第30話 権力の移譲
突然のシェリルの登場に生徒会室はざわめいた。
「ローレンス?」
「自宅で休養してるはずじゃ……」
「学院に戻ってたのか」
「静粛に」
グレアムの一声で生徒会室は静けさを取り戻す。
「ローレンス。遅れて来ておいて、議事の進行を妨げるとはどういうことだ。遅刻したなら遅刻したらしく、せめて邪魔にならないよう静かに着席したらどうだ?」
「議事の進行を妨げるつもりはありませんわ。ただ、新たに生徒会に加わることになった同志クルス。彼と皆様にどうしても申し入れなければならないことがあって、僭越ながら会議に割り込ませていただきました」
「クルスと話したいことがあるなら後にしたらどうだ? 今は生徒会の途中で……」
「生徒会の今後の運営にも深く関わることです」
「何?」
「クルス」
シェリルはクルリと向きを変えてルイの方に歩み寄る。
「生徒会を務めながら、ローレンス派を纏めるのは難しいでしょう? あなたの負担を和らげるために私にローレンス派の領袖の立場を返還なさってはいかがですか?」
「ええ。もちろん。先輩が復帰してくださるというのなら、喜んで返還させていただきます」
「では、私がローレンス派のトップということでよろしいですね?」
「はい。引き続きよろしくお願いします」
(((((は!?)))))
突然の権力移譲にその場にいたほとんどの者が困惑する。
余りにも唐突なことだったので、さしもの生徒会の者達も異論を差し挟む余地がなかった。
ロレッタも動けず事態の推移を見守るほかない。
シェリルはグレアムの方に向き直った。
「生徒会長。私がクルスと皆様に伝えたかったことはこれですべてですわ。引き続き議事を進めてくださいな」
シェリルはそれだけ言うと、ルイの隣に腰を下ろした。
「ふー。では、今度こそ次の議題に移るぞ。ローレンスの生徒会解任決議についてだ」
その後、シェリルの生徒会解任をめぐって議論と投票が行われた。
だが、過激派のトップに返り咲いたシェリルを表立って敵に回そうとする者はいなかった。
議論においてもシェリルに対して批判的な発言は控えられ、投票においても皆、ローレンス派のトップを生徒会から締め出してパワーバランスを崩すことには反対せざるを得なかった。
結果、シェリルの解任決議は全会一致で否決された。
「まったく。とんだ茶番だな」
生徒会閉会後。
グレアムは不機嫌そうに眼鏡の高さを直しながら部屋に残った仲間達を相手にぼやいた。
「どういうことだ? ルイとシェリルはあらかじめ打ち合わせしていたのか?」
「そりゃそうだろ。でなきゃあんなに都合のいいタイミングで現れるはずがない」
「また過激派の奴らにしてやられたってわけか?」
「あのルイとかいう新入生にもな」
グレアムを取り囲む友人達は口々に意見を言い合って、現状を把握しようとする。
ただ、してやられたことに動揺は隠しきれなかった。
「これも君の陰謀の一つなのか? ロレッタ」
グレアムは端の席で1人物思いに耽っているロレッタに問いかけた。
「まさか。僕にあの女を操る力なんてないよ」
「だが、どうする気だ? ローレンスが復活してしまった。過激派を嫌われ者にして、ローレンスの勢力を弱めるという君の構想は遠のいた」
ロレッタは立ち上がって部屋を出て行く。
「おい。どこに行く?」
「もう消灯だよ。部屋に戻らなきゃ」
(ルイ。ちょっと君のことを過小評価していたみたいだね。ここまで鮮やかにかわされるとは。正直舐めてたよ)
生徒会室を出た後もロレッタの思索は続いた。
(少し……思い切った手を使う必要があるかな)
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