1076 消えない違和感と、その消し方

 ジムさんの製作したカスタム楽器は、その人専用にカスタムしてあるから『誰彼に演奏できるものではない』っと言う意見を聞かされ。

まずは眞子のベースを借りたエリアスさんと、崇秀に納品するギターをホランドさんが使って、その真意を確かめる方向に。


***


「あぁ、じゃあ鞍馬。このまま『67 GUILD STAR-FIRE4』借りて良い?」

「勿論、良いですよ。あの、その代わりですね。後で私もエリアスさんのベースを一回弾いてみたいんですが、お借りしても良いですか?」

「うん、良いよ」


そう言えば、人のベースを弾くのって久しぶりだなぁ。

多分、記憶が正しかったら、奈緒ネェの『Fresher/Personal Bass』以来だね。


そう考えると、エリアスさんの設定って、どんな感じなんだろね?


ちょっとわくわくするね。


……そう思っていると。

ホランドさんはギターアンプに。

エリアスさんはベースアンプにシールドをチョッケルで差込み。


演奏を開始。

曲はアメリカで行なわれた『曲争奪戦・恐怖のGUILD上位ランカー・ライブ』で、奈緒ネェ率いる【Nao with GREED-LUMP】が上位入選で選択した。


『Paid dating』(援助交際)


この曲は、タイトル通り、奈緒ネェの荒んだ中学生活を元にして、昨今の日本のズサンな性を皮肉ったスローバラードな曲なんだけど。

音楽的にも『スタファちゃん』のセミフォローボディならピッタリの音が合う筈。


スタファちゃんの性能を知るには、実に良い選曲だと思われる。


……そう思っていた。

でも、演奏を聞いた感想は、余り良い感じはしなかった。

勿論、ホランドさんや、エリアスさんの腕前に問題なんて有る筈もないんだけど、なんか全体的に、音がギコチナイ感じで、なんとも言えない様な違和感を感じる。


けど、なにが悪いのかが、ハッキリ良く解らないまま曲は終了した。


これが、ジムさんの言う『違和感』って奴なのかなぁ。



「うわ~~~っ、なんなのこれ?本当に自分の思い描いてる音が出せない」

「確かにそうだな。物は良い筈なのに、酷い違和感が消えない感じだ。いや、寧ろ、これは、違和感と言うより、此処まで行くとギター本体に『拒絶』されてる感じだな」

「あぁ、そうですね。その表現がピッタリですね」


そうなんだ。

ヤッパリ、そんな感じを受けるんだ。


……って言うのもね。

以前ジムさんの店に、ホランドさんと一緒に行った時、ジムさんが『ウチの楽器は人を選ぶ』って言ってた事があるのよ。

だから、最初にカスタムの話が出た時点で、ひょっとして『そう言う事なのかなぁ?』とは薄々感じてたけど、そう言う感覚って本当に有るもんなんだね。



「ハハッ、それは正しい感性だな。自分の感性とは違う位置にある感性の物を弾いて、違和感を感じ無い方が、どうかしてるってもんだ。だからこその個人カスタムなんだからな」

「へぇ~~~っ。だったら、その人の感性に合わせて弾けば。少しは弾き易くなるって言う事ですか?」

「まぁ、理屈だけで言えば、そう言う事だな。けど、それは余りにも『言うに易し』だ。そんな簡単に、他人の感性の真似は出来無い。それが、人間の習慣ってもんでもあるからな」

「なるほどねぇ。理に適った話ですね」


習慣かぁ。


確かに、各々演奏には独特の癖みたいな物が有るからねぇ。

そこを無理に真似をしたとしても、結局は、酷い『違和感』を感じるだけ。


だったら、その妙な感覚は、どうやっても消えないかぁ……


なるほど。


でも……折角の機会だし、一度ぐらいは私もチャレンジしてみたいよね。



「あの、エリアスさん。出来れば私も、その感覚を体験してみたいです」

「あぁ、そうだったね。じゃあ、私ので一回弾いてみなよ」

「あぁ、はい、お願いします」


借りた♪

因みにだけど、エリアスさんのベースは、私の『79 Sting-rayちゃん』と同じメーカーの『Music-man big al bass』


『Music-man』で、敢えて『Sting-ray』を選択せずに『Big al』を選ぶとは、中々渋い選択ですね。


さてさて、そんな事よりも、折角、ベースをお借りした事だし。

ホランドさんには非常に申し訳無いけど、もぉ一曲お付き合い願おうかな。



「あの、ホランドさん」

「なんだ眞子?」

「そのS-1で、もぅ一曲付き合って下さい」

「ヤッパリ、そう来るか」

「はい♪」


そんな理不尽な強制をしながらですね。

私は、ある事を意識しながらベースを鳴らし始めてみた。


曲は、先程と同じく、奈緒ネェが、あの時に選んだ、もぅ1つの曲。


『They are these same days generally』(大体同じ毎日)


この曲自体は、日々にある繰り返しを『なんとなく生きてま~~~す』みたいな感じの曲なんだけど。

曲調が、全体的にPOPッポイ曲だから、どんなベースでも対応出来る感じがしたので、この曲を選曲してみた。


……っで、早速、曲を弾いてみたんだけど。


別に、これと言った違和感なんか無いんだよね。


……って言うのもね。

私って、ほら『ブースト』って技が使えるじゃない。


今、あれの要領で演奏してるんだけどね。

『人の音を、どうすれば底上げ出来るか』ってのを予め考えておけば、自ずと、その人の弾き方も見えてくる。

そこを加味した上で、エリアスさんの演奏は直で何度も見てるから、その演奏の仕方を細部まで真似すれば良いだけなんだよね。


私は、元々こう言う真似弾きが得意だし。

これまでに真似をした演奏の集計パターンから、このベースの弾き方を模索すれば、意外と弾けるもんでもあるんだよね。


まぁ勿論、多少の違和感は残るの否めないけどね。



でも……なんか理屈が解ったぞ。


崇秀の言った通り『不思議な事なんて、そんなにないもんだね』



……そして、そんな事を考えてる内に、曲は終わった。


そしたら、ジムさんが変な顔してる。


なんじゃね?


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【後書き】

最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございましたぁ♪<(_ _)>


癖の強い演奏をする眞子と崇秀用にカスタムされた楽器は、矢張り、基本に忠実なホランドさんやエリアスさんでは、ジムさんの言った通り『どうにも引き難かったみたいですね』


……っで。

それに対して眞子は、基本に忠実でありながらも、様々な人の演奏の仕方を取り入れて来てるだけに、エリアスさん用にカスタマイズされたベースであっても、特に問題なく引ける様子。


そぉ……眞子は、色んな所でHELPをして来ているから、他人の音楽に合わせる事を非常に得意としている訳なんですよ。

いや寧ろ、これが出来るからこそ、色んなバンドからのオファーが殺到していると言う事実もある訳ですね。


まぁ本人は、どうやら無自覚の様なのですが。

ハッキリ言えば、これこそが『眞子を沢山のバンドが欲しがる理由』

勿論、これ自体は、あの奇妙な音楽を奏でる技なんかも込みの話ではあるのですが。

例えば、バンドに新加入したメンバーが居たとしたら、矢張り、バンドの音楽に馴染むまで『特訓期間』を設けなきゃいけない。


『その期間が必要ない』っと言うのは、人気メジャーバンドにとっては、これ以上有り難い事はありませんしね。


さてさて、そんな風に、自分の新たなる特徴を見出した眞子なのですが。

何故かジムさんは、納得出来ない様な表情を浮かべている。


まぁ、理由は言うまでもないのですが。

その真相を次回は明らかにしていきたいと思いますので。

良かったら、また遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾

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