17、人形

 テレビのワイドショーにはカツラ疑惑のあるタレントが出ている。今日はスポーツ界のジンクスについて話している。ある野球ファンがお店のディスプレイ人形を川に放り込んだところ、その球団は勝てなくなったという。その人形が先日引き上げられ、さて、その球団は勝てるのかと言った話だ。



「リカちゃん、ついたよ」

 ハンバーガーショップでフォクが取り出したのは、小さな子が遊ぶような女の子の人形だ。しかし一つだけ通常ではあり得ない部位があった。三本足。女の子の二本の足の他に、妙に生々しい人間のような足が生えている。その足を器用にうごかして、テーブルにちょこんと座る。

「ありがと、フォク。ハンバーガーが食べたかったの」

 人形は自分の体よりも大きなビッグビッグハンバーガーをほおばりはじめた。ささいな欲求を叶えるのに、自分ひとりで動けないというのはなかなかストレスが溜まるものかもしれない。妖怪のこういう外出につきあうのも管理人の仕事だった。

「みんなジロジロ見るんですもの。失礼よ」

 どちらかというと、人形が三本足なのに気づいている人より、男が人形を連れて来ているほうに目がいっている人が多いと思うのだが。この歳の男性がお人形と話している姿はなかなか奇異に見えるかもしれない。……実に失礼な話だ。

「うん、おいしい。たまーに食べたくなるの、むしょうに」

 コーラを飲むと骨が溶けるって言われたけどそれはウソであるらしい。だからと言って飲み過ぎが体に悪いのはホントだけど。そういえばハンバーガーにミミズを入れようとした妖怪がいたなあと思って、フォクは飲み込む。想像したくないけど想像してしまうこともウワサの発端だろう。

「あんまり食べすぎるとその足が病気になるぞ」

「人の足は不便ね。そのうち痛風や関節症にでもなるのかしら。……ねえ、脱毛サロンに行ってみたいわ」

「人間用の器具が使えるかなあ……」

「あと美容室も行きたい」

 この人形は古いタイプで、髪を切ったら伸びない上、アイロンを当てることもできない毛質だ。それでもひとりの女の子の憧れがあるのだから難儀なものである。染めることくらいはできるだろうが元には戻らない。

「……人形っていうのは、なんだか不思議よね。人間を模しているけど人間ではないもの。あたしは人間になりたいけど、ずっと人間にはなれない」

「人間だって人形は処分しにくく思ってるよ」

「そうみたいね、人形供養があるくらいだから。でも、抵抗する人形はどうするの?」

「自分と同じような顔があるから嫌だと思うんだ。頭を隠してやればいい。そうすればただのモノになる。人間だってそうだよ」

「どっかの『ぶそうしゅうだん』みたいなやり口ね」

 人形はテレビで見た世界のニュースを思い出したようだ。フォクにあきれた口調を返し、ポテトをひとくち。

「この後はお洋服買うのに付き合ってくれるのよね」

「ああ」

 手元のスマホを出せば、そこにはドール用の洋服の画像が並んでいた。通販ならこの地方都市でもかわいいドール用の洋服が手に入れられる。リボンから、フリル、レース、ビーズ、選び放題だ。

「わあい、フォクとデートよ」

「そりゃどうも」

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