1081 玄さんとの一時

 争奪戦の問題を色々抱えながらも、キッチリと倉津君の受験勉強を見に行く眞子。

そして倉津君の実家に到着後、門の前で幹部組員である玄さんと遭遇するのだが……


***


「あぁ、はい。また今週も早朝からお邪魔させて戴いています。お世話様です」

「いやいや、なにをおっしゃいますやら。眞子お嬢のお陰で、あれ程、勉強を嫌がってたウチの坊ちゃんが勉強をされる様になったんですぜ。感謝はございやしても、寸分たりとも文句なんかございやせんやな」

「あぁそんな、そんな。ヤル気を出してるのは、真琴ちゃん本人の意思ですから。私は、ほんの少しだけ背中を押させて貰ってるだけなんですよ」


いや、これね。

本当の話なんだけどね。

此処最近の真琴ちゃんは、誰かに言われてる訳でもないのに、物凄く自主的に勉強してくれる様に成ったんだよね。


ホントの所は……なにがあったかは知らないけど、この自主性は非常に有り難い。


勉強は、自らやった方が効率が良いからね。



「いやはや、お嬢は、お若いと言うのに、実に謙虚でいらっしゃいますな。他人の為に、これ程の事をされる方なんざ早々に居らっしゃらないと言うのに。それを『本人の意思』だけだと言い切る。なんとも格好の良い話ですな」

「あぁ、いや、格好良くなんてないんですよ。偶々、星の巡り会わせで、こう言うタイミングを頂けたんですから。それに、お互い真剣にやらないと価値がないですからね」

「いや、全く持って素晴らしい思想ですな。……眞子お嬢、良かったら、このまま倉津組に嫁いでくれやせんかね?お嬢みたいな人が、倉津組の姐さんになってくだされば、組も安泰ってもんなんですがねぇ」


あぁっと……その件に関しましてはですね。

これからも真琴ちゃんのフォローは、粉骨砕身、幾らでもさせて貰うつもりですけども、色々な意味で『嫁』だけは死んでも嫌ですね。


それに、それをしちゃったら、今までの苦労が水の泡。

元の木阿弥ですからね。

それ処か、眞子の存在の意味すら無くなっちゃいます。


だから此処だけは、丁寧にお断りさせて頂きます。


まぁ、それになによりですね。

私には、崇秀、真琴ちゃんには、奈緒ネェって大切な人が居ますからね。


ホント、勘弁して下さいな。



「あぁ、いえ。そう言って頂けるのは、非常に有り難いんですけど。真琴ちゃんには、ウチの姉が居ますから大丈夫ですよ。それに、ほら、私が、直接、嫁入りさせて貰わなくても。姉と真琴ちゃんが結婚すれば、自ずと、私とも血縁関係には成りますしね」

「あぁ、確かにそうでやすね。それに奈緒お嬢も、眞子お嬢同様に、気持ちの良いお方だ。あの年で、あの気風の良さは中々出やせん。いやはや、お2人は大した姉妹ですな」


そんなに褒められてもなぁ。


まぁ、玄さんの言う通り。

確かに奈緒ネェは常軌を逸した、凄い行動力のある人だけど。


私は……ねぇ。


根本的に『後ろめたい』だけなんですよね。



「そうですかね?ふふっ、でも、ありがとうございます」

「いやいや、感謝の言葉なんて要りやせんよ。コイツは、まごう事無き事実でやすからね」

「ははっ……もぉ困ったなぁ」


本当に困るね。

それに、これ以上褒められるのは、精神的に辛い。


だから、そろそろ、この話は切り上げさせて貰おう。



「えぇっと、玄さん。お話の途中で申し訳ないんですが。……そろそろお邪魔させて頂いても良いですかね?真琴ちゃんも待ってると思いますので」

「あぁっと、こりゃあ失礼。あっしとした事が、調子に乗って、とんだお邪魔をしちまいやしたね。どうぞどうぞ、ご遠慮なく、中にお入りくだせぇ」

「あぁ、じゃあ、お邪魔しますね。……あぁ、それと玄さん。いつも、こんなもので悪いんですが。良かったら、これ、飲んで下さいね。少しは体が暖まると思いますんで」


駅でココアを買った時に、一緒に買って置いた『ホットの缶コーヒー』を玄さんに手渡す。


まぁ勿論、これ自体に、特に、これと言った他意は無いんだけどね。

組の幹部なのに、いつも家の廻りを綺麗にしてくれている玄さんへの、ちょっとした感謝の気持ち&此処までのカイロ。



「あぁこれは、これは。あっしなんかの為に、いつもいつも、お気遣いすいやせんね。御代は幾らでやすかい?」

「いえいえ、そんなの要らないです、要らないです。いつも親切にして頂いてる玄さんに、ささやかなお礼ですから」

「ハァ……、眞子お嬢は、お優しい方ですなぁ。まだ中学生の身でありながら、あっしらヤクザ者にも分け隔てがねぇ。……そのお優しいお心遣い、ありがたく頂きやすね」


缶コーヒー1本で……そんな大層な。


まぁ喜んで貰えてるなら、それは、それで有りなのかな?

……ってな感じ思って居たら、玄さんは、実に、美味しそうに缶コーヒーを一気に飲み干した。



「ぷはぁ~、あったけぇでやすねぇ。こいつは、本当に生き返りやす。眞子お嬢、いつも、ありがとうございやす。コイツは、観音様からの頂き物に等しい物でしたぜ」


毎度毎度の事だけど……本当に大層だなぁ。


缶コーヒー1本で、そこまで言われたら、逆に気づつないよ。



「いえいえ、そんなそんな。……あぁ、じゃあ、その空き缶は中に持って行きますね」

「いやいや、そいつは流石にイケやせんやな。親切にして頂いたのに、滅相もねぇ話でさぁ。あっしが頂いて飲んだものでやすから、後で、自分で始末して置きやすから」

「ふふっ、どうせ捨てるなら、誰が捨てても同じじゃないですか。持って行きますよ。はい、下さい」

「そうですかい?じゃあ、お言葉に甘えて」


そう言って玄さんが、空の缶を渡して来たので。

受け取った後、冷えてる玄さんの両手をギュッと握って、少しだけ暖めてあげる。


それで、ちょっと玄さんの手が温くなったら、一言添えて、この場を後にする。



「では、お掃除頑張って下さいね」


ハイ、ニコッとね。


まぁまぁ『玄さんに対して、無駄に好感度なんか上げてどうするんだ?』とか思うかも知れないけどね。

今更ながらかも、玄さんは、私の事をズッと世話をしてくれた人だから、私がこの姿であっても、せめて、この人にだけには好感を持って欲しい。


だから……ねっ。



「眞子お嬢は、本当に観音様の様な女性ですな」


いや……私に対して、そう言う『神仏系』の認識を持つのは辞めて下さいな。

真上さん系は、精神的な負担が大きくな上に『キャラ・キープ』が大変なんで……


私には到底無理難題な話でございます。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【後書き】

最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございましたぁ♪<(_ _)>


長い間、倉津君の面倒を見ていてくれた玄さん。

今後も倉津家と付き合いがなければ、眞子自身も玄さんの事を割り切れたのかもしれませんが。

付き合いを持つ事を決めた以上、矢張り玄さんには特別な感情が湧いて来て、好印象を持って欲しいと思ってしまうみたいですね。


えぇ事です、えぇ事です♪


まぁ眞子自身は、こう言う事を求めてる訳ではないのでしょうが。

別口で見た場合、玄さんは組の最高幹部の1人。

なので、倉津家と付き合いを持ち続けるのであれば、これは大きなメリットになるかもしれませんしね。


さてさて、そんな中、玄さんとの会話も終わり。

漸く倉津君の勉強を身に、彼の部屋に行く訳なのですが。


次回は、そんな眞子の身に『思っても居なかったハプニングが起こります』ので。

良かったら、また遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾


いや寧ろこれは【目を背けていた問題】っと言った方が正確なのかもしれませんね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る