第21話 勇気と力

「研究室へようこそルイ。僕はロジェ・ワイス。この研究室の副長を務めさせてもらってるよ」


「ルイ・クルスです。よろしくお願いします」


 ルイはロジェと握手した。


 見慣れぬ一年生がロジェと話しているのを見て、研究室の面々はチラチラと好奇の視線を送ってくる。


「誰だあいつ?」


「クルスだよ。一年で一つ星シングルの」


「へえ。あいつが噂の……」


「みんな君のことが気になるようだね」


 ロジェが言った。


「みんなには後でまとめて紹介するから。まずは君に研究室内の設備を案内するよ」



 ロジェのこの言葉は、ルイに向けてというより、研究室内の人間に向けて言ったことだろうな、とルイは思った。


「我が研究室は学園内でも屈指の開発力を誇っていてね。スキル・魔法のビルド数においても学園ナンバーワンだ。これを見てくれたまえ」


 ロジェは一際大きなクリスタルの前にルイを伴った。


「これは研究室のメンバー全員の魔法とスキルを記録するクリスタルだ。しかも、記録するだけじゃないぞ」


 ロジェがクリスタルに手を触れると、ロジェのスキルと魔法レベルが表示された。


 さらにそれだけでなく、研究室内のスキルを検索して、所持スキルと相性のいいスキルシェアも提案してくれる。


「お、新しいスキルシェアの提案が出たな。あとで試してみよう」


 ワイスはクリスタルに映ったスキルシェアの提案をメモする。


「こんな風にスキル・魔法をビルドするヒントをくれるんだ。このクリスタルは」


「素晴らしい装置ですね」


 まさしくこの装置こそ序盤でシェリルの研究室に所属するメリットだった。


 もっともほとんどのスキルビルド条件を覚えているルイにはあまり意味のないものだが。


「この装置を活用して、我が研究室は去年100ものスキルと魔法をビルドしたんだよ」


 ロジェは胸を張らながら言った。


「ルイ。君もどうかな? 今、ここでクリスタルに登録してみては? 自分では気づかなかったビルドのヒントを得られるかもしれないよ」


 ワイスがさりげなく提案する。


 無論、ルイのスキルデータを取り込みたいシェリルの意向が反映されているのだろう。


 原作ゲーム内では断る選択肢もあるが……。


 ここはあえて相手の狙いに乗っておく。


「では、お言葉に甘えて」


 ルイはクリスタルに手を触れた。


 すると、クリスタルにルイの魔法とスキル、およびそのレベル数、さらにはシェア・ビルド経歴まで表示される。


 ビルド数:5


 その表示に研究室内は一斉に騒ついた。


「ビルド数5!?」


「入学数週間で?」


「おいおい。とんでもないやつだな」


 ロジェはため息をついた。


「やれやれ。どうも君は注目を集めずにはいられない人間のようだね。仕方ない。ルイ。みんな君のことが気になって作業が手に付かないようだ。君の魔法のビルドの仕方についてみんなに話してもらってもいいかな?」


「ええ。構いませんよ」


「助かるよ。みんないったん作業を止めて、ルイが話してくれるそうだ」


 ロジェの一言で内心浮ついていた研究室の面々は、それぞれの作業を止めて、クリスタルの周りに集まる。


 ルイの追求から逃れていたシェリルもさりげなくその聴衆に加わった。




 ルイはクルス邸で行ったレベル上げの方法について説明した。


 10人のメイド達に影魔法をシェアしたこと。


 それぞれに適切なスキルの割り振りをしたこと。


「と、このようにパラメーターの伸びを見て、相性のいいスキルをシェアすると、レベル上げが効率よくなる上に、新たな魔法をビルドできる確率が高まります」


 ルイはミリアの残影トレースビルドを例に説明した。


「なるほど。こんな方法が……」


「人を雇ってビルドを代行するとは」


「思いつかなかったな」


「なーんだ。そんな方法で一つ星シングルになったんですね」


 シェリルが興味を失ったような口ぶりで言った。


 それまで感心して騒いでいた周囲の者達は、シェリルの一言に水を打ったように静かになる。


「正直、がっかりしましたわ。召使いに魔法を開発させるだなんて。そんな方法で魔法をビルドして、高貴なる魔導士の職責を果たせたと言えるのでしょうか?」


「シェリル先輩の仰りたいことはわかります。特に貴族派である先輩からすれば、面白くないでしょう」


 シェリルは学園を優秀な貴族のみで占めたいと考えている過激派貴族。


 召使いに魔法をシェアした方が成長が速くなるというアイディアは、面白くないに決まっていた。


「ですが、私は影魔法に頼るしかないのです。これでしか生き残ることが……」


「話になりませんわ。この学園で生き残るために必要なのは力。召使いがセコセコ育てたスキルなんかに頼っているようでは到底力を蓄えることなどできません」


「しかし、力があるからと言って勇気があるとは限らない」


「なんですって?」


 シェリルが真顔になって、ルイを睨む。


「今の言葉、聞き捨てならないわね。私に勇気がないとでも言いたいの?」


「いえ、そういうわけでは……」


「不愉快だわ。あなたそこまで言うなら勇気を見せてみなさいよ」


「なるほど。では、どうすればあなたに勇気を見せることができますか?」


「私と試合しなさい。それで勝てればあなたの勇気を認めてあげるわ」


「いいでしょう。では、もし僕が勝てば、砲撃キャノンのスキルをシェアしていただけますか? 無期限で魔力50と一緒に」


「魔力50?」


「ふっかけるなぁ」


 だが、シェリルはむしろしてやったりといった表情を浮かべる。


「そこまでふっかけてくる以上、あなたはそれ以上の魔力を賭けてくださるのでしょうね?」


「ええ。もちろん」


「では、もし私が勝てば、吸収ドレインのスキルを魔力100でシェアしてもらうわ」


 シェリルのこの提案に研究室の面々も流石にまゆをしかめた。


(魔力100!?)


(そんな法外な……)


(それだけ貸せばいくらルイといえど、対抗戦でほとんど魔力を使えなくなるぞ)


「わかりました。それでいいですよ」


「「「「「!?」」」」」


 シェリルはまた酷薄な笑みを浮かべるのであった。

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