世界、魔法設定





 以下、世界と魔法の設定についてです。




■時代、国家、街



 

 ズバリ、X15エクイコの舞台のモデルは1563年のイングランド、ロンドンです。


 以下、各地名のぼかしつつのモデルはこちら。


 ロンディニウム→ロンドン

 ロンディニウム橋→ロンドン橋

 トールズ川→テムズ川


 ホワイト宮殿→ホワイトホール宮殿

 ウエスト寺院→ウェストミンスター寺院

 西の教会地区→ウェストミンスター地区


 なので、実際マップアプリ等でこの地名を検索してもらえると、(作中とは細かい部分で異なりますが)彼らの小さな冒険の軌跡を追体験出来るかなと思います。


 イメージとしては、28話信念でウィルマーたちとルーファスが話してたのは、位置的には丁度ウェストミンスター寺院の前を少し南西に向かった辺りかな〜と思います。


 最初はコヴェント・ガーデンとかトラファルガー広場とかに魔王さんを向かわせようかと思っていましたが、この辺は16世紀半ばまだ存在してなくて、普通に畑だったらしいので、当時も開発されてそうな地区をラストの舞台に選びました。


 


 また、序盤に登場した「エルフの国」はフランスをイメージしていて、1562年イングランドがフランスで起きた宗教ユグノー戦争に介入、失敗、大敗という流れは実際にあった史実となっています。詳しくは人物紹介の項で語るので、そちらもご覧ください。


 そしてエルフは基本白人的な外見……色素が薄いのですが。長い彼らの歴史の中で、一部エルフの国から出て砂漠地帯に住み着いた一団が居ます。その子孫が肌だけ浅黒く、髪や目の色が明るい「南部エルフ」です。


 作中出てきた「南部エルフ」のクロウリーは、エルフでありながら一般的なエルフの文化圏に属していません。「高貴でしゃらんらとして美しい」エルフのイメージより妙に荒っぽいのはそのせいです。


 クォーターのフランシーヌは言わずもがな。彼女はほとんど「人間(詳しくは亜人、獣人、エルフなどと区別するため「ノーマン」という名前がついています)」として暮らしてきたので、エルフっぽさはあまりない状態です。




■魔法の設定




 はい、これから小難しい話します。設定フェチの方だけ読んでください。



 

□この世界における「魔法」


 


 まず、この世界の魔法は「ニンゲン」種に与えられた特殊能力です。獣が爪を、花が毒をもらったように、ニンゲンは魔法をもらい、か弱い身体でも生き残れるよう、神に配慮されたという形で魔法が存在します。


 しかし、神はニンゲン全員に等しく魔法を使えるようにしたわけではなく、大体数にして全体の三分の一くらいしかマトモに魔法を使えるニンゲンを作りませんでした。言葉があるし手も使えるし、これで魔法までダメ押しであれば、仲良く生き延びてくれるやろ、と。


 結果、神の目論見は外れました。欲深いニンゲンはその三分の一の魔法の力を頼りに争いを繰り返し、さらにその中の強い力を持つ半分、六分の一のニンゲンが権力を持ち、彼らの中に上下関係を作りました。

 集落、そして国の誕生です。


 その後ニンゲンたちは、さらに戦争を行う中でより強い魔法使いだけで権力を独占し、王や貴族を生みました。これらの存在、繁栄が作中の世界に繋がっていきます。この世界は、魔法が文化と歴史のど真ん中にあるのです。




□この世界における「魔法の属性」



 

 結論から言うと、この世界の「魔法の属性」は人間のDNAの中に入っています。


 元々魔法というのは、人類が生物として生き延びるために与えられた能力なので、古代の人類は一人ひとつしか属性を持っていませんでした。暑い砂漠地帯に住む人間に熱の魔法は要らなかったし、逆に吹雪舞う北部に住む人間に氷の魔法は要らなかったのです。


 けれど人類が大規模な移住、戦争と征服、交配を繰り返した結果、各所の遺伝子が混ざって様々な魔法が使えるようになりました。


 作中の16世紀現在、いわゆる四大元素と光と闇あたりは、どこの権力者も持っている属性となりました。ただ、虎の子状態で門外不出の属性というのもそれなりにあります。それが影の一族における「瞬間転移」です。


 女王に仕える3つの一族はそれぞれ、そういう不出の属性……この世界では「固有属性」という名前がついているのですが、その「固有属性」を持っていて、例えば矛の一族は竜巻、盾の一族は流星がそれにあたります。


 ただ、男性陣が女遊び等を外でやるとぽろっと流出してしまうことがあって……庶民の魔法使いはこうして生まれるし、なんだかんだ貴重な属性というのも外に漏れちゃったりしています。

 ほとんどは本人も子孫も貴重なものを受け継いでると気づかず生を終えるので、それほど問題になりませんが。




□物理、生物的な「魔法」の扱い〜基礎編〜




 この世界の「魔力」は原則月から与えられる物です。月から降る神秘の存在「魔力」を人間が直接浴びたり、空気中に存在するそれを吸ったりすることで体内に取り入れ、脳及び髪に蓄積し、血液を介して全身を巡り、なんらかの力を駆使して体外に放出する。それがこの世界の魔法です。


 なお更に正確なことを言うと、「魔力」はこの世界において、21世紀の科学でも見ることが出来ないミクロな物質です。人類が原子と呼ぶよりさらに小さな物質。だから誰もそれを「この世にある」と物理的に認識出来なかった。そういう物が、月から降っている。


 その超ミクロ物質「魔力」は、くっつけば視認可能な物質になるし、エネルギーのように振る舞うことも出来ました。結果、人間は魔力から生命も物体も生み出せたし、火にも水にもなるし、風や土にもなった。


 魔法は、超ミクロ物質「魔力」を操る術なのです。


 

 

 ただあえて科学的な見地から言うと、超極小物質がこの世にあったとして、人間だけの力でそれをどうこうするのは正直難しい。そこで活躍するのが、神や精霊と呼ばれる存在です。彼らはこの世界に確かに存在し、しかも「魔力にさわれた」。

 なので、魔法は神様や精霊を含む、いわゆる「人外」にお願いして「力を貸して! 頼みを聞いて!」と協力してもらうのが主流になりました。


 (なお、人外がそういうニンゲンのお願いをホイホイ聞いてくれるのは、そんな彼らの「信仰」が人外たちの存在そのもの、パワーに繋がるからです。信じてくれるほど、頼りにしてくれるほどに、人外たちは力を得ていたので、これでわりとウィンウィンだったのですね)。

 

 


 さて、人類が「魔力に干渉出来る人外」にコンタクトする方法は以下の3つです。


 言葉(音)→呪文

 念(心)→祈り

 絵(文様)→魔法陣


 この3つのいずれかで人外に協力を頼み、魔力を捧げ、魔法という現象を起こしてもらう。これが魔法の物理的な仕組みです。


 

 で、魔法を実行(代行)してくれる人外の種類は以下の通り。


 精霊/幽霊/悪魔/魔獣/魔王

       天使/神獣/神


 左から右に向かって格が上がりますが、多分悪魔と天使が同格で、そこから悪の力と善の力に分岐するイメージですね。なのでそんな感じにレイアウトしてみました。


 

 ちなみに、実は「魔法を使う」だけなら魔力を一切持たない超一般人でも実行することができます。上記の「魔法陣」をせっせと自力で描き、人外へのお願いと魔力の詰まったアイテム(宝石あるいは生贄)、もしくは月の魔力(=空気)をダイレクトに結びつければいい。魔法陣にはそれだけの力があります。

 

 ただこれは手間がかかるし、呪文一言で魔法を使える魔法使いからするとダサいの極みなので、なかなか発展しませんでした。


 これを使ってあれこれするのが私のもう一つの作品なのですが……まぁそれはまた別の話ということで。


 ちなみに、これをプライドかなぐり捨てて実行したのが第21話〜23話のゲーアハルトです。ダサいとか知らねぇ、勝ちゃいいんだ! という決断は、彼の立場ほどになるとなかなか下せないものとなります。頑張ったねおじさん。


 

 

 まぁそんなこんなはともかく、この「魔法を代行してもらう3つのコンタクト方法」が洗練されていった結果、現在の魔法の体系があるのですね。



 

 ・長文呪文を読み上げる

 

 最もスタンダード。「ごめんなさい、私大した魔法使いじゃないけど力貸してください! お願いしますこの通り!」と呪文で拝み倒して力を貸してもらう。


 ・短文詠唱ないし技名だけ叫ぶ


 玄人向け。「やっほー、俺おれ。何度も力借りてるから俺のこと知ってるよね? あ、顔覚えてくれてた? ありがとう! いつもの頼むよ!」なテンションで人外の力を借りる。


 ・無詠唱


 超玄人向け。「いやぁ、俺と君たちってば何度もやり取りしてじゃん? ほらアレだよアレ。言わなくたって通じるだろ? ……それ! わかってるぅ!」って感じで、意思の力のみで人外の力を借りる。


 「畏まってお願いしまくる段階」から次へ行けるかは、本人の経験、習熟度、そして普段から人外に対するリスペクトがあるか、好かれる態度(人間性)かどうか、などが鍵になるかもです。



 

 なお、第29話でサマンサが空中に魔法陣を出してからさらに呪文で魔法を発動するシーンがありますが、あれは何かと言うと……


 祈り(意思)の力で光の魔法を使って魔法陣を描き、そこから呪文の力でさらに強い魔法を使った、という形になりますね。


 もっと言うと、祈り→魔法陣を書く魔法→その魔法陣を媒介にさらに強い魔法陣を書く魔法→空に魔法陣を呼び出し、これを媒介に守備の魔法……という、三段階踏んだ魔法なんですよね。ささっとやったように見えますが、大きな魔法を使うための準備はそれなりにした、って感じでしょうか。




□魔法を撃つには〜実践編〜




 さて、ここからは少し楽しい話をしましょう。

 

 具体的には、例えば「フランシーヌは他の上級者に比べて呪文の分だけ発動が遅いはずなのに、なぜソロモンやクロウリーなどの『一言詠唱』タイプの魔法使いに守備が追いつくのか」というお話。


 味方サイドだから贔屓が入ってる、ではありません。説明が面倒だから端折りましたが、奇跡以外の理由がちゃんとあります。

 


 

 この世界の魔法は、呪文を介して発動するにしてもいくつか手順があります。


「位置について」「よーい」「どん」の3つです。

 正確に言うと、

 

 精神統一→精神を集中し、魔法を放つ準備をする

 代行依頼→呪文など、代行者へのコンタクトを実行する

 魔法の具現化→実際に発動する


 という三段階が魔法発動に必要となります。

 


 

 なので作中たまに描写してましたが、「手に魔力のオーラを集める」というのが最初の「位置について」。精神統一の段階なのですね。


 で、この時手が属性ごとの色で光っているということは、「◯◯の魔法を使うぞ」と決めている(=念)が魔力と反応して、「不必要な魔法を使っている」状態。正直、魔力の無駄遣いです。

 

 相当訓練すればこの予備動作の魔法を発動しなくて済むのですが、作中屈指の使い手リオンでもやっちゃってるし(3話、23話)、なんならガチ国内トップレベルのダドリーでも消せてない(29話)ので、世界有数レベルの魔法使いじゃないと無理ですね。


  


 さてこの精神統一、「集中する」以外の大事な意味があと二つあります。


 


 一つ目は「魔法の詳細な定義」。


 術者が魔法を使うぞ! と構えた瞬間、術者は「この魔法にこれだけの魔力を割く」「この範囲に魔法を使う」などの様々な設定を決めないといけません。例えるなら「魔力を2使ってメラを唱える、対象はモンスターA」とかいうコマンドを脳内で打ってる状態ですね。


 ちなみに、ここで例えば「三日三晩ここを燃やしてくれ」というオーダーをして、それを支える魔力と代行者との信頼関係があれば、それは充分可能な現象となります。


 そして、それをずっときちんと制御していたら。それは18話で言う「魔法スタミナ」が高いということになります。

 あの時のフランシーヌは、例えば「1時間原初のルークスアルマをかける」という指定をしていたとして。それがきっちり戦闘後もちゃんと続いていたので、それだけの魔力、魔法コントロール能力を持っていることになります。


 


 ここで話を戻します。

 魔法を唱えるにあたり、「位置について」に該当する「精神統一」のもう一つの効果。

 それが「魔力の装填」。

 

 まぁ魔法は銃じゃないんですが……例えるなら装填。魔法の定義が終わったら、次は本人の肉体が発動に向かって準備を始める。

 「某悟空」が元気玉を撃つ様子を想像してもらえるとわかりやすいです。要は魔法使いってのは、魔法発動に必要な魔力が例えば手に集まるまで待たなければならないのです(一応手以外から撃つことも出来ます。やる人は居ないけど……)。


 その際、魔力は基本体内で(脳から腕に向かって)集めますが、わずかに空気中から手に向かっても集めています。なので、外から見て「光るオーラが手に集まる」現象が起こるのです。


 あと、広範囲に撃つ場合はその時点で時間がかかる。本人の経験、発動代行者との親密度、本人の魔力の高さなどで帳消しになる場合もありますが、基本は範囲全体に魔力を送るイメージをしなければならないので、その分時間を食う。


 結果、大きな魔法を撃つ魔法使いほどこの「精神統一」に時間がかかる、という計算式が成り立つのです。


  


 作中で言うと、18話で腹を貫かれたサマンサの辺りに精神統一周りの設定を反映しています。一応伝達魔法テレパシーが使える程度に本人の意識があるのに、なぜ自分の回復魔法で回復出来なかったのか。

 

 回復魔法を使うにあたり、精神統一(魔法の定義)の段階がちゃんと踏めなかったから。です。魔力をどれだけ使う、範囲はこんな感じでこういう風に、等の事前準備が薄れゆく意識の中では出来なかったので、あの時の彼女が唯一使えた伝達魔法テレパシーで助けを求めたのですね。


 伝達魔法は本人の意思、感情を魔力と共に発信、相手が受信することで成り立ちます。なので、他の魔法に比べると意識コストが低いのです。

 あるいは本来なら、目的の人以外が受信しないようプロテクト的な何かをかける必要があったかもしれませんが、この場合第三者が知らない女性に「助けて」と言われてもその意味がわかる人がそう居ないので、恐らく充分成立します。


 


 次は「よーい」、代行依頼の話をします。これはさっきも書きましたが、呪文を長々言うか短く言うか言わないかの差なので、本人の経験が物を言います。


 強いて言えば、早口で言えばその分時間短縮になりますが……ここで作中の文化の話をしましょう。



  

 この世界というか、魔法使いの間では基本、呪文詠唱を早口で言うのはみっともないと思われています。「早く言わないと戦いに勝てない(=弱い)のぉ、ださ〜〜い!」という風潮が王族貴族に蔓延してるので、身分が高い(=強い)魔法使いほど、ゆっくり堂々と詠唱する傾向があります。


 これは3話のリオン(エメリヒ)の魔法で地味に描写しています。彼は魔法を唱える時、間に「、」を挟んでいるのです。ルビの仕様上、ふりがなを見やすくする意図もあるのですが、あえて彼の余裕を表す意味があります。

 フランシーヌのようなガキの見た目の女には負けない。

 その気持ちが「、」という彼の自信に繋がっているのですね。



 

 一方、庶民育ちのルーファスにそんな謎のプライドはありません。「これで発動までの時間が縮まるなら」と、いくらでも早口で魔法を撃ちます(22話)。これは彼の速射能力を支える一つの要素になっています。


 なお、17話でダドリーが早口で魔法を唱えていますが、よっぽどプライドより禁書の方が大事だったんですね。自分の目的のために手段を選ばない。そんな彼の恐ろしさを感じられる場面になっています。


 


 そして最後に「どん」、発動そのものの話です。魔法の効果&範囲指定、魔力確保も空間干渉も終わった、呪文詠唱した、さあ撃つぞ! という段階。


 最後は本人の身体がいかに「良い大砲」になれるかという話になります。経験もそう、スムーズに魔力を外に放出出来るかもそう、それを維持出来るかもそう。魔法使いのフィジカル面が唯一試される場面、というところでしょうか。


 なお、魔法使いは「魔法を撃つ瞬間」脳から(大方)手先に向かって魔力を流すので、多少の肉体労働をします。これが22話でルーファスが疲れてる理由です。

 彼は基本「一撃必殺」なので、何度も魔法を撃つ場面に出くわさない。長時間の戦闘をさほど経験したことがないのです。


 それはともかく、ここで魔力放出にもたつくと発動に時間がかかります。なので、「速く撃ち出す」というのも一つの技術なのですね。



 

 これを踏まえて例えばソロモン戦を振り返ると、


 フランシーヌの「原初のルークスアルマ」は守備魔法、普段から撃ち慣れてるもの、対象は自分とルーファスの二人で、人間二人分の範囲を囲むだけなので、準備にさほどかかるものではありません。


 さらにフランシーヌは庶民の間で育ったので、早口詠唱も平気です。守備のために最善が尽くせます。


 一方ソロモンは、強い魔法をパカパカ撃つ強い魔法使いであることからも察せる通り、元々高い身分の人です。答えを言ってしまうと、実は貴族出身の人です。


 さらに、彼の決め技「白竜のアルブス怒りフィーニス」は目一杯天井まで遮る壁サイズで撃ち出す魔法、それだけ大きいサイズ、広範囲に及ぶ魔法であったことから、精神統一部分でそれなりに時間がとられます。また、呪文詠唱もまずのんびり読み上げます。発動はそれなりに速いでしょうが、前2つで時間をとられているので今更です。


 なので、それらの総合時間とフランシーヌの総合時間を比べた時、フランシーヌの方が早かった、という結末に至るのです。


 


 一方クロウリーは、22話で手が光っているので、やはりなんらかの予備動作タイムが必要になります。そして彼は、とにかく自信家。強い魔法使いは力を誇示したがる一面があるので、彼の場合「長距離魔法を撃ちたがった」のが敗因ですね。


 作中ルーファスも指摘していますが、クロウリーほどの詠唱(短縮)速度があれば、ターゲットとゼロ距離で撃てば確実に彼が勝てます。けれどそうしないのは、物理的に捕まることを恐れているのと、「俺はつええんだすげーんだ!」と遠くから撃ちたがるからでしょうね。


 魔法使いってなんにせよ自慢したがりなんですよ。


 なので、22話の場合もクロウリーが準備→遥か上空で魔法が発動→落ちて当たるまでにフランシーヌの守備が間に合う、という図式になります。


 普通魔法使いというのは、仮にのろのろ応酬してても基本強い方が勝つのですが。稀にこういう、セオリーを覆す能力(フランシーヌの場合、防御特化で詠唱遅いのに強い)を持っている場合、基礎能力は弱いのに最終的に勝つという状況が起こり得るのですね。




 なお、他のキャラと比べてルーファスはどんな感じで魔法を撃っているかと言うと。


 精神統一→魔法のサイズをそもそもコンパクトに、対象指定を相手の肉体と簡易に定めることで、時間を短縮。

 代行依頼→技名のみの一言詠唱(早口)。

 発動→基本的に肉体は人より鍛えてある。反射神経に優れ、魔力を撃ち出すのも速い。


 ということで、「おおよそ他人より撃つのが速い」設定になっています。威力を落として速度を上げることで勝ちをもぎ取る、スピード重視タイプなのですね。


 また、魔力総量が少ないことで魔法持続力スタミナも基本他より低いですが、一つ一つの魔法を小さくすることで、その欠点を補おうとしています。

 

 あと魔力コントロールは才能じゃなく技術の分野なので、全力で磨いています。撃ったあとの魔法に意思の力で追加オーダーして軌道を変えるのも、地味だけど彼の得意技です。




□魔法の威力〜応用編〜




 ここまでは基礎の話をしました。以降、威力に纏わる応用の話をします。


 例えば。作中フランシーヌは短文詠唱で「原初のルークスアルマ」を何度か使いましたが、実は。28話で一般冒険者のクラリスも同じ呪文を使っています。


 いかにも手練れのフランシーヌと、頑張って長文詠唱してやっと撃てるクラリス、二人の魔法は全く同じ効果でしょうか。


 答えはノーです。



 

 正確には、例えば「原初のルークスアルマ」の魔力コストがMP10だったとします。でもこれは、この世界だと「最低MP10必要」であって、「MP10でしか『原初のルークスアルマ』を使えない」ではないのです。


 なので、例えばクラリスがMP10で「原初のルークスアルマ」を撃つ横で、フランシーヌはMP50を費やして「原初のルークスアルマ」を使うなんてことが出来て、それらは増やした魔力の分だけ高い効果を得られます。


 さらに、効果には意思の力がかなり直結します。ぼーっと撃った素人の魔法と、玄人が気合一閃スパッと撃った魔法が同じ効果になるわけもありません。

 本人の経験、高い集中、詳細な効果指定、潤沢な魔力、そして強い意思、感情。これらの総合値が「最終的な効果」となって外に出てくるのです。


 そういうのは最終的に、一つの魔法に対する「練度」とか「習熟度」とか呼ばれます。レベルの低い魔法をとことん練習して使いこなすか、レベルの高い魔法をヒィヒィ言いながら使うかでも効果は違うので、当然ですね。




 なお、「魔法発動代行依頼」の段階でも呪文体系に様々な種類があります。


 メタ視点で語るなら、

 

 ・人間ノーマン式……英語の呪文

 ・エルフ式……フランス語の呪文

 ・古代式……ラテン語の呪文


 がメジャー所。上から下に向かって格が上がります。


 で、作中の呪文はラテン語しかなかったので、実はクラリスとティナは一般人の中ではなかなかすごい使い手だったんですよ。リオンやルーファス、サマンサが天辺レベルの魔法使いだったので、全く足元にも及ばない感じになってますが……。


 


 なお、魔法関連の設定資料を漁ってたら、こんなものを見つけました。

 魔法の効果総量を計算するための計算式です。


 魔法式✕魔力純度✕魔力総量✕感情値((心拍数+体液瞬間流量))=効果総量


 魔法式→呪文は何を使うか

 魔力純度→魔力の濃さ


 (魔性に近いほど高い。ノーマンを1とした場合、エルフが2、ワーウルフが3、ドラゴンが4、神悪魔が5

 魔法の苦手な亜人獣人になると1より減る)


 魔力総量→発動最低魔力に対して、どれだけ魔力をぶち込むか

 感情値→意思、感情の力。物理的に言うと魔力が血液に乗って体内を巡る力を指すので、心拍数と体の大きさ(=血管の太さ)がここで加味される


 小難しい式ですが、色んな要素が絡んで効果総量が決まる、という理屈を理解していただけると嬉しいです。




 具体的な例を出すなら、22話でフランシーヌがクロウリーの攻撃をしのぎきったのは、それこそ「負けたくない死にたくない」という彼女の意思の力が魔法に力を与えた、としか思えません。正直、魔法のレベルで言うなら確実にフランシーヌの方が格下なので。


 でも、あの時遊び半分で魔法を降らせてたクロウリーに対し、フランシーヌには守らねばならない仲間と国がありました。その意思と決意が、魔法に力を与えるならそれは浪漫であり、無粋ではないと思うのです。


 まぁ一応、全てを「気合でなんとかなった!」としちゃうと設定が全部要らないことになるので、細かく言うと「魔法持続力スタミナが高いことにより、重ねがけが完璧に作用した」というのが具体的な勝因になります。最初の魔法を切らさず、最後まで重ねがけし続けられたという。

 

 クロウリーが油断したのも大きいです。彼がガチガチの本気出せば、ダドリーだろうが女王だろうが相手取れるくらい強いと思います。エルフはそれだけ魔法適性が高いので。




□魔法の減退と発動タイミング〜超応用編〜




 最後に、この世界の魔法の超応用編の話をします。


 具体例を出すと、23話でリオンとルーファスの全力の魔法✕2を食らったのに、のは何故なのか。


 


 結局のところ、魔法は強い方が勝ちます。

 なので、仮にダドリーが守備魔法を重ねがけしていたところで、それはほぼ全部ぶち割っていて、作中でもそう言及しています。


 ですが、この世界では魔法も立派な物理現象。魔力は正しく物質故、お互いが交差すると影響を及ぼすのです。なので二人の魔法はダドリーの守備魔法、便宜的にシールドと呼びますが、そのシールドを割る度に力を失っていく。


 それはクロウリーの「ナガレボシ」でも証明されています。豪雨のごとく降る魔法のど真ん中で魔法を撃つと、上から降る魔法で威力が殺されて、相手に届く頃には弱い魔法になってしまう。

 

 よって、ダドリーに関してもシールドで相殺された魔法は本人に届く頃にはだいぶ弱まっていて、「本来なら一瞬で消し炭になるほどのエネルギーをぶつけたが、人の形を残して死んだ」、という結果になりました。


 そうなると何が起こるか。


 いわゆるFFにおける「リレイズ」、自動蘇生の魔法が発動したのですね。


 もし彼の身体が完全にチリレベルで分解出来ていれば、回復対象となる本人が居なくなるので発動しなかったと思われますが。最悪肉体が残ったので、そういう魔法での回復を許してしまったということですね。



  

 このように、魔法には「術者が死んでいても」「不在でも」発動する種類の物があります。


 ゲーアハルトが執務室にかけていた、敵性対象感知の魔法もそうですね。本人が不在でもちゃんとお知らせをしてくれます。


 その他、屋敷や空間というのはそもそも危険な存在です。なんの魔法がかかっているかわからない。発動条件だって術者以外には不明な物が多い。サマンサが18話危機で執務室燃やして腹まで刺したのは、こういうのを警戒したからです。


 まず、部屋が危ない。罠だらけかもしれない。

 「その魔法」は遅効性かもしれない。

 そして、術者が目の前にいる時点で何が起こるかわからない(他人の全ての属性なんて知りやしない)。


 なら、部屋を全壊させて文字通り死ぬ気で術者に呪文を撃たせない、という選択肢しかなくなるのです。


 頑張ったねサマンサ。






 こんな感じで、作中の魔法描写に関してはおおよそ全部解説出来たと思います。


 長く……なりすぎましたが……許してください。



 次の更新は皆さんお待ちかね(?)、人物紹介です。お楽しみに。


 

 

 




 

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