巡り巡って己がため

黒片大豆

ここは小さな町工場。社長はどうやら電話中のようです……。

『昨日の話は、無かったことにして頂きたい』

「えっ、昨日は、今年度も契約更新って」

『オタクの部品、他の会社の下請けが作れるってさ』

「そんな馬鹿な」

『だから金輪際の取引さ。経費ばっかかかる金食い虫の、汚い町工場とはこれで取引終了♪』

「その言い方は、あんまりでは」

『はっ!? もう油臭いあんたの会社と手を切れて、オレも清々してるんだ。うちみたいなエリート会社には似つかわしくないんだよ、じゃあね』


 がちゃん。

 ツーツーツー。


「……」


 ぷるるるるる。

 ガチャ。


「はい、○○加工です」

『お世話になってます工場長。✕✕です』

「……」

『昨日お話しした某大手会社……あ、未だ社名は明かせないのですが、是非ともとのことで』

「……」

『御社のパーツを見せたら、すぐさま飛び付きましたよ。『やっと他で作れる』って喜んでました』

「……」

『価格は厳しめ提示してきましたが、大手の大企業と繋がれるのは……』

「その件、ちょっといいかな」

『はい?』

「君には世話になってるので、大変申し訳ないのだが……」

「はあ」

『昨日の話は、無かったことにして頂きたい』


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