第23話 砦の向こう

 シェリルはあらかじめ出しておいた大砲に加えて、2つの大砲を出現させた。


 そして3つの砲口をルイに向け、同時に光を灯す。


(!? 砲撃キャノンを3つ同時に!? 併用ビルドか)


 連続で間断なく使えるのが連動ビルドだとすると、2つ以上の魔法を同時に使えるのが併用ビルドだ。


 椿との親密度を上げれば連動ビルドを沢山覚えられるのに対し、シェリルとの親密度を上げれば併用ビルドの開発が促進される。


 当然、シェリルは併用ビルドを多用してくる。


「あなたにこれが耐えられます? 三重砲撃トリプル・キャノン


 3つの大砲から同時に火が吹いた。


 ルイの構築した影の砦に集中砲火が浴びせられる。


 轟音と共に何かが崩れる音が鳴り響き、黒い破片と白煙があたりに散らばる。


(今度こそやったか?)


 煙が晴れたそこには、ボロボロになった砦の黒い外壁、そしてそこから露出した土の砦が現れる。


 ルイの砦魔法はいまだ健在だった。


「!?」


「驚きました。まさか併用ビルドの砲撃魔法を使ってくるとは」


 土の砦には再び黒い実体化された影の塗装がコーティングされていく。


(!? 一瞬で修復した?)


 しかも、シェリルの足下にはいまだルイの影が伸びており魔力を吸収ドレインし続けている。


 吸収された魔力を使ってルイはさらに影と砦を増幅させる。


「ちぃっ」


 シェリルはルイの影から逃れるべく走り出した。


 3つの大砲は彼女の後を付いてくる。


 シェリルは城壁の側面に回り込んでルイを直接狙おうとした。


 だが、ルイもシェリルの動きに合わせて自身と城壁の角度を移動する。


(砦の角度もずらせるの!?)


「このっ」


 砲撃を浴びせ、城壁を崩しながらさらに回り込もうとする。


 だが、その度にルイは城壁を補修して、立て直す。


(くぅう。鬱陶しい防御壁ね)


 シェリルは唇を噛み締めながら大砲の照準を合わせる。




「見事に攻撃する側と防御する側に分かれたね」


 観客席にいるリコが言った。


 ロレッタも隣でうなずく。


「うん。こんな風に攻撃側と防御側に綺麗に分かれた場合、一方的な勝負になりがちだ。攻撃側が寄せ切るか、防御側が凌ぎ切るか。どちらかが圧勝して、どちらかがボロ負けする」


「今のところ、ルイ君の方が有利だね」


「ルイが少ない魔力で上手く凌いでいるからね。おまけにシェリルの魔力を徐々に吸い取っている」


「このままルイ君が勝っちゃうのかな?」


「シェリルが次の手を打てなければそうなるね」


(シェリル、君の砲撃キャノンでは僕のフォートレスは破れないよ。そろそろ奥の手を出した方がいいんじゃないの?)




(くっ。砦を破れない)


 シェリルは聳え立つ黒い壁を崩せず、肩で息をし始めた。


 流石にその顔からは余裕が消えている。


(どうする? あれを使うか? でも……)


 チラリと観客席の方を見る。


 客席にはロレッタと大勢の一年生がいる。


 対抗戦を前に奥の手は見せたくなかった。


 そんなことを考えているうちに足下に影が伸びてくる。


 ルイが影の形を変えたのだ。


 また、魔力が吸収ドレインされる。


 砦は更に大きくなっていく。


 シェリルは防御に回るかどうか一瞬迷った。


 だが、すぐに雑念を振り払う。


(私が……私が守りに回るなんてありえないっ!)


遠隔リモート!」


 シェリルが遠隔リモートの魔法を放った。


 すぐ傍に浮かんでいた3つの大砲が、シェリルの元を離れて城壁の上方、左右に回り込み、その奥にいるルイを狙う。


 これがシェリルの奥の手、3方向からの同時砲撃だった。


 城壁の向こうで爆炎と煙が鳴り響く。


 大砲はシェリルの手元に戻ってきた。


(やったか?)


 直撃はなくとも、爆風で少しはダメージを与えられたはずである。


 だが、砦の構築は止まらなかった。


 そればかりか、影が再び伸びてくる。


(うそっ!?)


 シェリルは走り出した。


(無傷だって言うの? そんなバカな)


 シェリルは増築されていく壁を横目で見る。


 壁が完全にフィールドを分断すればシェリルの負けは確定だ。


 攻撃の手段が無くなる。


(こうなったら……)


 シェリルはダメージ覚悟で特攻することにした。


 広がるルイの影を踏み越えていき、魔力を吸われながらも進んでいく。


(壁を越えて、至近距離から砲撃する!)


 シェリルが壁を越えると、ルイの姿が見えた。


 壁の構築と影の操作に集中していたようで、突然現れたシェリルの姿にハッとする。


(もらった!)


 シェリルは剥き出しになったルイに向かって、三重砲撃トリプル・キャノンを放つ。


 魔力の光は確実にルイに直撃する。


(やった!)


 今度こそ仕留めた。


 そう思って気を緩めた瞬間、足下の影が具現化して、シェリルの体を縛る。


「なっ!?」


 シェリルは体の自由を奪われ、そのまま魔力を根こそぎ奪われる。


「そん……な」


 足の力が抜け、その場に跪いた。


(どうして? 確かに私の砲撃はルイに直撃したはず)


 シェリルは自由の効かなくなった体で砲撃跡を見つめた。


 煙が晴れると、ちょうど影の中から出てくるルイの姿があった。


 シェリルが撃ち抜いたと思ったルイの姿は残影トレースの魔法で作られた残像だった。


「私の勝ちです。ローレンス先輩」


「くぅう」


 シェリルは悔しそうに涙目になる。


「そこまで。勝者ルイ・クルス」


 千草がそう宣すると、会場には歓声があがった。

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