第26話 放課後の約束
「ッシャー!!!」
「ナイピ翔くん!!」
「絵里はナイバッチ」
「ありがと」
野球の学年別決勝はコールド勝ち。
最後に投げた球は154km/h。
俺は雄叫びを上げ、激しくガッツポーズし、走って抱きついて来る絵里をキャッチする。
ちなみに絵里は3打点猛打賞でクラッチヒッターぶり遺憾無く発揮し、チームの勝利に大きく貢献した。
「旦那、ナイピッチ」
「2打席連続場外ホームラン?
で、いいのか?
それもすげぇな!」
「サンキュ」
何故かベンチにいる英玲奈、海ともハイタッチ。
「やっぱり美女がいるとモチベーションが違うねー、いや眼福眼福」
野球部同期にして、クラスメイトの輝こと阿部輝は声を踊らせる。
わかる、マジわかる。
絵里がセカンドにいた時、甲子園でも守ってくれって思ったもんな。
「アンタ活躍してたっけ?」
「してましたけど!?俺も3打点!」
「記憶にない、そんとき私達いた?」
「いたよ!ナイバッチって言ってたよ!」
「?、いや、ガチで記憶ないわ」
走者一掃タイムリーで忘れるのは流石に酷くないですかね、英玲奈さん。
「俺の活躍に上書きされてしまったようだな」
いや、英玲奈は悪くないな。
悪いのは俺だ。
俺のスター性が凄すぎて周りの活躍を無かったことにしてしまうんだ、今も昔も。
「相棒をモブ扱いすんじゃねぇ!」
俺以外は全てモブ、それが俺の野球だ。
「スポーツサングラスかければモブっぽさなくなるんじゃない?」
おいおい、スポーツサングラスなんて中々似合うやついないぞ。
「どう?」
「不審者」
英玲奈さん、貴方は少しオブラートに包むことを覚えましょう。
「んなこと言って、お前はどうなんだよ、椎葉!」
「どうよ」
スポーツサングラスは人を選ぶが英玲奈は似合ってしまう。
うーん、100点。
いや、ウインクもかわいいから120点。
「く、悔しいけど可愛い!」
「素直でよろしい、そうだ!」
「よく頑張ったね」
輝は言葉では悔しそうにしながらも素直に褒める。
言うまでもなく、顔はニヤニヤだ。
英玲奈はちょっと背伸びをし、頭を優しくナデナデすると満面の笑みを向ける。
こいつ、男を落とすカリスマか何かか?
「相良、俺英玲奈推し!」
「チョロすぎて草」
海はそう言うがこれで落ちない男がいるとしたら知りたいものだ。
「お前ら今日放課後暇?」
「聞いてすらないしw」
めっちゃ聞いてたよ、聞きながら片付けしてた。
なんならチラチラ見てた。
「俺もいけんの!?」
「あぁ」
「絵里〜」
「暇〜」
「英玲奈と海は?」
「どこ行くんだ?」
「コンビニでなんか買って、駐車場で食う」
「美女とコンビニ!俺が憧れてたシチュ!」
このシチュエーションは誰でも一度は憧れたことがあるだろう。
ちなみに俺もある。
俺は小学生の時に柚葉で叶えている、あれはよかった。
一生の思い出だ。
「俺のおかげだな、奢れ」
「はい、神!」
男の満面の笑みでの敬礼は全くいらないどころか、失せろ案件だが神と呼ばれるのは悪くないな。
「キッモ、アンタの妄想力どうなってんの?
まさかそんなことでシコってんじゃないでしょうね、やめてよね、私では」
あれ?英玲奈、もしかして輝のこと苦手というか嫌い...?
「そうか?アタシは良いシチュだと思うぞ」
「水野、お前分かってんな!」
「こう見えて、アタシ、漫画とか結構読むからな」
「マジか!ブルーボックスよくね?」
「お前、マジわかってんな、月曜毎日読むか?
アタシ、毎号買ってんだけど」
「俺もだぜ、そうだ、交代交代で買おうぜ、来週から」
「オッケー、助かんぜ」
ほぼ初絡みでここまでの関係になるのは稀だぞ、頑張れ、輝!
「あれ?カイと阿部良い感じだね」
「ここから付き合ったりしてね」
「友達から恋人にって、やつだね」
「めっちゃアオハル〜」
「こういうの好き〜」
英玲奈と絵里は楽しそうに声を踊らせる。
ホント好きだな、恋バナ。
「絵里は少女漫画派だからな」
「じゃあ、スイーツとか好きだ」
「毎月買って読んでるよ、しょーくんも読んでるんだっけ?」
「七瀬が買ってくるからな、今月号の雨と雪は良かったな」
「めっちゃわかる!あの切なさが凄い良いんだよ!」
雨と雪はリビングのテーブルに置いてあったのを読んでハマって、七瀬に借りて一気読みして、夜に語り合ったっけ。
ああいうすれ違いのラブストーリー好きなんだよな。
「私も読もうかな」
「1巻からあるから貸してやるよ」
七瀬のだけどな
「ありがと」
「どういたしまして」
「ラインしとくわ」
「おけ」
俺は七瀬にラインした。
返信はスタンプでオッケー。
「おつかれ、見てみ」
「燃えて来た!」
「ぜってぇ取ろうぜ!」
「頑張ろ〜」
「おー!!!」
教室に戻ると机に座っていた楓が黒板見てみと促す。
俺たちのアドレナリンは湧き上がる。
野球とバスケで優勝すれば、総合優勝。
つまり、豪華景品ゲットだ。
絶対に負けられない戦いがここにはある。
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