第19話 再び試合

 ルイは二度目の実戦練習に参加していた。


 相手はA組の男子生徒。


「いくぜっ」


 A組の男子生徒はルイに向かって炎魔法を放ってくる。


 ルイは盾の連動型ビルドを使った。


 火の盾、水の盾、雷の盾、土の盾が一斉に並んでルイを守る。


 炎魔法は4つの盾の前にあっさりと掻き消される。


「うっ」


 難攻不落の防御陣の前にたじろぐ男子生徒。


「ふっ。どうした? もう手詰まりか? なら、今度はこちらから行くぞ」


 ルイの足下の影が増幅したかと思うと、男子生徒の方に伸びていく。


 男子生徒は防御しようとするも、素早く伸びる影を防御する手段などない。


 やがて男子生徒の足下まで伸びた影は、実体化して巻きつく。


 そして男子生徒の魔力をことごとく吸い取っていった。


 束縛バインド吸収ドレインの魔法だ。


 ルイはこの2つの影魔法を連動ビルドさせていた。


(ほう)


 千草は感心したように目を細める。


 ルイは千草の方をチラリと見た。


 千草はスキルのビルドを評価する。


 これによって好感度が上がっていればいいのだが……。


「ちょっ、先生、ルイの奴またスキルを3つより多く使ってますよ」


 男子生徒が訴える。


「バカもの。ルイは2つしかスキルを使っていない」


「えっ?」


「4つの盾魔法は一連の連動ビルドだ。2つの影魔法もな」


「ええっ。そんなんありっすか」


「疑うのなら実際に4つの盾魔法の同時発動をやってみろ」


 1人の生徒が実際にやってみる。


「えーっと。火の盾の後に水の盾……うっ」


 火の盾を出現させた後、水の盾を出そうとするも、水は十分な量を発生させることはできず、さらに先に出した火の盾までも不安定になって崩れてしまう。


「連続で出せない?」


「その通りだ。魔法の連続発動はお前達が思っているよりもはるかに難しい。連動する魔法の組み合わせを見極めること、そして鍛錬が必要だ。ゆえに連動スキルはそれで1つのスキルとみなすに値する。お前の負けだ」


「うう。はい」


 ルイに負けた男子生徒はすごすごと引き下がる。


 千草はルイの下に歩み寄った。


「クルス、やるじゃないか。連動ビルドはもちろん、スキルを3つ以内に抑える戦い方も完璧だ」


 千草はこれまでの含みのある言い方ではなく、惜しみない賞賛を贈ってくれる。


「フハハ。これが俺の力ですよ。先生」


「ふっ。尊大な物言いは相変わらずだな。精神的にはまだまだ未熟なようだが、まあ、いいだろう。これからも精進に励めよ」


 千草は優秀な生徒には甘くなる傾向がある。


 この反応を見るに、ルイへの好感度はかなり上がったと見ていいだろう。


「天城!」


 千草が裕介を呼ぶ。


「次の相手はクルスだ。準備しろ」


「おっ。いよいよか」


 裕介は肩をならしながら歩いてくる。


 ルイと裕介は練兵場の中央に立つ。


「何? どうしたの?」


「天城とクルスが試合するみたいだ」


 周りの生徒達も2人の試合が始まると聞いて一次自分達の練習をやめ、注目する。


 裕介は剣を抜いて構える。


「よお。貴族の坊ちゃん。もうルールは覚えてきたのかい?」


「フハハ。貴様如きにルールを覚える必要などないわ」


「えっ? お、おう」


(いや、ルールは覚えろよ)


 転生ルイは心の中で突っ込む。


 とはいえ、別にルールを気にする必要がないのは確かだった。


 転生ルイは、原作ルイがスキルを4つ以上使えないよう、授業前にスキルのロックを済ませていた。



――――――――――――――――――――

【ルイ・クルス】

 スキルリスト

 →吸収ドレイン:LV117(LOCK!)

 →接続コネクト:LV32(LOCK!)

 →潜伏ハイド:LV17(LOCK!)

 〜〜〜〜〜

 →連動・剣:LV17(LOCK!)

 →連動・盾:LV10

 →連動・影:LV10

 →連動・眼:LV20

――――――――――――――――――――


(あとは原作ルイが新しいスキルをビルドさえしなければ反則負けしないはずだ)


「では、両者位置につけ。試合を開始するぞ」


 2人は魔法を放つ適切な距離につく。


 千草がコインを宙に投げる。


 コインが地面に落ちて弾けると共に、お互い魔法の撃ち合い……をしなかった。


 2人とも相手の出方をうかがって、腰を屈め、睨み合っている。


「ふっ。どうしたよ坊ちゃん。先攻ファーストで先手をとらねーのか?」


「フハハ。貴様如きに先手を取るまでもないわ」


(ロックしてるからできないだけだけどね)


「来ないなら、こっちから行くぜ!」


「ふっ。連動・盾」


 突っ込んでくる裕介に対し、ルイは4つの盾を一瞬で展開する。


 4つの盾が裕介の前にたちはだかる。


 だが、裕介はすかさず足下に目を転じた。


 案の定、足下から影が伸びてくる。


(やっぱりな。盾は目眩し。本命はこっちか!)


 裕介は後ろに飛びながら実体化して伸びてくる影を一刀両断にした。


 真っ二つに割れた影は力無くふやけながら地面に落ちていき、やがて消える。


「ふー。あぶねー。あぶねー。やっぱ厄介なスキルだなお前のそれ」


「くっ。貴様ぁ。よくも俺の影を」


「さ、どうした? これで終わりか?」


「ぐぬぬ。おのれ」


 原作ルイは手詰まりになる。


 用意した3つのスキルのうち、離れた敵に攻撃できるのは連動・影のみだった。


 連動・盾は防御用のスキルだし。


 連動・眼は近接戦闘用のスキルだった。


 連動・影を見切られた以上、ルイにこれ以上離れた裕介に攻撃する手段はない。


(やるなよ。新スキルのビルド、絶対やるなよ)


 転生ルイはハラハラしながら心の中で祈る。


「平民風情が。よくも……」


竜炎ブレス


 ルイが言い終わる前に裕介が風よりも速い炎を放った。


 ルイの盾をことごとく消していく。


「う、うわぁぁ」


 ルイは迫り来る炎に悲鳴を上げるも、炎は4つ目の盾で相殺された。


「ふっ、ふはははは。残念だったな平民。貴様の魔法では俺に傷一つ付けられんわ」


(ちっ。ダメか。この距離じゃ詰めきれない。けど、妙だな。なんでわざわざこんな戦い方を?)


 前回は影の壁で竜炎ブレスを防御していた。


 なのに今回はわざわざ4つの盾の連動スキルで対応している。


(なんで影魔法で対応しない? まるで縛りプレイしているみたいに……)


 裕介は頭を振って切り替えた。


(考えてる場合じゃねーな。向こうの事情を気にしてる余裕なんてない)


 非効率な戦い方をしているとはいえ、ルイは十分強敵だった。


(遠距離魔法は防がれる。なら、危険を冒しても近づくしかない!)


 裕介はルイに向かって突撃する。


「連動・盾!」


 4つの盾が2人の間を遮る。


「らあっ」


 裕介は盾を斬りながら前へ進む。


 3つ目の盾を斬ったところで足下に影が伸びてくるのが見えた。


 体を捻りながら実体化した影をかわして、斬る。


 最後の盾も斬って、いよいよ懐に入った。


 が、そこで裕介は足を止める。


「ククク。どうした? 来ないのか?」


「お前はこっから残影トレース潜伏ハイドがあるからな。水塊ブロック


 裕介は影に潜り込まれないよう、ルイに対して自身の影を遮るよう位置につき、その上で水塊ブロックを自分の背後の影にかぶせた。


 裕介の背後を大きな水の塊がカバーする。


 これでルイは回り込むことも、影に潜ることもできない。


「これで残影トレース潜伏ハイドも使えないぜ。万事休……うっ」


 ルイは自ら剣で打ち込む。


 裕介は剣で受ける。


 2人は剣と剣で激しく鍔迫り合いした。


「驚いたな。まさか、お前の方から近接戦闘を挑んでくるとは」


「ふっ。貴族とて時には剣で戦うさ」


「なんでそこまで必死になるかね。ずっと俺に突っかかってきてるよな、お前。入学試験の頃から」


「俺はお前に勝たなきゃいけないんだよ」


「そんなに熱いやつだったとはな。そういうの……嫌いじゃないぜっ」


 裕介がルイの剣を振り払った。


 返す刀でルイに打ち込む。


 しかし、ルイは紙一重でかわして、反撃する。


(読まれた!?)


 裕介も弾いてさらに太刀を浴びせる。


 しかし、それもかわされて反撃される。


(3つ目の魔法は千草先生の心眼ビジョンか)


 先ほどからルイの瞳が青白く光っている。


 こちらの剣の動きを先読みされている感覚がある。


 これは心眼ビジョンの魔法に違いなかった。


 ここまで連動・盾、連動・影ときて、心眼ビジョンと来れば、これ以上スキルを使うことはできない。


残影トレース潜伏ハイドもない! なら、この心眼ビジョンさえ破れば勝てる!)


 裕介はそう読んで、足を踏み出した。


 背後をカバーしていた水塊ブロックから離れて、前に進み出る。


 2人は激しく剣を交えるも、剣の腕とパワーは裕介の方が上だった。


 ルイも心眼ビジョンで先読みし、対応するが、防戦一方になっていく。


 そうしてルイは壁際に追い詰められていく。


(もらった)


 裕介はルイが壁に背をつけた瞬間、大振りの一撃を放った。


 しかし、ルイの胴を捉えたと思ったその剣は、手応えのないままルイの体を横切る。


 ルイの姿は歪み、煙のように消えていく。


(なにぃ?)


「残像だ」


 背後からの声に裕介は振り返って斬撃を浴びせる。


 が、ルイの方が速かった。


 ルイの剣が裕介の胴を打ち、裕介は吹き飛ばされる。


(ぐっ。心眼ビジョン残影トレース先攻ファーストを連動させたのか? だが、どうやって……)


 ルイの最後のスキル連動・眼は以下のスキル構成。


 心眼ビジョン心眼ビジョン心眼ビジョン心眼ビジョン→ ……→ 残影トレース先攻ファースト


 心眼ビジョンの連続使用によって、裕介に最後のスキルが心眼ビジョンだと思い込ませ、誘き寄せると共に背後に隙を作らせたのだ。


 そして、最後は連動スキルの終わりに紐付けした残影トレース先攻ファーストでトドメというわけである。


「そこまで」


 千草が試合終了を宣する。


「勝者ルイ・クルス」


(俺が……負けた?)


 裕介は呆然とする。


 生徒達は一斉に歓声を上げた。


「うおお。凄い試合だったな」


「ルイ君カッコよかったー」


「ふはははは。どうだ平民。これが俺の実力だよ」


「くっ。このやろぉ」


 裕介は起き上がろうとするも、痛みで足腰がいうことをきかない。


 どうにかクラスメイトに肩を貸してもらうことで起きあがる。


 椿がほっぺを朱に染めながら近づいてくる。


「ルイ、凄かったよ」


「椿が練習に付き合ってくれたおかげだよ」


 コントロールを取り戻した転生ルイが言った。


「ルイ……」


 椿はルイに貢献できたのが嬉しくて、ますます瞳を潤ませる。


 この感じだと今回の試合で相当好感度が上がったに違いなかった。


 椿は今にもキスしてきそうなほどだった。


「クルス。まだ試合後の握手が終わっていないぞ」


 千草が咎めるように言った。


「あ、すみません」


「とはいえ、よくやった。まさかであれほどの連動スキルをビルドするとはな。その……なんというか……」


 千草はもじもじしながら、言葉を詰まらせる。


 どこか恥ずかしそうに視線をそらしている。


「?」


「まさかお前があそこまで私の心眼ビジョンを使いこなすとは思っていなくて。その、私にもあのビルドを教えて欲しいというか……。い、いや、なんでもないっ」


 千草は誤魔化すようにプイッとそっぽを向いた。


(あんたの好感度も上がっとるんかい)


 千草の好感度も相当上がったようだ。


 そう言えば、原作でも千草は心眼ビジョンを使って、連動型ビルドを成功させると好感度が爆上がりする傾向にあった。


 心眼ビジョンは本来、最終盤でしか手に入らないスキルだから(その割に終盤では役に立たない)、死に設定だと思っていたが、序盤で手に入るとこうなるようだ。


(でも、まあいっか。これなら、多少の命令違反も許してもらえるだろう)


 ルイは千草の言う通り、裕介と握手しに行った。


「大丈夫か?」


「普通にいてーよ。お前のスキル強すぎ」


 そう言いつつも裕介は顔をしかめながら、握手をする。


「まいったぜ。まさかあんな連動スキルがあるなんてな」


「こっちこそ。あそこまで追い詰められるとは思わなかった。危なかったよ」


 裕介は不審げに目を細める。


「なんかお前、変な奴だな。ちょこちょこキャラが変わるっていうか」


「はは。よく言われる。ちょっと変わってるのかも」


「ま、いいや。次は負けないぜ」


「ルイ・クルス! 天城裕介!」


 健闘を讃えあう2人に観客席から降りかかる鋭い声が1つ。


 見ると、そこには腕を組んだシェリル・ローレンスが立っていた。


「素晴らしい試合でした。お2人の勇ましさ、私も讃えさせてくださいな」


 シェリルは拍手しながら言った。


「つきましては、お2人を私の研究室に招待したいと思っています。来てくださいますね?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る