18、呪いのブルーレイディスク

「呪いのブルーレイディスク?」

「そう。見ると女の霊が出てきて、四日後に死亡するというものだ」

「そんなホラー映画が昔あったそうね」

 その古井戸の幽霊は、今や怨霊大決戦や始球式にも出る人気者だ。このブルーレイディスクはその映画や小説とは直接の関わりはないのだろうが、やはりその影響下にあると考えて良いだろう。創作の幽霊を見た人がまさかと思いつつ「実際にあったらどうしよう」と思うところがウワサの始まりではないか。

「そのブルーレイディスクがなんでここに」

 嫌悪感を隠さずにロアが吐き捨てた。フォクがもつディスクは特に変わったところはないようだが。

「不審死したやつの遺品の中にあった。本人は友人に『どうせウソだよ』と言っていたそうだ。出どころは不明。警察で管理されていたが責任者が確認したらしく精神的にまいって、今日ウチに来た」

「そうですか。誰の所有物でもなくすればいいような気がするけど。ゴミにするとか、焼いちゃうとか」

「他人が見ると自分は『呪い』から解放されるというウワサもセットだからね。燃やしたら自分だけがもっと呪われると思っても仕方ない」

「なるほど。不幸の手紙だか幸福の手紙だかと同じ方式なのね」

 それは現代のケガレ思想と言えるかもしれない。見たものはケガレて、それが次々と伝播していく。正しい手順を踏まなければ助からない。どこかでハラわれなければならなかった。

「というわけで、さっそく見てみよう」

「……フォク、わくわくしてない?」




 ディスクを再生したが、入っていたのはなんにもない砂嵐だった。

「いや、ブルーレイで砂嵐っておかしいでしょ。古いテレビじゃあるまいし」

 その砂嵐の奥に井戸があった。そこから奇妙な女が現れ……白装束に垂れた髪、まさにテンプレ的幽霊だ。なんかもう、そういう制服なんじゃないか? その幽霊はゆっくりと手を上げ、画面の外のフォクとロアのほうを指差した。

「四日後の訃報――フォク、ロア……」

「よし、テレビに移ったな。ここでストップ、ディスクを出す」

「え?」

「そしてこっちを入れる。ちょっと早送り、こんくらいか」

 てきぱきとフォクはディスクを入れ替えた。井戸と女が画面に取り残されている。

「それは?」

「AV」

「は?」

「知らないのか、アダルトビデオだ。おまえ、成人してるよな?」

「と、当然でしょ!」

 幽霊女の背景、白黒の砂嵐だったところが肌色に変わる。その幽霊などまるでいないかのように激しくいたしているわけだ。

「うわあ、おっぱいでっか……じゃなくてなによこれ!」

「性なるものは聖なるものだからな。祓うにはちょうどいい」

 真っ最中のところにぽつんと古びた井戸だけがある。女の幽霊は井戸に戻って首だけを出していた。……なんだこのシュールな画。エロとホラーは相性がいいと誰かが言ったが、こういうことではないだろう。

「あーあー、あの女、隠れちゃったじゃない。かわいそうに……」

「いや。というか、指の隙間からばっちり見てるぞ、アイツ。こういうの好きなのかな」

「ええ……あんたのシュミでしょ?」

 それを聞いた女は井戸に入ったきり、出てこなくなった。

「これでよし」

「こんなセクハラでいいんだ……」




 フォクの手に残ったディスクからは、データが全て飛んでいた。

「まあ、全裸で体操しながら奇声を上げても同じ効果だったろうけど。やりたかった?」

「それやったらぶっとばしますからね」

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