第9話 変わるシナリオ
講堂に集まった大勢の生徒に対して壇上に立った偉い人が演説をしている。
魔法学園の入学式に参加しながら、ルイは先ほどの椿の反応について考えていた。
(俺はなぜあんなことを。それに椿は……)
ルイの放った一言「よお、椿。そろそろ俺と結婚する気になったか?」は、【シェア&マジック】において実際にルイが放つセリフだ。
それに対する椿の返答には3パターンある。
1、唖然とし、呆れてものも言えないといった顔をして苦々しげに皮肉めいたことを言う。
確か「あなた何にも知らないのね。あなたのお父様が私に対して何をやったのかも」みたいなセリフだ。
その後は特に何事もなく別れて入学式のシーンに移る。
2、激昂して、その場でルイに勝負を挑む。
その際は「貴様、私をあんな風に
この場合、戦闘パートに突入し、ルイと椿で魔法バトルになる。
もし、ルイが負ければルイはダメージ量次第では死ぬことになる。
椿が負ければ、その後、第二ラウンドが開始。
祐介とルイの戦いになり、プレイヤーはあわよくば椿からの好感度アップと魔法シェア・ビルドの機会を得る。
3、憎悪に満ちた表情で無言でルイに斬りかかる。
この場合、戦闘パートすらない。
ルイは死亡。
凄惨な惨劇が起こり、ゲームオーバー。
椿は学園を退学し、祐介は何がなんだかわからないまま椿と別れることになる。
これが【シェア&マジック】における入学式の椿・ルイの分岐イベントだ。
これまでこの世界ではゲームのシナリオ通りにイベントが起こった。
ルイが椿に婚約を断られ、そのことで逆恨みしたゼノンが椿誘拐事件を起こす。
椿は主人公天城祐介によって救出され、祐介は魔法学園入学までの間、御門家で休暇を過ごす。
にもかかわらず今回のイベント。
椿のあの反応、顔を赤らめ泣きながらルイをビンタするといった反応。
あんなシーンは原作にはないものだった。
(どういうことだ? 俺が椿を助けたからシナリオが変わった?)
考えてみるものの答えは出ない。
(……まあ、いっか)
処罰が斬首からビンタに大幅に軽減された。
それだけで十分儲け物だ。
それに、ルイには困惑している暇はなかった。
二人目のヒロイン、通称【氷の女王】シェリル・ローレンスが壇上に立って在校生代表として、演説を行なっていた。
ルイを死亡へと導く新たなフラグが立とうとしていた。
化粧室に駆け込んだ椿は、鏡を前にしてずっと泣き腫らしていた。
入学式の拍手が聞こえてきた頃、ようやく気分は落ち着きを取り戻していた。
(はあ。入学式サボっちゃったな)
祐介によって山賊から救出された後、椿は両親によって保護された。
御門家の当主は、クルス家にひどく立腹していた。
娘が誘拐されたというのに、ゼノンは何かと理由をつけて協力を拒否した。
その上、調べてみると山賊達は昔からゼノンと懇意にしている連中だという。
「もうこんな領地に2度と来るものか」
椿の両親はそう言って憤慨していた。
けれども椿は知っていた。
椿を誘拐したのがクルス家の者である一方、椿を救ったのもクルス家の者であることを。
休暇中、椿はずっとそのことに悶々としていた。
(ルイは私を助けてくれた)
だが、それはつまりルイは父親に逆らったということではないのか?
もし、椿を助けたことでルイがあの怖いお父さんから折檻を受けているとしたら。
いや、それだけじゃない。
彼はずっとあの家に縛られて、今後もずっとゼノンの犯罪行為の清算をさせられるのだとしたら?
(そんな。そんなのって)
若干15歳にして
けれども、彼の才能は、もっぱらヤクザ者の父親のために使われるのだ。
(そんなのおかしいよ)
だが、だからといってどうする?
──無理に理解する必要はないと思います──
──もうクルス家に近づいちゃダメだよ──
ルイ本人がそう言ったのだ。
運命を受け入れる彼に対し、椿にいったい何ができるというのか。
ましてや婚約を断った何の関係もない椿に。
だが、椿には割り切ることができなかった。
家に帰っても、ルイのことがずっと頭から離れなかった。
山賊から助けてくれた時に優しく抱きしめて声をかけてくれた彼のことを忘れることができなかった。
(ダメ。どうしてもルイのことが気になる)
そうして悶々とした時間を過ごしながらも、椿の心は少しずつ癒えていった。
休暇中、御門家に滞在することになった幼馴染の天城祐介。
飾り気のない彼の態度が椿の救いになった。
ルイのことを忘れるように祐介と過ごしているうちに休暇が終わった。
なのに……。
ルイは再び椿の前に現れた。
それもあんなことを言うなんて。
「よお、椿。そろそろ俺と結婚する気になったか?」
椿の心は激しく動揺した。
ずっと話したいと思っていた、けれどももう近づいてはダメだと思っていたルイの方から話しかけてきてくれた。
それと共にもはや望むべくもないと思っていたルイとの結婚、しかもそれをルイの方から持ち出されて、気持ちがいっぱいになってしまい、ついルイの頬をビンタしてしまった。
椿は再び洗面所の前から動けなくなる。
(もうわけわかんないよ。ルイ、何を考えているの? どうしてあんなことを言うの? どうして私のことこんなに無茶苦茶にするの?)
椿が鏡を見ると、ステータスが表示される。
するとシェアした魔法のレベルが変化していた。
――――――――――――――――――――
【御門椿】
――――――――――――――――――――
(あ、またレベル上がってる)
それだけで椿は胸が熱くなり、またルイのことを考えて悶々とするのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます