6、山の廃墟

「ここかあ……」

 ロアは車から降りて、ふたりの警官と山に入っていった。そこにあるのは昔に建てられたペンションのようだが、今はその面影を留めるのみだ。屋根が落ちてきて、草木がはびこっている。植物は強いなあなどとロアは思った。人間がいなくなったら都市もあっという間に自然に還るのかもしれない。

 ガダガタガサガサと音がする。わいわいがやがやという声も。ここは立ち入り禁止にしてあるはずだ。ロアが警官に目配せをすると、ひとりの警官が入っていく。手には懐中電灯。廃墟となった建物は昼なお薄暗い。

「誰かいるのか!」

「げっ」

「やべ」

「そっちいけ、そっち」

 その瞬間、天井がバリバリと落ちてきた。



「まったく、興味本位も迷惑だ」

 不良か質の悪い廃墟マニアか。酒を持っていたことを考えるとただの物好きの不良だろう。まあ、誰かを連れ込んでいないだけいいか。落ちてきた天井に驚いてすっ転んだやつがいたくらいで大きなケガはなかった。本人たちがケガするのはロアには文句はない。とはいえ警察としては対処しなければならないようで、人間の相手は大変だなあなどと思う。

「そこにいるのか?」

「どうもお、ありがとうございます。うるさくて困ってたんですよお」

 暗がりから声がする。

「ああいうやつらに尻尾みせると面倒なことになるしね」

「あたしは、ここで起こった殺人事件の被害者の幽霊だとか言われてましてねえ」

「バカバカしい。そんな事件はないし、そもそも経営難で潰れたんだし……」

「だといいですねえ」

 声が突然冷たさを帯びた。

「ここで人が死んだらホントのことになりますよねえ……」

「あんまりバカなこと言うと、フォクに報告しなきゃならなくなるよ」

 陰がケタケタ笑う。

「あたし、あいつのこと好きだなあ……。それにくらべてあんたは見分けがきくせいか、動じなくて嫌らしくて……」

 ロアはポケットから出したものにライターで火をつけて投げつけた。それは床に跳ねたかと思えばバチバチと続けざまに大きな音を出しながら爆発して煙を上げた。爆竹だ。祝いごとに使われるほか、山の妖怪を追い払うのに使うものだ。

 その声の主は「ギャッ」と鳴いて消えてしまった。こういう妖怪は騒がしいのを嫌うことが多い。やってきた不良たちのうるささにはなかなか出てこれなかったほどに。



「これでしばらくは大丈夫でしょう」

 山を下りると、持ち主に報告する。土地はあるが金がなくて解体できていないそうだ。妖怪はともかく、不良が集まり犯罪の現場となるのもそう遠くはないのだが、ない袖は振れぬということらしい。作るだけ作って上手くいかなかったら放置するなんてというのはロアの考えで、なかなか面倒なものなのかもしれない。

「ありがとうございます、荒らされるので『殺人があって被害者の霊が出る』とウワサを流したのですが……」

 逆効果で人が集まったんだがとロアは思ったが言わなかった。

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