魔王が世界を救うまで
@tukiyobakari
第1話 魔王が現れた日、勇者が立つ日
当代の魔王、メディウムの現れた日。
今から50年前、前代の魔王オーゲオが人間族の連合国軍による侵攻により、北大陸南部の大平原カルバサにて戦死した時に魔王は来た。
すぐに
紅き雨が止んだ後、そこには多くの死者と負傷者があったが、それでも人と魔族は戦いを止めなかった。それを見たメディウムは「カルバサの大厄災」と呼ばれる
それは再び空から落ちてきたが、それは雨ではない、青と緑の鮮やかな雪だった。皆、その不気味さを感じながらもその場を離れることができなかった。それは戦場の戦士としての使命感からか、ただそれぞれの生涯で初めて見る光景に見惚れていたのか。
そして、その雪が大地とその上に有る全ての生物に舞い落ちた瞬間、天をも裂くような絶叫が響き渡った。あるモノは身体中に
ほとんどの戦士は母国に、故郷に帰れなかった。
人間と魔族の決戦として語り継がれるはずだったこの戦争は勝者のない、忌むべき厄災日となってしまった。
この日、メディウムは古き友オーゲオとの約束により魔王となることを宣言した。
多くの魔族はこれまで
当代の魔王は、人間族からも魔族からも意志ある厄災として、憎まれ
ーあれから50年、
人間族も魔族もカルバサでの傷を相応に癒やし、人間がほとんど存在しない北大陸を除く各地で小競り合いが起き始めるようになった。
魔族ははじめメディウムがその力を使って人間族の国々へ攻め入り、彼らを
魔王は王城と各種族の城や街、村落を行ったり来たりするばかりで一度として人間と戦火を交えることはなかった。
魔族の多くは魔王メディウムに絶望した。
魔王の城にいた多くのモノは去り、
「魔王様、玉座で居眠りはおやめください。それか寝室にお戻りになられてはいかがでしょう?」
魔王の数少ない従者にして
これまでの
それでも初めは多くの種族がこの強大な新魔王に取り入ろうと、また
その結果、200をゆうに超える部屋数を持つこのミニマル城の従者は今やたったの21人であり、更にそのほとんどが他種族の動きを
今は日々の調理とその
フルクサスはメディウムに何度か
「全ての従者を帰らせて、代えて頂いてはいかがでしょうか」と
「今、従者を帰せば代わりが来ることは絶対にないし、各種族のメンツを
そんな彼女が魔王の居眠りを
魔王はまず目を開けぬままに
「寝てない」と答えてまた目を閉じる。それを見てフルクサスの髪と尻尾の毛が逆立つ。近くにいれば何かがブチンと切れる音が聞こえたかもしれない。
「いえ、魔王様は本日、朝食を取られてその玉座にお座りになってからこの瞬間までお休みになっておりました」その顔は怒りで
「貴君は、 私が目を閉じて
魔王はそれらしく言葉を
魔王のマヌケないいわけにも彼女は
「もしよろしければ目を閉じてどの様な業務をなさっていたのかお聞かせください。今日の朝から真昼までですから、とても語り尽くせるものではないとは存じますが」正確な時間はわからない。高そうな時計は全て売ってしまったし、止まったものは全て捨ててしまった。全てゼンマイ時計だったからネジさえ巻けばいくらでも動くのだが、そんな知識を持つモノは場内には魔王も含めて誰もいない。
このフルクサスの問いに魔王は顔色一つ変えずに返す。
「うむ。先のカルバサでの一戦から10年、人間族も魔族も徐々に力を取り戻しつつある。『相手の準備が整うより前に先手を打ちたい』と双方が考えていることだろう。ここで2つの問題があってだな。1つ目は人間族はどの様な手を使ってくるかということだ。前回の様に大軍勢での侵攻をすれば返り討ちになるのは目に見えている。では人間族はどんな手に出るかということだ。2つ目だが」
当然ながらこれはメディウムが居眠りの間に考えたことではない。この10年間、メディウムが思い悩んできた
「しかしながら、魔王様は先ほど『ハチミツを食べたい』などと
「え、うそ!?」
「はい、嘘です」
今度は魔王の方が顔を真っ赤にした。今日の魔王は青髪の人間の青年の様な姿に白いローブを
魔王は、その日の気分によりその姿を変える。そしてそれを常に解くことがないから、誰もカレの種族も、性別もわからない。そして
加えて最近では人間族に化けることも多いことから、一部の魔族からの評価が最悪なのが手に負えない。
「貴君はこ、こ、こんな居眠りなんてどうでもいいことで私に恥をかかせてどうしようと言うのだね?」魔王が
「ただでさえ周囲からその
「皆から疑われているのか。それは
「落ち着いてください。その様に軽々(けいけい)な判断をされては魔族全体が混乱します。それに今、その様なことをおっしゃられても各種族の王は
「あああ、聞きたくない。午後からは皆、
またまた
バンッー!!
と玉座の大扉を開いて
(何を騒がしい!魔王の御前と知ってのことか!?)
といつものフルクサスなら言っていただろうが、当の魔王が手のつけられぬ程に
「魔王様ッ。本日明朝、南の大陸の小国フロッタージュにて勇者一行の
「
「へ?勇者のですか?」
「いや、貴君の名を聞いている」
あっけに取られる
「へ、へえ。シアンと申しやす」
「貴君、まずは南大陸からの長旅ご苦労であった」
「身に余るお言葉、ありがとうございやす」
(そこぐらい名前で呼べばいいでしょう?)と従者はツッコミたいところだが、シアンは真面目に応じる。
「さて先ほどの内容について1つ聞いておきたいのだが」
「な、何なりと聞いてくだせえ!あっしで答えられることなら何でも答えやす!!」
このやり取りで評価されれば、自身の出世、果ては種族の繁栄につながると信じる村男の
「それでは貴君に聞こう」
シアンなゴクリと
「貴君の言った勇者だっけ、だったか。それはどのようなものか教えてはもらえまいか」
フルクサスは身体中の血が
「シアン様ァ!!」
「へへへへ、へいぃぃいい!!」
フルクサスの声に、横にいたシアンが飛び上がった。
「誠に
「ははははは、はイィッ!!喜んで!!!」
シアンはしどろもどろになりながら玉座の間から飛び出ていく。当然後を追うモノも待ち受けるモノもいない。メディウムはシアンが城内で迷うか、他の従者に食い殺されないか心配になった。
が、それも一瞬のこと、
「魔王様ァ、勇者が何なのか。この私が骨の
勇者が立った日。その日、魔王は魔王を辞めようとして、そしてその後、従者から死ぬ程にシバかれることとなったのだった。
魔王が世界を救うまで @tukiyobakari
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