第10話 話術

桑田先生は無事に相談部の部活紹介枠を用意してくれた。現時点で部ではないのに枠をもらえるのも、1年生が紹介をするのも初めてということで、やはり桑田先生パワーはなかなかあったのではないだろうか。感謝。


部活紹介は4月も中旬を過ぎた土曜日だ。この時はまだ完全に週休2日制にはなっていなくて、第2、第4土曜日が休日になる。授業は3限までで終わり、4限目が部活紹介だ。興味がない人は帰ってもいい。とはいえ、大っぴらに大勢の一年に訴えかけられる機会は多くないし、活用をさせてもらおう。


さて、今回のプレゼンではPowerPointやパソコンの使用ができないため、この身一つで行くことになる。早くパソコンがほしい。めっちゃ不便。運動系や楽器を鳴らす系統でもないため、実演ができず、とても不利な状況だ。


頭をよぎったのはスティー〇・ジョブズ。かの有名なリンゴ企業の創始者だ。彼はスピーチがうまい。うまい裏には練りに練った言葉と間合い、資料がある。そしてそれを何時間も練習をしたそうだ。そして、アイコンタクト、姿勢を開き、手を使って大きくプレゼンするのだ。社会人の時にはこれを意識してやっている時間はなかったが、それでもプレゼン自体は得意だったほうだ。練習もしたし、なんとかなる!持ち時間は5分。さて、久しぶりのプレゼンだが、楽しんでいこう。


「--次は、人生相談部による発表です。お願いします。」

講堂の壇上に立ち、マイクを持ち、ゆったりと前に進み出る。壇上ギリギリのところで、話し始める。あえてゆったりと間を取ることで、注目を集める手法だ。セミナーで突然一分間わざと黙った人もいた。なかなか人の注目が集まる中での沈黙は勇気のいるものだ。


「一年の八代ケイタです。今日は相談部の初期メンバー募集に来ました。隣にいるのは初期メンバー入りをしてくれる神原アズサさんです。」

アズサには無理をいって壇上にあがってもらっている。彼女がいるだけで、男子の注目は集められる。ちなみに、ユキにはにべもなく断られた。シャイらしい。


「相談部って何?って皆さん思いましたよね。まだ僕らはこの学校に入学したばかりで、色んな不安を抱えてませんか?そして、これから先も色んな選択が皆さんを待っているでしょう。でも、その選択一つ一つが違う未来につながっているって想像できますか?」


一旦間を置く。大きく手を広げて、続きを話し出す。

「僕らの時間は有限です。高校生活なんてたったの150週間しかないんですよ?悩んでいる時間なんてもったいないと思いませんか?悩むことは僕らの成長には大切なことです。しかし、悩むあまりに一歩を踏み出せず、目指していた未来が遠ざかる――そんなことにならないように、僕らは皆さんの相談に乗り、解決の手助けをしたいと思っています。あくまで、手助けなんです。」


講堂にいる人たちみんなを見渡し、手で指し示す。

「最後に決めるのはあなたです。それでも、一緒に活動をしていくことで、自分自身の人生の生き方というのが見つけられるんじゃないかと思って、この部をつくろうと決めました。部に入りたいと思ってくれた方も、興味がない方も、今後、こんな部があったなということを頭の片隅に置いておいてください。」

さて、ちょっと学生らしくなくなった感じがするので少し砕けた感じでいこう。


「ということで、初期メンバーと相談者募集中です!ちなみに、5人集まらなかったら部になりません!ありがとうございました!」


最後のはセオリーにはないが、とっつきにくいやつと思われても入部をしり込みするかもしれないので入れてみた。後ろから拍手が起こる・・・ってアズサかよ!それにつられて、観衆からも拍手が沸き起こった。まずまず、成功か。


さて、これはこれとして、地道に勧誘もしておこう。リナが入ってくれればいいんだが、彼女の場合はまさにラグビー部の同級生と結婚するという未来に関わりかねないので尻込みしてしまう。彼女の選択に任せるべきだろう。


壇上から降り、アズサが声をかけてくる。

「ケイタくん、良かったよ!すっごい良かった!きっと誰か来てくれるよ!私も声かけてみるから!」

「ありがとう。これでも必死で練習してたんだ。そう言ってもらえてよかったよ。本当に聴いてくれてた人に響いてればいいけどね。」


というか、部にならないってだけで、いつまでに5人とか期限はないよな。なんなら他の部をやっているやつも引っ張り込んで兼部とかもありだろうか。このあたりも桑田先生に確認してみよう。舞台袖にちょうど桑田先生がいた。


「先生、5人集める期限とかないですよね?兼部で入ってもらっても大丈夫ですか?」

「活動がかぶらなきゃいいんじゃないか?しかし、なんか慣れた発表だったな。」

「わかりました。はは。練習のたまものですよ。」

兼部あり、か。プレゼンにも組み込みたいワードだった。最初から決めているやつらは入部を検討する頭で聞いていない。これは手落ちだったな。口コミで行くしかない。


このプレゼンを機に、待つだけでなくこちらからのアクションも加えてメンバーを集めることにする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る