復讐は巡り巡って。

快楽原則

第0話


 僕は今日、復讐を遂げる。



 五年と三か月前、彼女の浮気が発覚した。

 浮気が発覚したのはひょんなことからだった。

 彼女のリカには、寝るときにスマホで動画を垂れ流しながら眠る習慣があった。本人曰く、いつからかラジオ感覚で流していないと眠ることができなくなったらしい。しかしさすがに画面をつけっぱなしだと、スマホを伏せていてもシーツとの隙間から漏れ出るブルーライトが気になるらしく、いつもバックグラウンド再生だった。

 浮気が発覚したその日、彼女はよほど疲れていたのか、画面もつけっぱなしで寝落ちしていた。

 それを見た風呂上がりの僕の心に、少しのいたずら心が生じた。


 ちょっとばかりスマホの中身を覗いてやろう。


 恐らく僕も疲れていたのだろう。普段ならきっとこんなことはしなかっただろうし、何より彼女に対しては全幅の信頼を置いていた。このほんの出来心が、僕と彼女との四年余りの関係性に大きな亀裂を生じさせるきっかけとなった。

 垂れ流されていた動画をそっとタスキルして、僕はホーム画面に目を走らせた。そして僕の視線は吸い寄せられるようにカメラフォルダを捉えていた。

 彼女はイマドキの女性にしては珍しく、いわゆるSNS映えを意識したような写真や自撮りを撮ることが極端に少なかった。というか、彼女が旅先などで写真を撮っているところなど、付き合っていた三年の間ついぞ見たことはなかった。大学生時代には、サークルの後輩や友人たちもそのことを珍しがっていた記憶がある。

 フォルダにはいったいどんな写真が収められているのだろうか。それともフォルダには一枚たりとも入っていなかったりするのだろうか。

 僕はそんな好奇心を抑えようともしないで、フォトと書かれている風車のような見た目をしたアプリアイコンをタップした。


 次の瞬間、僕の目に飛び込んできたのは、とても受け止めることのできない現実だった。

 フォトアプリに収められていたのは、見知らぬ男との性交を記録した写真や動画の数々だった。いわゆるハメ撮りというやつである。

 背後に立つ中性的な顔立ちの見知らぬ男と共に、鏡台の前で全裸でピースをしている写真。その男が撮ったと思しき、彼女が男の肉棒を咥えこんでいる動画。僕とのセックスでは決して聴くことのなかったような、獣のような喘ぎ声ともつかぬ声を響かせている動画。

 月並みな表現だが、頭を思い切りがーんと叩かれたような、そんな衝撃。さらにそれら写真や動画の日付が、「今日」になっているのを見て、さらにもう一撃強烈なパンチを貰った気分になった。


 動画の中のリカが発する、獣のような嬌声が、ブーンという冷蔵庫の駆動音に混じってリビングに響いていた。

 今までの四年間は一体何だったのだろうか。その時の僕の様子はと言えば、きっと「茫然自失」という四字熟語がぴったりだっただろう。

 直視に耐えかねて目線を外した先で、寝ていたはずのリカと目が合った。

 リカは頬を上気させて、粘っこい視線を僕の手元のスマホに向けて笑っていた。彼女にはもはや、僕の姿は見えていないらしかった。


 僕は夜中であるにも関わらず、その日のうちに荷物をまとめて、リカと同棲しているマンションを後にした。

 湧いてくるはずの悔しさとか怒りといった感情は、先のリカの笑顔によって遥か彼方にまで吹き飛ばされてしまっていて、得体のしれないものに対する行き場のない恐怖だけが僕に夜逃げの準備をさせた。


 しばらくの間、ネカフェやビジホを転々として過ごした。

 それからさらにしばらくしてから、リカと同棲していたマンションの近くの安アパートを借りた。

 彼女とよりを戻せるかもしれない。道端で偶然出会って、やはり僕のことを忘れることができなかったリカから、よりを戻してくれと泣きつかれるかもしれない。そうなれば今回のことは水に流して、二人で新しいスタートを切る。そんな淡い期待が、情けなく醜い腹積もりが全く無かったといえば、それはきっと嘘になるだろう。

 

 しかし僕は心に固く誓っていた。二人の思い出が詰まっていたマンションを飛び出したあの日に。復讐を―。


 リカはきっと、あの間男に騙されたに違いないのだ。そそのかされたに違いないのだ。一時の気の迷い、心の弱さに付け込まれたのだ。だったら復讐を果たすべき目標は、リカではなく間男の方だ。


 僕は二か月近く、刑事ドラマなんかで見るような張り込みめいたものを日夜続けていた。

 時には睡眠時間を削りリカと間男が帰ってくるのを待ち、時にはマンションから出ていく間男を尾行した。

 しかしそんな僕の必死の調査にも関わらず、これといった成果は挙げられず、妖艶で中性的な憎き間男の素性すらわからずじまいだった。


 だがそんな僕を絶望の底から引き上げるべく、蜘蛛の糸は垂らされた。それはストーキングじみた調査をを初めて三か月がたった頃だった。今から遡って、ちょうど五年前の出来事だ。


 その日、僕はいつものように間男の尾行に精を出していた。その日は間男が珍しく喫茶店に入ったので、僕も一緒に入り離れた席から様子を窺っていた。マンションと僕の住んでいるアパートからもほど近い場所にある喫茶店で、客は間男と僕以外誰もおらず、随分寂れていた。そもそもこんな場所にこんなお店あったかしらんと、真夏日にやられた身体をアイスコーヒーでクールダウンしながら間男の方を盗み見しつつ、不思議に思った。

 それはそれとして間男はというと、それから誰と会うというわけでもなく、時間も気づけば三時間、四時間とどんどん過ぎていく始末だった。

 尾行に慣れてきていたとはいえ、さすがに痺れを切らしかけた僕は、いっそここで奴をギッタギタにしてやるのも手ではないかとふと思い立った。

 思い返せば、奴と二人きりになるタイミングは今までいくらでもあったのだが、僕は今まで奴の個人情報なんかを入手して社会的制裁を与えてやろうと考えてばかりで、自身の手で直接奴を痛めつけてやろうなんて思ったことはついぞなかった。そういった暴力に訴えるような手段は、最終的には自身の社会的地位を失う結果になりかねないと、抵抗があったというのも勿論ある。

 しかし一度メッタメタにしてやろうと考えだしたら、今までの奴に対する憎悪とか悔しさなんかがの僕の背中を押し、決壊したダムみたいにそのことしか考えられなくなってしまっていた。


 僕は勢いよく椅子を引き、勇んで立ち上がろうとした。

 しかしそんな闘牛のようになってしまった僕を、引き留める人がいた。


「いけませんねえ、クレバーじゃありません」


 いつの間にか僕が座っている席の向かいに、真っ黒なトレンチコートに身を包んだ青年が座っていた。

 正直ぎょっとした。店内には僕と奴、そして紳士然とした立派な口ひげを蓄えたマスターしかいなかったはずなのに。


「だ、誰―」


 青年は反射的に叫びそうになった僕に対し、唇に人差し指をあてるジェスチャーをしながら、意地悪そうに微笑んだ。


「あの男のことを心の底から憎んでいるんでしょう」


 店内に流れる小気味よいジャズミュージックに混じって、聞こえるか聞こえないくらいかの声量で青年は言った。


「あんな奴、できることなら殺してやりたい。そう思ってるんでしょう?」


 会計を済ませ、店を出ていく間男に横目をやりながら、青年はそう続けた。


「誰なんです、あなたは」


 間男を追いかけていきたいという気持ちを抑え、浮いた腰をもう一度椅子に落ちつけながら、僕は青年にあらたまって問うた。


「そう険しい顔をしないでくださいよ。そうですねぇ、ここではあなたの復讐を叶える者、とでも言っておきましょうか」


「復讐を叶える者?」


「胡散臭いですか?」


 青年は薄気味悪い笑みを口元に張り付けたまま問うてきた。


「え、ええ。そりゃあそうでしょう」


 僕も食い気味にそう返事をした。


「ですが、今に信じざるをえなくなりますよ」


 そう言うと、青年はどこから取り出したのか、血のようなものが所々に滲んでいる黄ばんだ包帯によってぐるぐる巻きにされた細長い物体を、ごとり、とテーブルの上に置いた。

 青年が机の上に置いたそれは、明らかに銃だった。スナイパーライフル。見た目は子供、頭脳は大人な名探偵が出てくる作品なんかでよく見かけるアレだ。


「え、ちょ、これ―」


 僕は焦ってあたりを見回した。当然、今この場面をマスターに見られでもしたら、あらぬ疑いをかけられること必至だったからだ。

 しかし店内のどこにもマスターの姿を認めることはできなかった。先ほどまで流れていた小気味のいいジャズミュージックもいつの間にか止まっており、まるでこの店の中だけ時間が止まっているかのような錯覚に襲われた。


 しゅる、しゅるしゅる、しゅる―


 先ほどまでの店内のBGMに代わるようにして、何か衣擦れのような音が僕の耳を撫でた。

 音の正体はすぐに分かった。何かを封印するみたいにしてぐるぐると銃に巻き付けてあった、あの包帯のほどける音だった。

 僕は目を疑った。青年が銃に触れるでもなしに、包帯が意思を持った蛇みたいのたうちほどけていっていたからだ。


「な、なっ―」


 僕がうろたえ言葉を紡げないでいるうちに、銃はその服を次々と脱いでいき、あっという間にその全貌をあらわにした。

 その銃は生きていた。銃はその包帯の下に、さらに蠕動する真っ赤な何かを受肉していた。

 スコープのグラスが嵌められている部分には、血走った緑色の瞳の目玉がぎょろぎょろと蠢いており、異様な存在感を放っていた。

 

「早速ですが、そのスコープを覗いてみてください」


 有無を言わさぬ感じで、青年は半ば押し付けるようにして僕に銃を渡してきた。

 スコープを覗くとは、すなわちぎょろぎょろ蠢く得体のしれない目玉と、自分の目玉とを突き合せなければならないということを意味していた。

 普段の僕だったら躊躇してやらなかっただろう。しかし、自分の目の前に次から次に現れる怪奇現象に呑まれて、僕は迷わずスコープを覗いていた。眼球キッスを実行した。

 視線と視線とが合い、次に眼球を包む粘膜と粘膜とが接触した。目玉と目玉が、熱い抱擁を交わしているのが感じられた。ばちばちばちと火花が散った。


 気がつくと目の前にありえない光景が広がっていた。

 玄関口で、リカとねちっこいディープキスをする間男の姿だった。

 間男は先ほど僕が尾行していた時と同じ格好をしていた。ブランドロゴだけが入っているシンプルな白Tシャツを上を彼女の艶めかしい白く細い指が滑り、少しダボっとした青白い色味のジーンズの前側にも彼女の指は這っていた。

 僕はしばらくの間それを覗いていた。


「このスナイパーライフルは」


 青年が話し始めたことで、やっと僕はそのスコープから目を離すことができた。いつの間にか食いしばっていたらしく、口周りの筋肉が変に緊張していた。


「使用者が最も復讐を遂げたいと思っている相手を捉え、その対象の命を奪うことができます」


 その青年の言葉で顔が自然とスコープに近づいた。手が引き金を求めるのがわかった。


「使用者の寿命を代償にして」


 そんな思いもよらない大証の話に、僕は再びスコープから顔を上げ、引き金を求めまさぐっていた手を諌めて銃を置いた。


「寿命が、代償……!?」


「ええ。例えばあなたの残りの寿命が100年だと仮定します。そして復讐対象の残りの寿命が50年と仮定した場合、あなたは50年分の寿命を消費する代わりに、対象を安全確実に殺すことができる、といった具合です。もちろんこの場合、あなたの残りの寿命は50年にまで減ってしまいますがね。逆に先ほど仮定した数字が反対だった場合、すなわちあなたの残り寿命を50年、復讐対象の残り寿命を100年と仮定した場合、これは残念ながら無駄撃ち、不発に終わります。あなたは残りの寿命全てを消費するとともに死にます。この場合、100マイナス50で相手の寿命を50年分削る、ということもありません。命の無駄撃ちです」


 いつの間にか僕は、全身変な脂汗でびっしょりなっていた。

 もしあのまま、引き金を引いていたらどうなっていたのだろうか。奴を殺せたのか。それとも命の無駄撃ちで僕の方が死んでいたのか。


「あ、相手と自分の残り寿命数がわかる方法―」


 もしくはそういった類の道具はないのか。しかしこの質問の続きは、喉奥に飲み込んでしまうほかなかった。


「もしかしてぇ!? ビビってるんですかぁ!?」


 それより先は言わせないといわんばかりに、青年はものすごい剣幕で僕の顔を覗き込んできたからだ。


「自分はリスクを冒さず復讐を成し遂げれると? 呆れてものも言えませんねぇ。どうやら見込み違いだったようですので、今回のことはどうか忘れてください」


 青年はそう言うが早いか、いそいそと銃に包帯を巻き直し始めた。


「わ、わかった! わかったから!」


 気づけば僕はそう叫びながら青年の腕をむんずと抑えていた。


「わかった、とは?」


 青年はなおも不機嫌そうに、じろりと僕のことをめつけていた。


「さ、さっき言ったことは忘れてくれ。この銃は、僕にとって必要なものなんだ。だ、だから―」


「わかりました。そこまで言うんでしたら、はあなたに預けることにします」

 

 青年はそう言うと、包帯巻きかけの銃を再びこちらに放って寄こしたかと思うと、フンと鼻を鳴らして店の外の夕闇に消えていった。

 僕がしばらくの間、青年が意外にもすんなり許して二度目のチャンスを与えてくれたことに少しばかり理解が追いつかずぽかんとしていると、再びどこからか現れたマスターに「お客様、そろそろ閉店のお時間ですので……」と申し訳なさそうに言われたので、いそいそと店を後にした。

 去り際、マスターに「随分変わった見た目の銃のプラモデルですね」と言われ、返答に随分窮した。



 あれから五年もの月日が経った。

 あれからというもの、喫茶店も青年も僕の前にその姿を現すことはなかった。

 あの出来事は、本当に現実のものだったのか。何度もそう思った。そしてあの青年との出会いが現実であったことを、部屋の隅に立てかけてある脈打つ銃身が教えてくれていた。

 その部屋の隅に息づいている銃身に手をかけては、やめる。そんなことを幾度も繰り返していた。踏ん切りがつかなかった。やはりあまりにも背負うリスクが大きすぎる。そんな怯えが四六時中ずっと頭の中にこびりついていて、中々拭い去ることができなかった。


 だがいつまでこうしていても埒が明かない。あの青年がいつこの銃を回収しに来るかもわからない。そこで僕は臆病者なりにとある作戦を実行することを決意した。

 相手の残り寿命数がわからないのならば、限界まで減らしてから勝負に挑めばいい。それだけの話だと気づいたのだ。

 

 リカとかの憎き間男が同棲している物件は既によく知っていたので早速侵入を試みた。リカはもちろんのこと、間男の生活サイクルもある程度は把握していたこと。リカが日中、仕事に言っているときは換気のためにベランダの窓を開けていること。部屋は二階でマンションの裏手側に位置し、人目にも付きにくいこと。これらの好条件を把握していたからこそ、この侵入は上手くいった。

 リカが使っているコップは変わっていなかった。彼女の誕生日に僕がプレゼントした、猫があくびをしている絵がプリントされているマグカップ。僕は再び確信した。やはりリカはあの男に騙されていいようにされているだけなのだ。まだ僕から気持ちが離れてしまったわけではなかったのだ。

 間男が使っているものはすぐにわかった。黒と白のモノトーン調で構成された、リカのものと比べると少し大きめのマグカップだった。

 僕はそのマグカップの縁に毒を塗りたくってやった。ダークウェブ経由で仕入れていた、遅効性の毒。即効性でない代わりに、時摂取した人間の身体を時間をかけてゆっくりゆっくり蝕む。不審に思って医者に診せたとしても原因不明の代物だ。

 三日に一回、僕はリカたちの棲み処に忍び込んでは毒を塗り続けた。

 この毒薬は目覚ましい効果を上げた。効果が目に見えて現れるようになるまでは多少の時間はかかったものの、間男は徐々に体調を崩しがちになり、床に臥せている時間が増えているらしかった。

 そして作戦決行から五年近くが経過した今では、健康維持のわずかなウォーキングにリカに付き添われて出てくる以外には、満足に動けもしないらしかった。


 そして今日、とうとう僕は復讐を決行する。

 このまま毒殺してやってもよかったのだが、ここまで時間と手間暇をかけたので、今僕の腕に抱えられているこのスナイパーライフルで、一息にぶち殺してやりたい、という結論に至った。

 

 実に五年ぶりの眼球キッス。銃との心地よい一体感と共に、網膜にベッドに臥せる間男の姿が投影される。

 自分の寿命を削るという大きな制約のもとに、相手の命を一撃で消し去る可能性を持った秘密道具。もしも相手の残り寿命数が自分より長ければ、ただの命の無駄撃ちになる大きなデメリットを持った現実世界の枠を超えた武器。

 しかしそんな制約やデメリットも毒薬と時間をかけることによって最小限に抑え込んだ今、残されたタスクはトリガーを引くことだけだ。


 長かった。やっとお前を殺せるよ。死ね―


 そんな僕の怨嗟が人差し指を引き金に絡ませたかと思った直後には、いとも簡単に、なんの逡巡や迷いもなく引き金を押し込ませていた。

 かちり、という耳心地のよい金属音に連動するようにして、銃身がどくんと波打つ。


「地獄に落ちろ」


 

 リビングに銃と共に崩れ落ちている男性を見ながら、青年は満足そうに微笑んでいた。


「目先の欲に眩んだ人間ほど御しやすいものもありません」


 青年はそう言いながら、男の下敷きになっている銃を無造作に引っ張り出すと、銃身からちゅるちゅると粘っこい白い気体のようなものを引きずり出した。


「お偉いさんから人間界におけるタマシイ狩りの締めつけのお達しがあったときはどうなることかと思ったけど、考えたもんだねえ君は」


 青年の手元で釣りたての魚のようにびくびく暴れまわっている白い気体を舌なめずりしながら見つめそう話すのは、リビングに転がっている男が憎んだ間男その人だ。


「少々時間はかかりますが、この手法を取れば我々が直接手を下す必要はなくなります。人間のほうで勝手に勘違いして、勝手に引き金を引くのですから」


 青年は満足気に脈打っている銃身をさする。


「弱ったふりも大変だったけど、しかしまあこの人間はどこまでも惨めだったね。何千年もの時を生きることができる俺たちに対して、長くて100年ぽっちの寿命で対抗できるはずもないだろうに」


「彼を侮辱するのはよろしくない。このようなどこまでも突き抜けていくような愚かな人間のおかげで、美味なタマシイにありつくことができるのですから。それと、これが今回のあなたの取り分です。タマシイの三割」


 青年は手の中でなおも暴れまわるタマシイなるものをきっちり七対三に分けると、間男のほうに投げて寄こした。


「はあ? けっこー大変だったんだけど、間男役。三はないでしょ三は。せめて六対四じゃない?」


 間男を演じていた悪魔はふてくされてそう言う。


「このビジネスモデルは一から十まで私が考えたものですから。彼と直接コンタクトをとったのも私ですし、これは当然の権利といわざるを得ません。それにほら、あなたはを手に入れることができたわけですし」


 青年が意地悪そうに視線を送った先には、目も虚ろに肉棒にだらしなくしゃぶりつく一人の女性の姿があった。


「人間界ではこういう女のことをメス豚と呼ぶらしいね」


「それはまた、人間らしからぬ随分情緒にあふれた比喩ですねぇ」


 悪魔たちの声は、深閑としたリビングにどこまでもこだましていた。


 


 

 

 

 


 

 







 

 


 

 

 



 



  

 

 

 

 

 


 

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