第25話 復活

「出てくるかな」

「どうだろうな」


野球までは時間がある。

俺は家族とあや姉達のバレーを見ていた。

ここまであや姉はベンチに座って、ビッチ先輩達を応援している。


────────────────────


「あやせ、今からいける?

もうセーフティリードだし」


試合ももう終盤。

私達の勝ちは揺るぎない。

新凪は私に視線を合わせた。


「うん」


私は頷き、ジャージのファスナーを下ろす。

あぁ、緊張する。

怖い。

怪我した瞬間の恐怖が蘇って、足が異様に重い。


「しょーくん、ななちゃん」


立ち上がって、アップをする私を心配そうに見つめる2人。


私はお姉ちゃんだ。

下の子達に心配なんてさせちゃいけない。


「きっと大丈夫、私は大丈夫」


私は軽くジャンプを繰り返す。

よし、恐怖はあるけど、痛みはない。


「行ける」


呼吸を整えてから

新凪に合図を送る。


「ピンチサーバーお願いします」

「わかった、あやせ、行ってこい」

「はい」


私達の担任はバレー部顧問。

私はゆっくりと歩いて行く。


「あやせなら絶対大丈夫、頑張れ、絶対自分に負けんな」

「ありがと」


ボールを渡しに来て、ギュッと握手を交わしてくれた新凪。

私は微笑み返す。


「ふぅ」


ボールを手に置き、目を瞑って呼吸を整える。

こんな緊張するサーブは産まれて初めてだ。

インターハイでも春高でも日本代表でさえ、全く緊張なんてしなかった。

私以外に決められる選手はいない、いないから皆私に期待して、私は期待に応えて来たんだ、私は最強だって思ってた。

でも、今はそんなこと思えてない。

どうしたらいいんだろう。


「頑張れ!あや姉!!!」

「スーパーサーブ決めちゃって、あや姉!」

「あやせ!パパが見てるぞ!」

「ガンバだよ!あやちゃん!」


家族の声援が響き渡る。

皆の目には涙があった。

やばい、泣きそうだ。


「ふぅ」

「行ける」


もう一度呼吸を整えると不思議な感覚に陥った。

粉々に砕かれた自信がまるで再生するようにみなぎって来た。


「キタ!」


キュッ、キュッ


助走をつけるとシューズの擦れる音が鳴り響く。


流石、新凪。


助走だけでわかったみたいだ、私の状態が上がったことが。


「あや姉...」

「あやせ...」


ジャンプした瞬間、ななちゃんとパパの声が入ってくる。


「行けあや姉ぇぇぇぇぇぇ!!!」


いつも1番大きな声で応援してくれるのは...

そう、大好きなしょーくん。


ありがとね、泣きながら全力で応援してくれて。


見てて、あや姉、度肝抜くから。


「フッ!」


思い切り腕を振り切る。

申し分ない感触だ。

まだ全盛期には程遠いけど、まだ時間はある。


「ッシャー!!」

「サービスエース!!」

「あやせ!あやせ!あやせ!!」


しょーくんとななちゃんの雄叫びが響き渡ると会場にあやせコールが自然発生。

これが私が出る試合だ。

私が出れば勝手に観客は私の味方になってくれる。


「SHOWTIME START」

 

マッチポイントまであと2点。

ボールを受け取った私は微笑み、走る。


「おぉ!」

「やっぱり相良先輩やべぇ!」

「完全復活じゃん!」


二本連続サービスエース。

スピードはまだまだだけど、コントロールは全盛期に近い。

練習試合までに微調整だ。


「ッシャー!」

「やった」


4連続サービスエース達成。

私は雄叫びをあげ、しょーくん達にピースした。

皆はピースを返してくれた。

これで大丈夫だ、安心してプレーできる。

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