第15話 好感度の逆転
「えっと。どうしたの急に。放課後練習だなんて」
「だって、さっきの試合。ルイは勝てたと思うんだ」
椿は悔しそうに言った。
「初めから
(な、なんだこいつ。急に理解者ポジの幼馴染ヒロインみたいな口ぶりでグイグイ近づいてきて)
「意外だな。まさか君からそんな言葉をかけられるなんて。てっきり嫌われてるものかと」
「嫌う? 私がルイを? そんなわけないじゃない。どうしてそんな風に思うの?」
「そりゃ、入学式の日、ビンタされたし」
そう言うと、椿は顔を上気させた。
「あ、あれはルイが変なこと言うから。その……驚いちゃって」
「あ、そうか。ごめん」
「ううん。私こそごめん。いきなりぶっちゃったりして」
椿は何か思い出すようにハッとした。
「ルイは……その、私のこと嫌いなのかな?」
(ああ、そっか。近づくなって言ってたんだっけ)
「そんなことないよ。ただ、その、クルス領はああいう風に治安が悪いし、それに父さんはああいう人だから。椿はクルス家に近づかない方がいいんじゃないかと」
「あ、うん。そっか。でも、じゃあ、ルイは私のこと嫌いなわけじゃないんだね?」
「ああ。もちろん」
「よかった」
「そうだ。椿。このスキルなんだけど」
ルイは
「このスキルは椿の
「私の
「うん。だからよかったら君にも使って欲しいんだけど」
「わー。ありがとう」
椿は嬉しそうにコードを受け取った。
「なんだかルイにはお世話になってばっかりだね」
「はは。そんなことないよ」
「きっと私もルイの影魔法で新しい魔法をビルドするから」
「うん。椿ならきっとできるよ」
ルイは椿と週1回放課後に魔法の練習をすることを約束した。
初日の訓練はこうして幕を閉じた。
ルイと椿はそれぞれ自分のクラスに帰っていく。
ルイが自分のロッカーを開けようとすると、何か便箋のようなものが隙間に差し込まれているのに気づいた。
(まさか!)
封筒を開けると、手紙が出てくる。
手紙には以下のようなことが書かれていた。
「今朝の件について話そう。夕食の後、寮の2階休憩室で」
文章の後には、ハウ家の家紋を模したサインが記されている。
(ハウ先輩、スキルをシェアしてくれるってことか? 意外だな。今朝の感じだと断られるかと思っていたが……)
ルイはしばし手紙に目を落として考えこむ。
(まあ、いいか。これでシェリルの粛清を生き残る算段はとりあえずついた)
ロレッタ・ハウのスキルをこの段階で手に入れることができれば、今後のエピソード進行がかなり楽になる。
場合によっては、ダーク・プールの活動に関与できるかもしれない。
夕食後、ルイは手紙の指示通りロレッタの指定する場所へと出向いた。
ロレッタはしごくあっさりと魔法トレードに応じる。
二人は
(さて、問題は椿とのことだな)
ロレッタと別れた後、自室に戻ったルイは考えを巡らせる。
椿は本人も言うように接近戦仕様のスキルを得意とするキャラクターだ。
一方で、ルイの影魔法はトリックスター系のスキルが多い。
特に現状ルイは最もレベルの高いスキル
椿の接近戦仕様のスキルとは決して相性がよくない。
(というか、ヒロインなのに祐介より俺を優先していいのかよ。しかも放課後練習って椿ルートの一端じゃ。確か好感度が30以上になると、椿の方から誘いがくる……。待てよ? 好感度?)
【シェア&マジック】においては魔法をシェアすればするほど、ヒロインの祐介に対する好感度が高くなる。
もし、ルイにもその法則が適用されるとしたら?
ルイは部屋に備え付けられた鏡を見て、ステータスを調べる。
――――――――――――――――――――
【ルイ・クルス】
魔力 :125/550
火属性:LV2
水属性:LV2
雷属性:LV15
土属性:LV9
闇属性:LV182
――――――――――――――――――――
ステータス表記のうち、【ルイ・クルス】に視線を集中させる。
そうすれば好感度という項目が現れるはずだった。
(なんで思いつかなかったんだ。ルイの特殊パラメーター好感度を見れば、ヒロインがどの程度俺のことを嫌っているのかなんて丸わかりじゃないか)
そうして、ステータス画面を操作したところ、実際に現れたのは好感度ではなく、嫌悪感であった。
――――――――――――――――――――
【ルイ・クルスへの嫌悪感】
御門椿:−32
シェリル・ローレンス:5
ロレッタ・ハウ:−10
如月千草:0
〜〜〜〜〜〜〜〜
――――――――――――――――――――
(マイナス? 嫌悪感がマイナスってことは逆に好感度になってるってことか?)
だが、そう考えれば辻褄が合う。
椿がやたら世話を焼いてくれるのも、ロレッタがスキルをシェアしてくれたのも、嫌悪感がマイナスになって逆に好感度が上がったからだ。
いったいどうして嫌悪感が好感度に逆転したのかはわからない。
だが、一つだけ確かなことがある。
スキルをシェアすればするほど、ヒロイン達からの好感度は上がる。
この【シェア&マジック】において天城祐介に適用されるゲームシステムは、転生したルイにも適用されるということだ。
その証拠にメインヒロインの中では、たくさんスキルをシェアした椿の好感度が最も高く、一つだけスキルをシェアしたロレッタの好感度が2番目に高い。
そして、まだスキルをシェアしていないシェリルにおいては嫌悪感がプラスになっている。
となれば、やはりルイがこれまで行ってきた施策は正しかった。
基本的にヒロイン達の嫌悪感が低ければ、ルイの死亡フラグは立たないのだから。
金曜日の放課後。
ルイは約束通り椿と放課後の魔法練習をするべく中庭を訪れていた。
渡り廊下を通って、中庭にたどり着くと、かくしてそこに椿はいた。
ルイの姿を見つけると、パッと顔を明るくする。
「ルイ!」
「ごめん。待った?」
「ううん。全然。私も今来たところ」
溌剌とした瑞々しい表情で嬉しそうに手を振る椿。
こうして見るとどこからどう見ても、気になる男子に声をかけられてはしゃいでいる女の子そのものであった。
なぜ今まで気付かなかったのか不思議なくらいだ。
椿はルイのことが好きなのだ。
そうとなれば、この練習に参加する意義は大きい。
ヒロインとの練習を上手くこなせば、好感度がさらに上がるからだ。
椿の好感度が上がれば上がるほど、死亡フラグの余地は消えるし、さらに言えば椿の行動が変わって、シナリオが変わる可能性も出てくる。
そうなれば、他のヒロインや祐介、その他キャラクターによって立てられる死亡フラグにも変化が見られるかもしれない。
つまり、椿がルイの死亡フラグを折ってくれるかもしれない。
実際、椿は絵に描いたような幼馴染キャラ。
その献身性には定評がある。
どんな時でも主人公の側で支えてくれるキャラだ。
特に主人公が負けたり落ち込んだりしているときにそっと寄り添ってきて励ましてくれるのである。
どんな時にも支えてくれる。
将来、ルイにとってもっとも必要な助けではないだろうか?
「それじゃ、早速だけど練習始めるよ」
「うん」
ちなみに各ヒロインにはそれぞれ主人公と魔法を練習するパートがあり、それぞれによって伸ばせる分野は様々だ。
椿の場合、伸ばせるのは連動型ビルド。
魔法のビルドにはいくつか種類があり、ミリアが行ったスキル
一方で、椿との練習によって促されるのは連動型ビルド。
一つのスキルを発動してから、もう一つのスキルを発動するまでの動作をいかに澱みなく行えるかを高めるのだ。
「ルイ、接近戦において大事なのは一つの動作からもう一つの動作までをいかに澱みなく行えるかだよ」
「連動型ビルドってやつだね」
「そう。まず私がお手本を見せてあげるね」
椿は木刀を構えて、魔法を放つ準備をする。
ルイも木刀で椿の攻撃を受ける構えをとる。
椿が
ルイはあえて
椿の初動をつい見送ってしまう。
椿が木刀を降り出したところでようやく体が動く。
かろうじて椿の胴払いを受ける。
そのまま反撃に転じようとしたところで、椿の次のスキルが飛んでくる。
追討ち、武器外し、必中。
全部で4つのスキルを連続で放った。
その間、ルイは受け身を一つしか取れない。
このように連動型ビルドを行えば、相手を手数で圧倒できるのだ(ちなみに連動型ビルドには魔力を節約する効果もある。例えば、椿の放った4つのスキルは本来魔力を合計10消費するが、連動すれば魔力2で全て放てる)。
「どう? 連動型ビルドの威力わかった?」
椿は吹っ飛ばされたルイを引っ張って起こしながら言った。
「ああ。接近戦をする際には必須だね」
「それじゃあ、ルイも連動型ビルドやってみよっか」
「うん」
ルイはすでに連動型ビルドに使うための素材スキルを用意していた。
炎剣LV1、水剣LV1、雷剣LV1、土剣LV1、闇剣LV1。
それぞれ新たに魔力を注ぎ込んで開発したスキルだ(LV5までは魔力を注ぐことで獲得できる)。
本当は影魔法以外になるべく魔力を使いたくなかったが、椿の好感度を獲得するには仕方がない。
スキルが剣ばかりなのは、同じタイプのスキルの方が連動しやすく、ビルドした際の効果も大きいからだ。
逆にタイプの違うスキルで連動型ビルドを狙っても、捗らない上、ビルドした際の効果も薄い。
むしろ、それぞれのスキルが弱くなりがちになる。
「んじゃ、いくよ。闇剣」
ルイが木刀を巻藁に向かって振ると、巻藁に闇がまとわりつく。
人間がそれを受けると、視界が暗くなる状態異常にかかる。
ついで、炎剣を放つ。
巻藁に火花が立って一部が焦げる。
すると新たなコードが出現して、ルイの体の中に入っていく。
連動型ビルドに成功した証だ。
ルイは連斬LV1を覚えた。
「なんだ。ビルドできるじゃない」
椿が言った。
「今みたいに、同じタイプのスキルを意識して連続して使うと、連動型ビルドが起こりやすいよ」
「へえ。そうなんだ」
知っているけど、一応今、知ったようなていで応じる。
「他に剣技系の魔法スキルはある?」
「水剣LV1と雷剣LV1、土剣LV1」
「それじゃ、その3つも連動させていこっか」
「よっし、どんどんいくぜ」
ルイは爽やかに答えて、椿との特訓に打ち込んだ。
ルイの練習が終わると、その後は椿の影魔法、
椿も椿で
数日後。
A組とB組は合同での実技演習に臨んでいた。
その日の実技演習は、奇しくも連動型ビルドが主題だった。
ルイからすれば、椿との練習の成果を発揮するまたとない機会である。
「この授業ではスキルの連動型ビルドを学ぶことになる」
担当教官であるブラウンが言った。
「スキルの中にはあまり強力には思えないスキルがあるだろう。だが、連動型ビルドで束ねることで強力な威力を発揮することができる。スキルの中には相性のいいものと悪いものがある。相性のいいスキル同士で束ねるビルドを行えば、強力なビルドとなることもある。逆に相性の悪いスキル同士で束ねるビルドを行うと齟齬を起こして弱くなってしまうことになる」
ブラウンは連動型ビルドの実演を行った。
異なる種類の魔法を連射して、連動型ビルドの威力を生徒達に実感させる。
「さて、それじゃあ実際に君達にもやってもらおうか。そうだな。まずは天城」
「はい」
「君はすでにLV5の連動型ビルドに成功していたね。みんなの前でお手本を見せてあげてくれないか」
「了解っす」
祐介は前に出て、連動的に向かって魔法を放つ準備をする。
連動的は連動型ビルドのクオリティを測定することのできる的だ。
普通の的とは違って、0.5秒以内に連続で魔法を放たないと点数が付かない。
スキルの威力や単発での発動速度よりも、いかにスキルを連動させているかが重要になるというわけである。
「いくぜ。炎弾」
祐介は炎の弾丸を放った。
続いて、水弾、雷弾、風弾、光弾。
的はヒット判定を繰り出し、5回連続でヒットが出たことを告げる。
だが、次に放った闇弾にはヒット判定が出なかった。
「ありゃ。やっぱ5点が限界か」
祐介は残念そうに頭をかく。
「何を言っている。この時点で5点を出せれば十分だ」
ブラウンは呆れたようにそう言った。
「それじゃあ、せっかくだしもう一人くらいやってもらおうか。そうだな……」
「はーい。はい。はい。自分がやりまーす」
ルイがここぞとばかりにアピールする。
「う、うむ。じゃあ、ルイにやってもらおうかな」
ブラウンは若干、不安げに許可を出す。
(やはり食いついたか原作ルイ)
転生ルイは体のコントロールの効かなくなる中、心の中で独りごちた。
(だが、今回は準備万端)
――――――――――――――――――――
【ルイ・クルス】
スキルリスト
→
→
→
〜〜〜〜〜
→連動・剣:LV17
――――――――――――――――――――
ルイは授業の前にステータス画面を操作して、連動型ビルドで生成したスキル以外に
LOCKは当然、スキルが使えないようにするためのシステムだ。
シェアする魔法が増えるにつれて煩雑化するゲーム画面をシンプルに整える、あるいは誤動作を防ぐために備えられた機構だが、今回は原作ルイの行動をコントロールするために利用している。
(原作ルイは基本的に横着な性格。実技授業のためにいちいちステータス画面を操作するようなマメなことはしない。これで授業の目的に沿ったスキルを使うことができて、意味のない舐めプはできないはず)
ルイが前に出たことで椿の周りの女子達が口々に噂を始める。
「あの人大したことなかったよね」
「ねー。
すると椿が烈火のごとく擁護し始める。
「勝手なこと言わないで! ルイは大したことなくなんかないよ。本当はすっごく優秀なんだから」
「……どうしたの椿」
「前まであんなにそっけない態度取ってたのに」
「はぁ? いつ私がルイにそっけない態度取ったっていうのよ。私がルイを嫌う理由なんてないわよ。いい加減なこと言うと許さないわよ」
ルイは的の前に立って、剣を抜く。
(連動LV17)
炎剣、水剣、雷剣、土剣、闇剣、そしてさらには椿のスキル、
そして2周目までこなしてみせ、17連撃を叩き込んだ。
ルイの華麗な連動ビルドに生徒達も湧き立つ。
「17連撃!?」
「ウッソだろ!?」
「うむ。文句なしの最高点だ。ルイ・クルス。さすが
「フハハハハ。どうだ。祐介。これが連動型ビルドの力だよ」
「さすがはルイ。あなたなら絶対できると思ってたわ」
感極まった椿は、飛び出してルイの腕に抱きついてくる。
祐介も流石に悔しさを滲ませた表情をする。
「こんにゃろ。なかなかおもしれー奴だなルイ」
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