第6話 田舎から都会への上京

まず、両親と口論になった進路について少し話したいと思う。

中学の時に芽生えた〝声優〟と言う夢。


叶えたいとそう強く思った。

ただ凄く狭き門でもあることを知った。

どうしたら〝声優〟になれるのか、沢山調べて、専門学校の存在を知った。

その後、養成所に入ったりするのだが、専門的に学べる場所で私はここに通いたいと思った。

お金がかかる事は重々承知だ。

だけど本当になりたかったし、皆が大学に進学していく中、私はここで専門的に勉強がしたいと思った。


『私、専門学校に行きたいんだけど』

『何の専門学校だ?』

『声優』

『……行くのは勝手だけど、お金は出さんからな』

『なんで?お金がなかったら通えないじゃん』

『そんななれるかも分からんものに、お金なんて出せるわけないだろ』


里美と父親に頭を下げて懇願した。


『やってみなきゃ、分かんないじゃん。本当になりたいの。ここで勉強したいの』

『無理だ。もっと現実を見ろ』


涙が溢れた。

今までどんなに否定されてきてもなんとか飲み込んで過ごしてきた。だけどこの夢だけはどうしても叶えたかったから。

本当の母親にもしかしたらコンタクトが取れるかもしれない。

どうしてもなりたかったから。


『なんで、なんでわかってくれないんだよ!』


私は部屋の中に閉じ籠った。

半日はそこから出てこなかった。

しかし、父親と里美が私に声を掛けてくる事はなかった。

もうこんな家、家じゃない。

私には1円も払いたくないのだ。

糞だと思った。親なんて糞だと、本当に思った。

周りの幸せな家族が羨ましかった。

普通に夢を応援して貰えて、進学の事も考えて貰えて、助けてもらえる。


後に、うちにはお金がなかった事は分かった。

父親にはパチンコの浪費癖があり、あるはずもなかった。


けれど、それならそうともっと伝え方があったんじゃないかと思う。

お金がないから、奨学金等の相談も一緒に考えてくれたって良かったと思う。

そんな寄り添いあいなんてほんの少しも無かったのだ。


そんなこんなで家が嫌いになった私は、高校に入ってから殆ど寝るだけに帰る様になっていた。

こんな家を少しでも早く出たかった。

高校時代に無断でアルバイトをしてお金を貯めた。


どうしても声優になることを諦めきれなくて、私は〝養成所〟に通うことにした。

それでも年間の授業料は約30万程かかる。

その頃には何故か家からお小遣いが出る事もなかった為、私はアルバイトを入れまくっては3年間で1人暮らしができる金額も合わせ、100万円程を貯めたのだ。



正直学費の件だけで無く、お小遣いもそうだが、私は服すら満足に買ってもらった記憶もない。

里美から身の回りの何かについて必要なものを問われた記憶は無いのだ。


こちらが⚪︎⚪︎が欲しいと口にしても、そんなものは必要ないと一掃されたあの日からもう問うのを辞めてしまった私にも非はあるのかもしれないが、否定されると分かっているのに、口を聞きたいと思う人はいないだろう。

愛されてると分かっているならまだ違うかもしれないが、この時にはもう私は里美も父親も大嫌いだった。


しかし高校で、付き合った彼氏の両親は私に優しく接してくれた。

本当の両親のように、可愛がってくれた。

3人兄姉の末っ子として育っていた私の彼氏、大切にされているのは一目見て分かった。

優しいお母様に、少し茶目っけのあるお父様。

お父様は経営者をされていて、裕福だった事もあるのかもしれないが、本当の家族の様に受け入れて私と接してくれた。


私も将来こんな家庭が築けたら。そんなことを思うくらいいいご家族だった。

私がかろうじて私を保ってられたのも彼氏の両親が居たからかもしれない。

もし、私は彼氏と付き合えてなかったら、もっと別の非行の道に走っていたかもしれない。


この時問題を起こさなかったのは確実にこの家族の温かさに触れていたからだと私は思っている。



そして、私は高校卒業後、就職する道を選んだ。

理由は声優になる為。

養成所は週1の数時間。

そのお金を稼ぐ為にも、働くしかなかったから。


元々普通科の学校、求人はそんなに多いわけじゃなかった。

それでもあくまで週1回の養成所に通うことがメインだった為、平日休みのある仕事ならなんでも良かった。

進路相談室に通い、求人を探すが、多かったのは飲食店の求人。

正直、事務の仕事を探していたが、背に腹は変えられない。

私はダメ元でかなり大きい飲食店の会社と、地元に根強い求人の2社を受けることにした。


受かったのは地元の1社。

大きい会社の方が安定してる気はしたが、集団面接で、私は頭が真っ白になってしまった。

周りの目が怖かったのだ。

沢山の視線が突き刺さって、何も考えられないまま気がつけば面接が終わってしまっていた。


それでもその1社が受かった事に、私は家を出られる喜びとこれからの夢を追いかけられる事が嬉しかったのだ。

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