15、ドッペルゲンガー

 世の中には同じ顔をした人が三人いるという。

 それはともかく「もうひとりの自分に会うと死ぬ」というウワサが広まっていた。いわゆるドッペルゲンガーというやつだ。そもそものドッペルゲンガーは霊体が抜け出たものともいわれているし、単に脳の異常による幻覚……とも考えられる。

 それはいい。問題は「ドッペルゲンガーに会うと死ぬ」というウワサから生まれた妖怪だ。

 同じ人が二人いることはありえない。双子や三つ子は? 一卵性双生児だって人格は別だ。育てば全く同じというわけではない。それでも人は誰かのドッペルゲンガーを見たとき他人の空似ではなくそれだと思うのだという。そしていずれ妖怪ドッペルゲンガーは本人に会い、何らかの方法で死に至らしめる。

 では、対処法は? すばやく心臓を狙うとか罵倒するとか言われている。つまり、こちらの先制攻撃だ。



「うわ!」

 出会い頭にロアが叫んだ。いつも通りのミディアムボブに眼鏡、スーツにウォーキングシューズ。一瞬驚いた後、得意顔になるのも見慣れた表情だった。……やっぱり、ムカつく顔だなあ。

「でた、フォクのドッペルゲンガー! 罵倒すればいいんでしょ? ブサイク、無駄にデカくてジャマ、気を使うけど使えてないし、真面目に見えてわりとクズい……!」

「……うん。まあ、本当のことだけど」

 フォクは一度息を吐いて、ゆっくりと確認するようにロアに聞いてみる。

「ロア、眼鏡を外さないのか?」

「ええ?」

 かけている眼鏡を外そうとして「ロア」は動揺した。ロアの能力まではトレースできないのか、それとも本能的に能力を使うことに抵抗を持ってしまうのか。まあ、どちらでもいいさ。一瞬で心臓を刺されなくて良かった。こういう人の良さもロアをマネたものなのかもしれない。

「ドッペルゲンガーと間違えて本人を祓おうとするなんて……おっちょこちょいは本人と変わらないんだな、妖怪ドッペルゲンガー」

 ロアの姿をしたドッペルゲンガーは、はっと目を見開きそのまま……消えてしまった。



「もっと簡単なんだよ。ドッペルゲンガーは自分がそうだということを忘れている。そしてホンモノのほうをドッペルゲンガーだと思い、消しにかかる。だから『おまえこそがドッペルゲンガーだ』と言ってやればいい」

 それからフォクはやれやれと頭を掻いた。

「……もっとも、本当の人間をドッペルゲンガー扱いしつづけたらどうなるかはわからないけど」

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