第26話 生徒会の思惑

 ルイが自宅で方策を編んでいる頃、生徒会も緊急招集を受けていた。


 それぞれ授業や課外活動もそっちのけで生徒会室に集まる。


 議題は当然、本日のルイとシェリルの試合、その結果と影響、およびルイの問題発言についてである。


「さて、今回、諸君に集まってもらったのは他でもない。例の1年、クルスに関することだ」


 メタルフレームの眼鏡をかけた生徒会長、グレアム・レビがそう口火を切った。


 実直さと規律正しさを兼ね備えた彼は、生徒会のメンバー全員から厚い信任を受けていた。


 実際、彼の卓越した運営手腕はこの様々な派閥の長が集まる生徒会においても揺るぎないものだった。


 もっとも今回ばかりは流石の生徒会メンバーも事が事だけに不安な様子を隠し切れていなかったが。


「すでに全員、知っているだろうが、生徒会テロ対策委員、実力向上委員などいくつもの委員長を務めるローレンスが、対抗戦を前にしてルイ・クルスなる一年生に試合で負けてしまった。クルスはローレンスの砲撃キャノン魔法と魔力をシェアリングして、事実上ローレンスを無力化した。それだけではない。彼はローレンスに対し、ローレンス派(過激派貴族のこと)の領袖たる地位を明け渡すよう要求。ローレンスも口頭でそれを受諾した」


「いやはやこれは……。なんとまあ……」


「まったくどうしたものか」


「呆れてものも言えんな」


 グレアムは1つ咳払いして、メンバーに静粛を求めた。


 メンバーはそれに従う。


「とにかく、この件について生徒会として早急に対策が求められる。みんなの意見を聞かせて欲しい」


「いったいどうすんだよ。過激派ローレンス派貴族。彼らの力がないと対抗戦後に予想される対テロ戦を乗り切れんぞ」


「負担を負うから任せて欲しいと言ったのは、彼らの方じゃないか」


「ローレンスに責任を負わせるべきでは?」


「事はそれほど単純ではない」


 グレアムがたしなめるように言った。


「ローレンス派は隣国ガルリアとの外交交渉も担っている。前年のローレンス派による示威行為の成果もあって、今の所、彼らも大人しくしているが……、ローレンス派が打撃を受けたと聞けば、また調子に乗って強気の行動を起こしてこないとも限らない」


「また、対応に苦慮することになりますね」


「それで? 肝心のローレンス嬢は?」


「気分が優れないため欠席だそうだ」


「はぁー。こんな時に何やってんだか」


「だいたいあのクルスとかいう一年坊。あいつはいったい何を考えてるんだ? いきなり上級生であるローレンスに喧嘩を売ったり、ローレンス派を乗っ取ったり。無茶苦茶だぜ」


「だが、実力は相当なものだぞ。入学前からすでに一つ星シングルの称号持ち。魔法のシェア・ビルドの実績はもとより、実戦にも強い。影魔法なんていう得体の知れない魔法も使いこなしている」


「何よりあのローレンスを完封したんだ」


「それだけに厄介な存在ですね。何をしでかすかわかったものじゃない」


「あれほどの力を持つ奴がローレンス派を傘下に収めれば……」


「収めることなんてできるのか? 過激派ローレンス派の奴ら、1年坊の言うことに大人しく従うほど物分かりのいい連中じゃないぜ」


「ローレンスが蓋をすることで辛うじて抑えられていたのが過激派ローレンス派の連中だ。そのトップが一年にすげ替えられたとあれば……、連中も黙ってはいまい。ゴタゴタが起きるのは間違いないだろう。それを含めて混乱は必死だ。どうにか収めなければならない」


「だが、誰が?」


 そう言うと、会議室は一様に静まり返り、お互いに駆け引きするような視線を交わし合った。


 誰もが問題だと認めているが、その一方で誰もが負担を負いたくないと思っていた。


 どの派閥も自派を纏めるのに精一杯なのだ。


「別にいいんじゃない。そんな深刻に考えなくても」


 ロレッタが張り詰めた空気に似合わないくつろいだ調子で言った。


 両腕を頭の後ろで組んで、背もたれに深く身を預けて目をつぶっている。


「ルイ本人がやりたいって言ってるんだから。やらせてあげればいいよ。どの道ローレンスはしばらく使えないんだ。彼の好きにやらせてあげなよ」


「あまりふざけてもらっては困るな、ハウ。分かっているのか? この事態を招いたのは君の責任でもあるんだぞ」


 グレアムがその鋭い眼光をロレッタの方に向けた。


「クルスが試合で使っていたあのフォートレスの魔法、授けたのは君だろう? いったい何を考えているんだ?」


「責任も何もないよ。厄介な奴なら取り込んで紐をつければいい」


「何?」


「ルイを生徒会のメンバーに招き入れればいいのさ」


(ルイ、踊ってもらうよ。僕の手の平の上で)

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