してるから、そう言う眼で見るのだけは、出来ればもぉヤメてあげて欲しいなぁ。


本当に真面目にやってるから。



「……そうですか。では、眞子さんは兄を慕ってると言う訳ですか?それとも、余りにも哀れな存在だから、同情されているのでしょうか?」


哀れみに、同情って……次々に暴言が出て来るんだね。


うぅ……



「うぅん、全然違うよ。そのどちらでもないよ」

「違うのですか?」

「うん、私は頑張る人間が好きなだけ。だから真琴ちゃんは、それに値する人間だと判断したから、協力をさせて貰ってるだけだよ。過去の話は過去の話だしね」

「……そうですか」


なんか納得してない顔だね。


そんなにまで、真菜ちゃんのお兄さんはダメですかね?


最近は割と悪くないと思うんだけどなぁ……


私が、そう思うなら、もっとフォローしなきゃね。


せめて、潤滑な関係を……



「あの、真菜ちゃん。真琴ちゃんはね。真菜ちゃんが思ってる様な悪い人間じゃないんだよ。学校のクラスメイトにも好かれてますし、郊外でも色々な人に慕われてるよ。とても良い人なんだよ」

「あの……ウチの兄がですか?それは、どなたかと勘違いされてませんか?」


うわ~~~~ん。



「なにも勘違いしてないよ。……まぁ確かにね。昔の真琴ちゃんは、相当悪かったかも知れないけど。今の真琴ちゃんには、そんな面影すらないよ。いつまでも過去に囚われて、誤解してちゃいけないよ」


まぁ真菜ちゃんは、名門私立女子中学に行ってるし。

クラブ活動が忙しくて、真琴ちゃんに会う機会が少ないから、真琴ちゃんとの会話は殆ど無い。


それに真菜ちゃんは根が真面目だから、夜の21時には床に付いて、早くに寝てしまう。


だから、この辺の事情は良く知らないんだろうね。



「本当に、そうなのですか?」

「ホントだよ」

「そうですか。ですが、もしそれが事実ならば、何故、兄は、深夜に平気で他人の家に訪れる様な素行の悪い方を、自分の彼女にしているのですか?少々、その辺に違和感を感じるのですが。私、あぁ言う常識の無い方は、生理的に好かないのですが」


あぅ……奈緒ネェも嫌ってるんだ。


まぁ確かに、自由を好む奈緒ネェと、清廉潔白に生きてる真菜ちゃんとでは、ある意味、真逆の性格だからなぁ。

奈緒ネェの行動を理解出来無いのも解らなくもないかぁ。


あぁ、でも……此処もなんとかして置かなきゃね。



「あの、ごめんね、真菜ちゃん。実は、その人、私の姉なんですよね」

「えっ?そうなのですか?眞子さんとは、同姓なだけなのかと思っていました」

「あぁ、うん。血は繋がってませんが姉妹ですね」

「あぁっと、これは、とんだご無礼を。……ですが眞子さん。貴女様のご姉妹は、少々破天荒過ぎるのでは有りませんか?」


まぁそうだね。


確かに奈緒ネェは破天荒だね。



「あぁっと、ごめんね。でも、奈緒ネェはね。あぁ見えて忙しい人だから、無理矢理時間を作って真琴ちゃんに逢いに来てるから、どうしても時間が不規則になっちゃうのよ。ホントごめんね」

「眞子さんの御姉様は、そんなに忙しい方なのですか?っと言いますか、眞子さんの御姉様は一体なにをされている方なのですか?」


ヤッパリなにも知らないんだ。


まぁ、真菜ちゃんは、その一身に両親の愛情を注がれている温室育ちのお嬢様だから、俗世間に疎いからなぁ。

だから、バンド系の音楽なんて殆ど聴かない。

故に、ひょっとしたら、奈緒ネェの事を知らないのかとは思ってたけど、まさか、本当に知らないとは……



「えぇっと。アメリカで音楽活動を……」

「アメリカで音楽活動ですか?ご高名な方なんですか?」

「あぁっと、一応、今アメリカでは一番有名なバンドかと」

「そうでしたか。そんな事情とは露知らず、一方的な意見を述べてしまいました。深く謝罪させて頂きます」

「あぁ、謝らなくて良いんだよ。変な時間に、家にお邪魔した奈緒ネェも悪いしね。『お互い誤解があった』って事で良いんじゃないかな」


これでどぉ?


奈緒ネェにだけは、悪い印象だけは持たないで欲しいなぁ。



「解りました。では、認識を改めさせて頂きます。……それにしても眞子さんは、お優しい方なのですね」

「えっ?なんで?別に、私は優しくないよ」

「そうですか。ですが、私個人と致しましては、眞子さんの御姉様が愚兄の彼女ではなく。眞子さん本人が、愚兄の彼女だったら良かったと思いますね」

「えっ?それは、どうしてかな?」

「はい。いずれ、我が倉津家に嫁いで頂けるなら、眞子さんの様に兄の傍に居て、本気で心配してくれる様な方の方が、私としては有り難かったので。……アチラコチラに行かれてる様な忙しい方では、愚兄の監視が行き届かず。兄が、またなにを仕出かすか解りませんので」


あぁ……そう言う風に捉えるかぁ。


でも、それは、私も、奈緒ネェと、そんなに変わらないかなぁ。

なんか面白そうな事が有ったら、直ぐに飛びついて、そこまで飛んで行っちゃうからねぇ。


……って言いますか。

その件に関しましては、ある意味、奈緒ネェより、私の方が、数倍以上、性質が悪いかもしれないしね。


まぁまぁ、それはそれとしても。

真菜ちゃん、なんで初対面なのに、こんなに私と喋るんだろうね?


また話が『嫁』の嫌な方向に行ってる事だし、そっちに話を転換させよぉ~っと。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【後書き】

最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございましたぁ♪<(_ _)>


会いたいけど、逢いたくなかった人物は、倉津君の妹の真菜ちゃん。

そして理由としては、言わずともご理解頂けるとは思うのですが。

『自分の今の姿を見られたくなかった』のと『組や彼女から逃げた罪悪感』等が挙げられます。


まぁ眞子自身が、体の身ならず、完全に精神まで女性化してしまっているだけに、相当そんな自分の姿を妹には見られたくなかったんでしょうね。


……とは言え、それは眞子サイドだけの問題であって。

そんな事情を知らない真菜ちゃんが、眞子に普通に接して来るのも当然。

いや寧ろ、真菜ちゃんにしたら眞子は『出来の悪い兄を見捨てない様な出来た人物』っと言う認識に成ってもおかしくはないので。

眞子がビビっている心境とは裏腹に、眞子に対する好感度は非常に高かったりします。


こう言うお互いの噛み合わない心境こそが『人間関係の面白さ』になるのかもしれないですね(笑)


さてさて、そんな中。

この後も、もう少し子の真菜ちゃんとの会話が続く訳なのですが。

眞子は、そんな真菜ちゃんの気持ちに気付く事が出来るのか?


次回はその辺を書いて行こうと思いますので。

良かったら、また遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾

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