第24話 ルイの宣言

 練兵場は大番狂せに沸きたっていた。


 観客席にいた裕介と椿も興奮に包まれる。


「すごい。流石ルイだわ。ローレンス先輩に勝っちゃうなんて」


「まさか、ここまで圧勝するとはな。ったく、心配して損したぜ」


 そうして主に新入生達が無邪気に喜ぶ一方で、学園の有力者達の間では不穏な空気が漂い始めていた。


 観客席では、熱狂的な歓声を上げる観客に混じって、ヒソヒソと小声で話す様子がそこかしこで見られる。


「おいおい、本当に一年坊が勝っちまったぞ」


「ローレンスの砲撃キャノンを完封……」


「対抗戦はどうなるんだ」


「生徒会の勢力図が大きく変わるな」


「過激派貴族が没落するのか?」


「流石にそれはヤバいって。対テロ戦に彼らは絶対必要なんだから」


「だが、もしクルスが平民派についたとしたら?」


「学園のバランスが崩れるぞ」


「待て。クルスは貴族階級なんじゃ……?」


「成り上がりの新興貴族だ。当てになるかよ」


「だが、過激派に上手く取り込めれば……?」


「ローレンスの没落が確実なこの情勢で? 穏健派が黙っていないだろ」


「むしろ逆では? 過激派がクルスを取り込むのではなく、クルスが過激派を取り込むとしたら……」


「おい、それ以上はヤバいって!」


「いずれにせよ。早急に対応を協議せねば」


「動揺を鎮め、派閥をまとめる必要がある」


「だが、誰が?」


「ローレンスの凋落が確実なこの情勢で、生徒会をまとめられる者など……」


 そうして各派閥が陰謀を囁く中、ルイはいまだ立ち上がることのできないシェリルに近づく。




(とりあえず、目論見通りに事を運ぶことができたな)


 ルイは悔しそうに唇を噛み締めるシェリルを見下ろしながらそんなことを考えた。


(これで砲撃キャノンを手に入れて、ビルドを進めれば、シェリルの好感度を上げて死亡フラグを回避できるはず。派閥争いの方もハウ先輩に投げれば、うまく纏めてくれるはず。そうなれば、ハウ先輩関連の死亡フラグ回避にも布石を打つことができる)


「ローレンス先輩」


 ルイがそう声をかけると、シェリルがビクリと肩を震わせながらおそるおそるこちらを見上げてくる。


「約束通り、砲撃キャノンのシェアと魔力を……」


 そう言いかけたところで、ルイは体のコントロールを失った。


(えっ!?)


「ふはははは。見たか愚民ども。これが影魔法の力だ」


 突然、ルイは客席に向かって言い放った。


(ちょっ、おいい。何急に出てきてんだ)


 豹変したルイの態度に観客席は不穏な空気に包まれる。


 シェリルも訝しげにルイのことを見上げる。


「なんだ? クルスが何かしゃべり始めたぞ」


「とりあえず聞いてみよう」


 ルイはシェリルの襟首をグイッと引き寄せた。


「!? クルス、何をする気だ」


 審判をしていた千草が慌てて駆け寄ってくる。


 だが、ルイは気にせず演説を続ける。


「我が影魔法の前に過激派貴族の頭領は無残にも敗れ去った。ローレンス家の伝家の宝刀、砲撃キャノン魔法も我が手に落ちる。だが、私はそれだけで済ませるつもりはない」


(何をする気だルイ。ま、まさか……。待て。ルイ、それはまだ早い! よすんだ)


「これより過激派貴族およびシェリルの研究室を我が傘下とする!」


 ルイは高らかに宣言した。


 会場のどよめきは最高潮に達した。


「な、なにぃ。過激派貴族がクルスの傘下に?」


「あーあ。あの一年、言っちゃったな」


「これは生徒会が黙っていないぞ」


(おいい。何やってんだぁ)


「あ、ああ。そんな……。私の積み上げてきたものがこうも簡単に……」


 シェリルは力なくこうべを垂れる。


 そうして虚ろに瞳を彷徨わせながらも、どこか恍惚とした表情だった。


 彼女は自分よりも弱いものに対してはドSだったが、一度わからせを受けた相手には従順になってしまうところがあった。

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