第22話 影の砦
対抗戦のバトルフィールドを巡って殺伐とした空気が広がっていた学園内において、この両雄の激突に興味関心を示さない者はいなかった。
ロレッタにもその知らせは届いていた。
「ロレッタ。大変だよー。ルイ君が……」
「シェリルと試合するんだろ? 知ってるよ」
「わ、情報早っ」
(売り言葉に買い言葉で差し向けた言葉だけど、思った以上に面白いことになったな)
「2人ともスキルと魔力の無期限シェアを賭けて試合に臨むみたいだよ。シェリルが負けたら
「それだけの魔力を渡すとなると、負けた方は対抗戦で使い物にならなくなるだろうね」
「ルイ君、大丈夫かなぁ」
「せいぜいシェリルの鼻を明かして欲しいものだね。ま、あんまり期待してないけど」
そう言いつつも、ロレッタは微笑を浮かべるのであった。
「ルイ。ちょっと、どういうことよ」
ルイを捕まえた椿が、問い詰める。
「どうしてローレンス先輩と試合するなんてことになってるのよ」
「椿。ごめん。その……売り言葉に買い言葉で。つい」
「つい……じゃないでしょーが。ローレンス先輩は過激派貴族の領袖なのよ。そんな人と試合するなんて。それがどういうことか分かってるの?」
「影魔法を否定されたんだ。それで黙っているわけにはいかないよ。俺にはこれしかないから」
「ルイ……」
「分かってんのか?」
今度は裕介が問いかけてくる。
「あの入学式の時の
「そうだよ。ルイには接近戦と中距離用の魔法しかないのに、ローレンス先輩の遠距離攻撃にどうやって対抗するの?」
「不安要素ばっかりあげても始まらないよ。なんとか接近戦に持ち込む方法、考えてみる」
(確かに原作ルイの戦い方ではキツいかもしれない。けれども、
そうして、試合の日がやってきた。
学園の重要人物同士の一戦ということで、練兵場には沢山の人間が詰めかけていた。
観客席の生徒達は、固唾を飲んで練兵場の中央に陣取る2人を見守る。
シェリルはルイを見て酷薄な笑みを浮かべる。
(逃げずにやってきたようね)
シェリルのスキルは
(ここでルイを叩いて魔力を奪っておけば、対抗戦をかなり有利に進められる)
シェリルは観客席に座っているロレッタの方を見る。
(ロレッタ。見ていなさい。あなた一押しの子を目の前で捻り潰してやるから)
ルイも原作【シェア&マジック】のことを思い出しながら目の前のシェリルのことを見据えた。
ゲームにおいては過激派貴族として登場し、生徒の選別を始めとして暴虐の限りを尽くす。
が、ある時から身分のハンデも乗り越えて魔法を極めていく裕介に感銘を受け、心を入れ替えていく。
シェリルはその洗練された所作で男性を虜にする一方、作中1のドSキャラでもある。
余談だが、転生前のルイがいた世界では、動画投稿サイトにて【シェア&マジック】の切り抜き動画が溢れており、ルイ死亡シーン切り抜き動画なるジャンルが確立されていた。
普段は「悪役貴族逝ったァァァァ」「ザマァw」といったコメントで溢れかえるルイ死亡シーン切り抜きだが、シェリルルートでのルイ死亡シーンには「ブヒィィ」「ありがとうございますっ」といったコメントで溢れ返る。
このようにドMの人にとっては、シェリルによる処刑はご褒美かもしれないが、転生ルイとしては一番殺されたくない相手だ。
シェリルルートへの分岐点は主に2つ。
1つは、対抗戦において裕介がシェリルを圧倒すること。
その場合、裕介の圧倒的な魔法の前にシェリルが心酔し、かなり初期の段階で
もう1つは、裕介が
それまでツレない態度を取っていたシェリルが、急に裕介のことを
この場合は
ダイジェスト版のような感じになる。
これに対して原作ルイは、いくつかのパターンで横槍を入れる。
2人の間を引き裂こうと実家を使って様々悪事を働いたり、過激派貴族に恨みを持つテロリストを学園に手引きし、シェリル誘拐を企てることさえしたりする。
そうしてシェリルのルイへの嫌悪感が一定に達したところで、ルイはシェリルに惨殺されることになる。
要するにルイがシェリル関連の死亡フラグを回避できるかどうかは、裕介と原作ルイ次第である。
裕介がどこまでシェリルルートを進めてくるか、あるいは原作ルイがどれだけシェリルの嫌悪感を上げてくるかにかかっている。
だが、転生ルイはこうして対抗戦前にシェリルとの試合に持ち込むことができた。
ここで
もちろんこれにはリスクもある。
シェリルは力の信奉者のようなところがあり、弱い男に対して嫌悪感を抱く傾向がある。
ここで負ければ、シェリルからの好感度はますます下がるし、原作ルイは相手から嫌われれば嫌われるほどますます嫌がらせしたがる傾向にあり、好感度の著しい低下は避けられない。
ここで試合に挑むのははっきり言って賭けだった。
だが、ここで勝負を避ければ、さらに危険は大きくなる、とルイは考えていた。
ならば、いっそのこと勝負に打って出た方が得策だろう。
(一か八か。勝負!)
「では、これよりシェリル・ローレンスとルイ・クルスの試合を始める」
立会人の千草がそう宣する。
「ルールは制限なし。魔力もスキルもいくらでも使っていい。では、2人とも位置について」
ルイとシェリルは位置につく。
千草がコインを投げた。
コインが地面に落ちて、試合が始まる。
試合が始まるやいなや、ルイの影は10倍の大きさに膨らんだ。
シェリルの足下までルイの影は伸びる。
(!? 速い。それに……予想以上の増幅。けれど……)
「いくら影の量が多くなろうと関係ないわ。
シェリルのかざした右手の先に大砲が現れる。
砲口に魔力の光が灯ったかと思うと、砲撃がルイに向かって放たれる。
入学式で放たれた拡散砲撃とは違う、一点集中の砲撃だった。
目を覆いたくなるような凄まじい光が、ルイを襲い、爆炎が立ち上る。
観客席の椿は思わず立ち上がった。
(ルイ!)
(やったか?)
シェリルはそう思いながら煙の中に倒れるルイの姿を探そうとするが、晴れた煙の先には黒い城壁が
「!?」
(これは……ロレッタの
材質は影だった。
本来、ロレッタの
土を材料にして砦を形作る魔法だが、ルイの城壁は影でできていた。
いわば、ルイは闇属性の
(へえ。あんなことできるんだ)
観客席で見ていたロレッタは素直に感心する。
(しかも……)
ルイの影はシェリルの足下に伸びたままだった。
このままいけば、シェリルは魔力を根こそぎ奪われて戦闘不能に陥る。
影は更に増幅していた。
城壁は徐々にその範囲を広げる。
こうしてフィールドを飲み込んでいき、敵を圧殺するのが
(
「ふふ。その程度で私の
シェリルがもう一度右手を空中にかざす。
更に複数の大砲が彼女のかたわらに現れた。
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